73.悪い患者(敗戦の夜に)
射沢春香の視点
帰宅してショータの顔を見る。
心配はしていなかったが、実際に見るとやはり安心する。
風呂は入ったようだ。所説あるようだけど野球の試合中だ
脳震盪の後でも入浴しなければ辛かろう。
後は、一般的な注意をもらってきてるな。
念のため言っておこう、コイツは悪い患者だからな。
「少しでも異常、何か変だと思ったらすぐ言うんだよ。
ここに書いてある事以外でもすぐ言うんだよ。」
「わかってる。」
子供の頃から我慢強い子だった。
皆が心配するから痛くても我慢する。
お祖母ちゃんが困るから、上手く話せないの
お父さんやお母さんにも言わない。
これをニコニコ笑いながらやるから本当に困った。
吃音に気がつくのが遅れ、重症化していた。
本当に悪い患者だ、辛くても辛いと言わないのでやりにくい。
・・・でも身内としては愛しい奴だ。
お前、辛くてたまらないだろう?何故私を気遣う?
他所の子に言い返せなくて悔しいのに、何故私に言わない!
「ショータは悪い患者だったから心配だ。」
「今はちゃんと言えるようになったよ。あまり吃音しないし。」
そうだ、最近私の結婚について突っ込みやがるから、言い返してやろう。
「美月ちゃんから電話があったから、結婚するのかと思った。」
おっ、すぐ顔色が変わる。わかりやすい奴め。
「まだ結婚できる歳じゃないよ。」
という事はその時には結婚したいという事か?というツッコミは勘弁してやろう。
「最初、野球部のマネージャーだと名乗ったけど、名前を聞いたらショータの彼女の
名前だったんで驚いた。しっかりした良い子じゃないか。」
ショータ真っ赤だな。
「関西弁すごい、って聞いてたけど、少し、アクセント変かな位じゃない。
こっちの方が母親(義姉)は手術中、いや手術してる方ねって
何言ってんだと思った」
「知らない人と電話するんだもん。いきなりそんな話しかたしないよ。」
それは僕には打ち解けて話してくれるというノロケか?
も言わないでおいてやろう。
「今度連れておいでよ」
「うーん、もう少し待って。」
わかるぞ。揶揄われると思って嫌なんだろう。その通り1思いっきり揶揄ってやる。
「病院とか帰りの車の中で何話した。」
「負けちゃったね、でも7回まで粘って点も入れたねって話」
イロケないな。他は
「試合内容見て渡辺が打ったんだ、とか丸山さんって優しいよねっとか」
つまらん、次は
「近所のケーキ屋のクリームチーズ美味しいよねって。
お姉ちゃん知ってる?」
知らん。興味あるのが腹立つ、どこの店だ。
まあガキの恋愛なんてこんな物か。
「来月彼女の誕生日なんだろ?計画決めた?」
話題を変えたら、頭を抱えている。
「まだ考えている。自分で考えたい。でも困ったら相談に乗って」
ショータの恋愛偏差値は限りなく低い。
「そういえば、お姉ちゃん、指輪とか準備とか大丈夫なの?」
プロポーズを受けた段階で婚約成立となるらしい。
「派手な指輪は邪魔だから要らない。結婚指輪は作ろうと思うけど。」
仕事の邪魔だし見得のために金を使うのもバカらしい。
「準備は全く進捗していない、お互いの両親に知らせはしたが
両家顔合わせなんて、無理。二人同時に休んだら病院が止まる」
「えー、でもどうするの。」
ショータが心配そうだ。
「彼の両親をこっちに読んで病院付近で食事会、かな。
うちのジジィとババアは彼を知ってるし問題ないでしょ。」
彼、って言っちゃったよ。照れるな。
「後、式場どうする、そもそも式できるのか。来賓はとか
学会来週だ資料どうするとか大変」
気がつくとショータがショータが上機嫌で話を聞いている。
いつの間にか背が伸びたなコイツ。




