72.ブルジョワじゃ。
ショータはドクターと一緒に居た。
「地面に手を付くとボールを落とすと思った。」
だから腕を上げて倒れ頭を打ったらしい。
美月は「アホ、バカ」とショータに散々悪態をついた。
「意識は最初なかったみたい。『触るな、動かすな』って声で気がついた。」
「それから目を見られた後、無理やり担架に乗せられた。」
「無理やり?」
「まだ投げたいって言ったんだけど、聞いてもらえなくて、普通に歩けるのに担架」
「その後は?」
「医務室で質問されたり、歩いてみせたりしたんだけど、結果病院行になった。」
車がやって来た、ドクターは歩き方とか、記憶、会話の内容を見ていたが
車には乗らないようだ。
「えっ、二人で?」
「まだ試合中だからね。荷物は運ぶから心配ないよ。」
タマチカ野球部は人数が少ないので全員ベンチ入りだ
補助の仕事を主にやる、心優しい背番号19がベンチに帰るらしい。
周りの女子生徒が変な笑顔で美月を車に押し込む。
「付き添いお願い、スマホ持ってるよね。」
車が走り出す。
「どうなるの?」
「指定病院へ行ってCT検査する。その後しばらく安静だって。」
「しばらくって?どの位?」
「医師の判断としか聞いてない。」
美月は心配がおさまらない。
「ドンクサの選手のせいで、マネージャーは大変や。」
わざと、ため息をつく。
「ごめんね・・・。」ショータはいつも通り。
美月は少し安心した。
「相手の選手、捻挫だって。ベンチには座ってるから
安心しろって言われたけど、見た?」
そんなん知るか!と美月は少し腹がたった。
いつものショータだけど。
美月が首を振った時には指定病院に着いていた、すぐ近所だ。
病院でショータが検査されている間も美月は忙しかった。
病院窓口で健康保険証や住所等のメモを見せ手続きした。
その後、メモを見ながらショータの保護者に電話した。
叔母らしい。(祖父である監督はベンチにいるが)
すぐには出ず、しばらくしてから折り返し電話があった。
聞き取り易い話し方をする女性からだった。
ショータの事故については既に知っていたので
病院名と現状を伝えると納得したようだった。
不思議に思い。実母は?と聞くと
今手術中、と言われた。
一瞬お母さん病気なんだと思ったが、ショータの両親は
お医者さんだと気がついた。
確か叔母さんもそうだったはず。
ショータが「家に帰って来ない。」とぼやいていた。
「こちらから、その病院のドクターに連絡して聞いておきます。
もし、状況がわかったら連絡するね。」
聞いているだけで安心できる、不思議な話し方だった。
ショータがCTを受け、安静室で休むように言われた頃
美月に連絡があった。
異常なし、あと1時間位したら帰してくれるらしい。
ネットを見たらタマチカは負けていた。
美月のアパート経由で直接ショータ家に帰る事に
なったので、病院の前からタクシーに乗り込む。
車中美月はショータをいじって遊んでいた。
ショータがすぐ前まで来ていたと知った心晴が悔しがった。
美月は少しだけ、心晴がショータに会いたがるのを知っていたが
わざと呼ばなかった。
ショータが割と平気でタクシーを使うのには驚かされるが
病院の行きかえりは、そうしろと教えられているらしい。
ブルジョワじゃ、と美月は思った。
実態は病院役員の母親が領収書を・・・税務署方面注意。




