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童女の嫁入り (2024/4/23〜同年6/11連載・完結)  作者: 真髪芹
第7章 約束と誓いを守る為に
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第94話 美しい少女(一)

 狭依は、夢を見ていた。


 でも、本当に夢なのか、わからなかった。

 もしかしたら夢に似た現実なのかもしれないし、現実に似た夢なのかなのかもしれない。


 下がらない高熱と、治らない膿疱(のうほう)

 稔流の父からは、入院設備のある病院への転院を勧められた。でも、それは狭依も狭依の親族も受け容れられない話だった。


 神に祟られた者を、《外》に出してはならない。波多々の一族が|滅んでも、村ごと滅びるのだとしても、その滅びを《外》という広い世界に解き放ってはならないのだ。


 一方で、狭依が《外》に出たくない理由は、もっと単純な理由だった。

 ただ、醜い姿を誰にも見られたくなかった。


 救急車が来た時に、担架(たんか)で運ばれてゆく変わり果てた自分の姿を、使用人や近所の人々に見られるくらいなら、もう死んでしまいたいと思った。


 自分の命よりも、外見を恥じる心を優先する自分など、それこそ醜くて身勝手な人間なのだと、自分を責めながら。


 でも、重過ぎた。

 まだ十三歳の少女が、一族全てに降りかかるはずだった祟りを、村の全ての人間の命を、どうしてたった独りで背負えるだろう。


 狭依は、苦しみながら、自分がまだ中学生の子供だという当たり前の事を、どうか、誰か、思い出してと、叫びたかった。


 誰か……誰か。

 

 思い浮かんだのは、決して自分を選んではくれない、少年の面影。


(――稔流、くん……)




「稔流はやらんぞ。私のだ」


 不機嫌そうな声が聞こえて、狭依はのろのろとそちらに少しだけ首を動かした。


(ヒッ……)


 脅えの声は、()れた(のど)では、声にならなかった。

 狭依の目に映ったのは、恐ろしい形相の鬼女だった。全身が禍々しい赤なのに、乱れた長い髪だけが白い。


 血に染まった着物は裂けており、赤黒い血がぽたぽたと(したた)っていた。


「……ああ、この傷か? お天王様に()()()られた。私はもう、長くはもつまいよ」


 これ、と鬼女が言ったのは、一()りの剣だった。

 黒光りする片刃の直剣は、彼女自身の血に濡れていた。


「天羽々斬剣。神を斬ることが出来る剣だ。これでお前を斬れば、祟りも斬ることが出来る」


 狭依は、アメノハハキリ、という響きだけは、ぼんやりと聞き覚えがあった。多分、日本神話に出てくる剣だ。でも、どんな(いわ)れのあるものなのかは知らなかった。


 それよりも、この真っ赤な鬼が、自分を斬ると言った、その言葉にカタカタと身が震えた。


「選ばせてやろう。この剣で斬られて、祟りも病も全て断ち切り生き延びて、長い余生を神の妻としてお天王様を祀り続けるか。……それとも、何もせぬまま、生きられるだけ生きて死に、お前の苦しみと責任の全てから解放されるか」

「…………」


「この私を、鬼を、信じるか信じぬかはお前が選べ。斬られてみるか否か、今すぐ決めろ。決められぬならば、私は去る。私には、果たさなければならぬ《約束》がある。お前の迷いに付き合ってやれるほどの時間は、私には残っていない」


 もうすぐ、自分の命は尽きるのだと、この恐ろしい姿をした鬼女は言っている。


 でも、狭依には分かった。この鬼は、稔流と共に巫女舞を舞っていた少女だ。

 狭依を見上げた時の顔は、赤い色の般若のようだと思ったけれども、本当はとても美しい少女のはずなのだと。


「……き、って……」


 狭依は、掠れた声で答えた。

 鬼は、すぐにでも稔流の元へ帰りたいはずなのに、狭依を訪れた。


 稔流が狭依を選ぶことはない。稔流を愛するこの鬼が、残り少ない命の時間を、ただ狭依を殺す為に費やすとは思えなかった。


 狭依は、ただ、鬼になってしまった少女の、稔流に対する一途(いちず)な想いを信じた。


「生き……なきゃ。私は……、この村を、あきらめちゃ、いけないの……」

年端(としは)も行かぬ小娘が、よく言った」


 鬼が、少し笑ったような気がした。


「ならば、生きろ」


 鬼が剣を振りかざした。狭依はギュッと目を(つむ)った。

 怖い。でも、この鬼は、狭依がまだ童女(こども)に過ぎないということを、解ってくれていた。


 狭依の胸に、剣が突き刺さった。

 狭依は血を流しながら、意識を失った。

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