第三十話 ミッション2:哨戒任務【7】
今宵は見つめれば心の奥底の血がたぎるような満月であった。だが、シルバヌマンが現れた頃から雲行きが怪しくなり、時間が経つにつれ夜空いっぱいに暗雲が立ち込め満月をも覆い隠して行った。時折、雲間を抜ける月光が自機の双眸を碧く照らす。錆色の機油が自機の傍で横たわるシルバヌマンのシロガネ色の機皮を伝い地面へと流れ落ち、地面に落ちた油滴を中心に機油溜まりが広がって行く。シルバヌマンは十指を力いっぱい地面に突き立て必死に起き上がろうと暫くの間もがいていたが、その行為は適う事なく力尽き、顔面を機油溜まりに沈める。やがてシルバヌマンは光の粒子へと姿を変えつつ消えていった。
苦戦を強いられはしたが、スパイクロッドによる渾身の一撃がシルバヌマンの後頭部を捉え、からくも勝利することができた。
素体レベルは18になり、機体スキルは【修理】を入手した。これは名称通りのスキルで、損傷箇所を修理できる。
そして、このミッションステージのボスであるゴルドヌマンの登場イベントが始まった。
空が黒雲により暗黒色に染め上げられる。静寂を切り裂く様に豪雨が機体を激しく叩く、音を奪いに雷鳴が俺の鼓膜を激しく震わせる。それでも聞こえてくる奴の足音、北側の街道から地響きを立てて走り寄って来たのはゴルドヌマン、金色に輝く体表を持つ巨大猿の咆哮が東西の森にまで響き渡り木々を震わせる。見上げるほどの巨体で強大な膂力を有しているであろうことは目に見えて明らかだ。
先手を打ったのはトウマ機、火を噴き出しながら放たれたリヴァイア・サクトゥの右腕がゴルドヌマンの顎を捉え真下から天に向かって突き上げる。
透かさずそこへ追い打ちの左飛龍腕が螺旋を描きながらゴルドヌマンの右頬にぶち当たり真横に向かって殴り抜けた。
この好機は逃せない。両肩のAWを起動し、放出する。妖精の姿へと変わった二機のAWがそれぞれゴルドヌマンの左右の眼に向けて光弾を撃ち放つ。さしたるダメージは与えられなかったが、ゴルドヌマンの両手は己が瞼を抑え、自ら視界を塞いでしまう。
隙だらけの土手っ腹へトウマ機は太刀を突き刺した。
痛みを感じるのかは分からないが、大口を開け怒りの籠った絶叫を上げるゴルドヌマン。
俺はゴルドヌマンの背後から、トウマ機はゴルドヌマンの股を抜けて金色の尻尾に噛み付く、二機は噛み付きながら尻尾を掴み、引っ張り回して遠心力と反重力を加えた後に全てを放してゴルドヌマンを基地から遠ざける為に北に向け放り飛ばした。
これで素体レベルは20に上がり、機体スキル【修繕】を取得する。解説を読むと、このスキルは機体スキル【修理】と同等の効果を持ち、二つのスキルを同時に使用することでより効果が高くなるそうだ。
戦闘範囲外へと移動し、試しに【修理】と【修善】のスキルを使用してみた。その結果、脚部と背部の損傷率が1%にまで回復する。何度使用しても全回復にはならない様だが、これはこれで有難いスキルだ。今後も頻繁に使うことになるだろう。
後はトウマ機がゴルドヌマンを倒せばミッションクリアだ。それはもう間もなくの事になるだろう。
そう思って第一モニターに目をやると、基地の南側に敵機マークが表示されている。
ボス以外にも敵がいるのだろうか、非常に気になったので俺は単機でどんな敵なのかを確かめに向う。
そこに居たのは空飛ぶ子牛、全身赤いが、金色の鼻輪を付けている。本当に敵なのかは分からないが、敵だとするならばなんとも怪しい敵だ。
ビボルディングショットガンで子牛を撃ち落とし、落ちてきたところに食らいついてみた。
食べてみたところ栄養にはならず、代わりに【牛鬼の証】というレアアイテムになった。
そしてイベントが始まる。突如、空より牛の化物が飛来し、トウマ機とゴルドヌマンの戦いに割り込んできた。瀕死の黄金巨大猿 対 巨斧持つ牛魔王 ボス同士が戦うイベントシーンへ発展。
ゴルドヌマンの拳による連打がミノタウロス(仮名)へ何発も浴びせられるが、それがどうしたとばかりにミノタウロスは身じろぎ一つせず、お返しに巨斧でゴルドヌマンを一刀両断に伏した。
さらにイベントは続く。
巨斧を両手で掲げ勝利の雄叫びを上げるミノタウロス、その声は雷雨を収め暗雲を吹き飛ばす。そして再び満月が姿を現した。
だが、満月は当初の柔らかな色合いの黄色ではなく、魔物の血が月を染め上げたかのような赤、今は深紅の月が闇夜を照らしているのだ。
赤い満月が目に見える速度で大きくなる。大きくなるにつれ、赤い色は月の色ではなく月に描かれている魔法陣の色であると分かる。
天空に浮かぶ巨大な魔法陣、その赤い魔法陣が発光すると赤い光のベールが降り注ぎエリア全域を包み込む。
ミノタウロスの体が赤く発光、同時に先程手に入れたレアアイテムが眼前に出現し、これまた赤く発光する。
俺の視界は赤い光に埋め尽くされ、そして徐々に意識が遠のき、やがて気を失っていった。




