第67話 学校で怪談(六)
次。宇賀田拓。怖がり。
「何で俺がここにいるんだよ……。まだ根に持ってんのかよ……稔流怖えよ……みんな面白がってないで助けてくれよおおおおお!」
面白がられている自覚はあったようだ。
「根に持ってるって……何の事?」
「え……」
稔流が、蝋燭の仄暗い灯に下から、ぼうっと照らされながら、うっすらと笑っていた。
「何の事なのかな。教えてくれる?」
「…………」
「たっくんなら覚えているよね?……俺も覚えているくらいなんだから」
……うぎゃああああああああーーーーーーー!!!
「逃げんの無しな」
大彦が、拓を素早くがしっと羽交い締めで確保。
「参加者は途中で抜けるの禁止、っていうルール書き忘れた。トイレは先に済ませとけって書いておけばよかったな」
「トイレじゃねえしーーー!!」
拓は無事に(?)椅子に戻され、拓にとっては稔流が怪異、ということで怪談にカウントされて、次。
「えっと、俺は体験したことないんだけど」
空気を読む男・比良涼介。
「バレンタインデーの時、女子が本命チョコに『片想いが叶うおまじない』をかけるらしいんだけどさ、……チョコレートと一緒に、自分の髪の毛を入れておくんだって。恋愛もこじらせると呪いみたいだよなって、俺はちょっと怖かった。……終わり」
シンプルだ。そして稔流は既に知っている話なのだが、やっぱり関心はモテ男の大彦に向けられる。
「なーなー、それって大彦は貰ったことあるんじゃね?」
「ある。実際貰うと、こっわ!ってドン引くわ。呪われそうだからめっちゃ塩ぶっかけて捨てる。そんで、酒風呂入る」
「酒風呂って何?」
「普通に風呂沸かして、清酒を二合入れて混ぜる。塩と日本酒は邪気払いの基本だろ」
「もったいないことすんじゃねーよ!本命チョコだろ髪の毛くらいよけて食べろコノヤロー!」
「分かるように髪の毛が入ってるようならまだマシなんだよな。髪やら爪やらミキサーにかけるとか血液とか、わかんないように混入するパターンもあるらしいんだわ。だから手作りの菓子は『何かこれヤバいな』って感じる奴は食べない。塩ぶっかける」
稔流は、尋ねてみた。
「ヤバいお菓子とヤバくないお菓子って、どう見分けるの?」
「んー、勘?鳥海の直系は、代々勘が強いんだよな。資産運用は失敗したことないってじいちゃんが言ってたわ」
「すごいレベルだね。王の一族は勘がいいって本当だったんだ」
「そりゃそうよ。……コレが起こったら戦はほぼ負ける。っていうの、何だかわかる?」
問い掛けられて、稔流はうーんと真面目に考えた。
「……仲間割れ?」
「まあ近いな。一番不意を突かれるのは、《身近な人間の裏切り》なんだよ。登美長髄彦は、妹の婿の饒速日か、甥っ子の宇摩志麻遅か、とにかく身内に裏切られて殺されたことになってるだろ?まあ、うちの伝承では生き延びてるけど。……それでも、勘は磨いておいた方がいいし、二度目は無えよ。殺される前に殺す」
「…………」
稔流は、ゾクリとした。大彦が、いつもの大彦じゃない。
他の友達も思ったのだろう。その場がシンと静まりかえった。
――――違う。大王の末裔は、大王だ。
大彦は、そのような星の下に生まれた者なのだ。始めから――――
「ろうそく消していい?」という涼介の声に、一同現実に引き戻された。
今回も、空気を読む男が皆を救った。
次。本命チョコなら髪の毛入りでも食べたい波多々佐助。
「あのさー、高速道路にババアが出るって話知ってる?」
「あー、知ってるわ」
と返事をしたのは姫華だけだ。
多分、不良絡みの話題なのだろう。
「姫華バラすなよ」
「しねーよ。バラしたらあたしの怪談になるじゃん」
という訳で続き。
「下の町の暴走族がさ、誰が一番速いかって、深夜の高速道路でバイクのガチ競争したんだって。深夜って言っても、何かしら走ってるもんだろ?物流のトラックとかさ。なのに、ずっと自分らのバイクしか走ってないし、対向車線も全然ヘッドライトが見えねえの。何か気持ち悪くなって、次のICで降りようぜって事になったんだよ。でもさ、ミラーに後ろから何かすげえ速さで何か来るのが見えたんだって。深夜なのに、ライトも付けてない奴がはっきり映っててさ、有り得ねえ速度でどんどん追い着いてくんの。そんでもしっかりわかったんだってさ。推定200キロで、着物のババアが疾走して追い着いてきたんだよ」
皆、迷った。
これは本人たちには悪夢に勝る恐怖体験だったのに違いないが、微妙に笑いのツボをつついてくるのはどうしてなのだろうか。