12 最強のモンスター
「ナイト大変よ、早く起きてえええ!」
「……うーん、あと五分寝かせてえ」
ミルフィの家で寝ていたら、クレアに叩き起こされる。
今日の祭りは午後だから、時間はまだ大分余裕があるはずだ。
俺は、もう一度布団にくるまる。
この世界、夜は結構冷えるんだよねえ。
「エビル村にスライムが出たのよ。早くなんとかしないと大変なことになるわ!」
「なんだ、ただのスライムかよ。頑張れ勇者。俺はもう少し寝てるから……むにゃむにゃ」
この世界にもスライムがいるらしい。
どうせスライムなんて弱いに決まってる。
最弱モンスターの代表みたいなやつだし。
「何言ってるのよ。スライムといったらこの世界最強のモンスターなのよ!」
「はあ? たかがスライムだろぉ? 大体、仮に強いやつだったら俺が行っても意味な……ちょ、引っ張るなって! いてて、分かった、行くから乱暴しないでえええ」
もっと可愛く頼まれたら俺もやる気になるのに。
なんでこうも暴力的なんだ、この勇者は。
そして、俺とクレアとミルフィの三人はスライムが出現したというエビフライ祭りでお馴染みのエビル村へとワープした。
「ちょ、なんだあの巨大なスライムはっ! いくらなんでもでかすぎだろ!」
「し、静かに。気付かれたら私たちとて助からないわ」
「はあ!? 助からないって、じゃあ何のために来たんだよ? 倒すんじゃないのか!?」
クレアが物陰に隠れながらスライムの様子をうかがっている。
町は火の海と化し、巨大なスライムのぐにょぐにょという奇怪な音が響き渡っている。
「ゆ、勇者さん! こっち、こっちです!」
「あ、昨日の変態仮面だっけ? 無事だったのね」
「正義の味方、グレート仮面です。って、そんなことはどうでもいいんすよ! 大変なんです。スライムが! スライムが村を襲って来たんですよ!」
「そんなの見りゃわかるわよ!」
少し遠くから、ライアンが手招きしてきたので合流した。
このスライムは有名なモンスターなのだろうか。
しかし、なぜこんな巨大モンスターがこんなところに?
「他の村人は? まさか、もうやられちゃったの?」
「い、いえ、それがあのスライムが向かってる先の村長の家に避難してて……」
「な、なんですってえええ!?」
スライムがゆっくりと向かう先に少し大きめな家がある。
あれが村長の家なのだろう。
あそこに人が避難してるってことは、このままじゃ危ない。
「ど、ど、どうすんだよ。勇者でも倒せないって、そんな強いモンスターじゃどうしようもないじゃないか」
「く、困ったわね。当初の予定では、スライムに襲われる前に村人を全員連れて移動魔法で逃げるつもりだったのに……」
こんなことを言ってる間に、巨大なスライムはぐにょりぐにょりと村長の家へと近付いていく。
「あーもう、ナイトが早く起きないからよっ!」
「お、俺のせいかよッ!」
「あらあら、言い争ってる場合じゃないでしょう? 落ち着いて作戦を考えましょう? ね?」
こんな時に落ち着いていられるかよ。
と、思っていたらライアンがスライムのほうへと駆け出した。
「あ、あのバカ、何やってんのよ!」
慌てて追いかける俺たち。
「この化物め、こっちだ! 我は、せ、正義の味方グレート仮面っ! き、貴様の好きにはさせ……うひゃああああ」
スライムがうろちょろするライアン目掛けて灼熱の炎を吐く。
「ったく、危ないわね、何やってんのよ! 死にたいの?」
「……ひ、ひぃい、助かった。あ、ありがとう、勇者さん」
「お礼を言ってる場合じゃないわ、奴に気付かれたッ!」
ライアンを弾き飛ばし、自らを囮にするクレア。
「ぶおおおおおおッ!」
スライムが大きく息を吸い込む。
村の瓦礫やらが一緒に吸い込まれていく。
その仰々しさは魔王よりも魔王っぽかった。
「ナイト、今のうちに村長の家にいる村人たちを遠くへ連れて行きなさい」
「はあ? 何言ってんだよ。スライムは倒せないんだろ?」
「大丈夫、私は勇者よ。やつの注意をギリギリまで引きつける。そして、タイミングを見計らって移動魔法を使うわ」
そう言って、スライムを挑発するかのように魔法を打ち込み続けるクレア。
「ちっ、そんな勝手な真似は許さねえぞ」
そういって、俺はクレアのほうへと駆け出した。
「ちょっと、何やってんのよ。相手は世界最強のモンスターなのよ!?」
「ああ、知ってる」
「じゃあ、どうしてこっちに来たのよ。魔法も使えないくせにッ!」
「そうだな」
俺は、魔法も使えない。
こんなモンスターなんかと戦いたくなんてない。
けど――。
「俺は、お前の壁だろ? 時間を稼ぐなら俺が盾になる。大丈夫、ちょっとやそっとの攻撃じゃ死なないさ……」
いつも殴られたり魔法を使われたりひどい目にあわされてるってのに何考えてんだろうな俺。
ただ一つ言えることは、こんな巨大モンスター相手に一人で立ち向かう勇者を放っておけなかった。
「ちょ、ちょっと! 何カッコつけてんのよ! 私の魔法なんかとは比べ物にならない威力の攻撃なのよ? いくら無駄にタフいあんただって、どうなるかわからないわ!」
「良いんだよ、俺は元々一度死んでる人間だ。あの時はお婆さんを助けられなかったけど、今度はちゃんと助けるから! だから、俺の後ろに隠れてろ」
俺は、クレアの前に立ち塞がるように立った。
口ではカッコつけたってのに、足が震えやがる。
「ぴぎいぃいいいっ!」
「ちょ、そんな巨体で飛び上がるとか、アリなわけええええええっ!?」
スライムが宙を舞ったかと思ったら、目の前が真っ暗になる。
俺は、巨大なスライムに踏みつぶされてしまったのだった。




