第68話 学校で怪談(七)
「何で200キロってわかったんだ?」
と、大彦が至極当然の質問をした。
「追い着き方が尋常じゃなかったから、自分たちより速くて有り得ねえ速度ってことで、切りがいい感じで200って言ったんじゃね? そのババアが、白い着物がめくれて見えそうな感じで超高速で走ってくるんだよ。まあ、手足の動きもシュババババって感じだから見えそうで見えなかったらしいけど」
文子が、淡々と呟いた。
「ズロースかしら。もっと古風に湯文字かしら……」
「湯文字って何だ?」
「秀樹君、乙女に何てこと訊くの……? スマホで調べれば一発よ」
続き。
「んで、キヒヒヒヒ、って気味悪い笑い方しながら本当に追い着いてさ、もうダメだ殺されるって思ったら、ババアがの笑い声が急に低くなって、爆走して追い抜いて、次のICで降りてったんだよ。同じICで降りるの怖すぎて、暴走族の兄ちゃん達は次のICで降りたんだって。おわり」
・・・・・・・・・・・・・・。
ぎゃはははは、と大彦が笑い出した。
「何で追い抜くんだよ! そのババア何しに来たんだ?」
「よっぽど急いでて、そのICで降りたかったんじゃね?」
「何で笑い声が低くなったんだろ?」
稔流は、真面目に言った。
「ドップラー効果だよ」
優等生・文子の解説が入った。
「救急車のピーポーピーポーっていう音が、近付いて来る時には高いのに、通りすぎると低くなるっていう現象よ。おばあさんは非常識だけど、リアリティ溢れるお話ね……」
「……………………」
笑い話だと思ったのに、非常識な実話の可能性が高くなってしまった。微妙な沈黙の中、蝋燭を消して次。
金髪ヤンキー女子・宇賀田姫華。
「あたしの名前って、姫華ってちょっと可愛い感じじゃん? この村ってシワシワネーム多いから、いい感じに目立つしさ」
「そうね……文子っていう日本中の中学生よりも、80歳の文子さんの方が多い方に1万円」
「秀樹って、自分以外はギャランドゥしか知らねえわ」
「秀樹君、ギャランドゥまだ生えてないでしょ……普通にヤングマンでいいのに」
「ギャランドゥって何?」
「たっくん、乙女に何てこと訊くの……? ggrks」
「何で俺はカス!? 前半意味分かんねーし!」
「ネット老人に教えを乞いなさい……丁重に」
「真二郎ってシワシワだけど、読みだけセクシーなの微妙だわ」
「佐助って自分は気に入ってる。忍者っぽいから」
姫華の話が続く。
「でもさあ、可愛いから母さんが付けた名前なのかと思ったら、親父だったんだよ。親父のセンスとしては可愛過ぎん? って思ってたら、クソ親父が《外》のキャバクラで入れ込んでた女の源氏名だったんだよ。ったくあのクソ親父、財布の中に嬢の名刺入れっぱなしにしてんじゃねーよ。あたしが生まれる前から続いてた不倫って何だよ。純愛かよ。そんでブチ切れた母さんが《外》に出て行って離婚ってさあ、あたしの名前がもう呪いじゃん? で、母さんはあたしに《外》に来て欲しいって言ってるんだけど、引っ越すのがいいと思う? 母さんの方が真人間だけどさ、金はクソ親父の方が持ってっから、好きな進路選べるんだよな。コレってどっち? 自分で考えるの、くっそめんどくさくなってきたから、もうここで多数決で決めるわ」
「……………………」
やはり、不良は訳アリだった。
下手な慰めの言葉はかけられない。誰か、何か上手いこと言ってくれ。
「姫華」
不意にさくらが口を開いたので、稔流は驚いた。
介入するなら、怪談で怖がらせる方だと思っていたのに。
「両親の離婚は5年前のことだろう? どうして、この村に残った? 当時は母親を慕っていて、金がある方などという打算は無かったろうに」
「…………」
「くっそめんどくさいなら、未来のことはおいといて、原点に戻ってみればいい。姫華はどうして、天道村に残った?」
さくらはそこで言葉を終えたが、誰も『誰が言ったのか』という事には全く気付いていない。
「あのね……姫華ちゃん」
狭依が言った。
「ただの私の我が侭なんだけど、姫華ちゃんには、中学卒業まで村にいてほしい……。みんな幼稚園か保育園のどちらかで一緒に過ごして、そのまま小学校と中学校に進んで……でも、中学を卒業したら、みんな違う進路を選んで、離ればなれにななっちゃう。だから、あと二年と半年は、私は姫華ちゃんがいる中学校で過ごしたい……」
「…………」
「私ね、姫華ちゃんに『姫仲間』って言ってもらえたのも、仲良く出来たのも、ずっと嬉しかった。……だから、姫華ちゃんがいなくなると、寂しいな、って……」
狭依は、最後の方は涙声だった。
しーんと、黙りこむ一同。
「おーい、多数決取るぞ。姫華に村を出て行って欲しくない奴、挙手」
大彦の声に、全員が手を挙げた。どさくさに紛れてさくらも手を挙げていたが、とにかく全員なのだから、一々数えないしバレない。
「……わーった。卒業まで村に残るわ。《外》に行ったら、こんなバカな遊びって無さそうだしさ」
小学2年生の子供が、嫌いな父親の元に留まり、母親に付いていけなかった理由など、『友達と離れたくないから』に決まっているのだから。
美しい友情で解決して、次。
文子は自分をATMにはしないと信じたい、真面目な南京錠ぶっ壊し犯・鳥海秀樹。
「一番上の姉ちゃんから聞いた話。姉ちゃんってさ、心霊現象って気の所為じゃないの? 幽霊より怖いのは人間でしょ? ってタイプだったんだけどさ、《外》の看護コースの高校に行って、入院施設がある病院に就職したんだよな。そしたら、幽霊っているんだなって実感するようになった、って言ってた」
「詳しく」
「誰も入院していないはず、っていうか……患者が死んで、空室になったはずの部屋からナースコールが来るっていうの、病院の怪談の定番だろ? 定番になるくらい、普通にあるんだってさ。でも、夜勤って眠いししんどいだろ。姉ちゃんブチ切れてさ、ナースコールしてきた部屋に向かって『五月蠅えよ! お前はもう死んでんだよ! こっちは生きてる人間の世話が仕事なんだよさっさとあの世に行け!』って怒鳴ったら、その部屋の無人ナースコール来なくなったんだって」
「お前の姉ちゃん、北斗の拳みたいでかっけーわ」
幽霊よりも怖くて強いのは、生きている秀樹の姉、ということで蝋燭が一本消えた。
次。見かけはガリ勉風味女子、比良文子。
「平坂トンネルってあるじゃない? 平らな坂って意味不明な名前のふざけたトンネル。あそこって、心霊スポットで有名でしょ」




