86.美月と監督
タマチカの監督(ショータの祖父)は甲子園に複数回行った。
高校球児だった者なら超絶ウラヤマシイ人である。
一回は準優勝である。モノスゴイ。
運動神経はショータに遺伝している多分。
美月は監督に質問したい事があった。
ショータの事もだが、甲子園の事だ。
美月の父はひたすらそれを自慢した。
別世界のような良い所だという。
美月は行った事がないのでそれを否定する事はできない。
父がどんな人かあまり知らない、
怒鳴り、殴るだけの人間だと思う事が、トラウマの一つだとは
彼女自身も気がついていなかった。
監督は練習が終わると簡単なミーティングを行った後
個々の本日練習表に注意点や総評を書いていく。
次の日の練習表は既に決めてあるが改変する事もある。
選手は本日分、明日分2枚の練習表をもらって帰り
明日までに内容を理解しておく。
監督は部員の理解力が高い事に驚いていた。
理解できる事と実行できる事は別だが。
この練習表を管理する仕事は女子マネージャー達がやっていた。
監督自らでもできたが、彼女たちがやる方がずっと早い。
手書きの練習表を写メにとり管理、明日以降の練習表は監督が
作成済みだが、改変部分を修正してプリントアウトする。
(クラウド中に保管されているので野球部員なら全員分のデータが見れる。)
そんな事務をしている間に部員総出で片付けをする。
無駄のない部活だった。
その日 グランドの片づけが少し手間取っていた。
通常なら美月も手伝いに行くのだが、練習表を確認している監督に
質問してみる事にした。
「甲子園ってどんな所ですか?」
「何?抽象的な質問だね。」
美月は説明していた。
「父が〇×学園で甲子園に行っていて。物凄く自慢するので。」
クズを父と呼ぶのは嫌だが仕方ないだろう。
「〇×学園か、強い学校だった、お父さんは何年前に出たの?」
「えーと、たぶん20年位前です。」
知らん、詳しい事は。
「そんな感じか、あんまり詳しく話してくれないんだね。
じゃあ自慢なら私の方が上だ、何度も自慢したので
妻と孫以外聞こうとしない。」
私も聞かされても左の耳から右の耳へ抜けてました。
「今思うのはお祭りかな、大きなお祭りだ。
その中で自分が出演者として頑張った、かな。」
「お祭りですか。」
「お祭りって訳もなくワクワクして楽しいだろ?
あの感じ、自分が全力を出している、生きている、楽しい!
言葉では上手く表現できないな。」
「ピンと来ません。」
「スタンドに居ても楽しいよ。普段話さないような人とも心が一つになる。
本当にそう感じる。」
「予選の時そう感じました。」
「あの舞台、大観衆でそれが物凄く大きくなる、それが甲子園、かな?」
「有難うございます。」
「お父さん〇×学園という事は大変だったろう? あそこは上級生のイジメで
廃部になったが、私の時代から下級生の顔が腫れていて見るに堪えなかった。
苦労しただろう。大丈夫だったと労ってあげて欲しい」
何か、・・・顔が腫れていたのはオカンと私です。
なんか、変な気分です。
「あれほど大舞台でなくても、今の君たちの年齢なら、
お祭りしているように楽しいだろうけどね。」
「そうでしょうか?」
「歳をとると解るよ。それと」
監督は私に近づくと小声で言った。
「翔太を頼むよ。」
なんか、気分が晴れた。
部員が帰って来る。




