31.ショータの至福
ショータの視点
「それじゃ今は痛みは引いたのね?」お母さんに質問される。
「うん、今は少し痛い位。前の試合の後半はマウスピース嚙み潰すかと思ったけど。」
膝が痛い、と思ったのは何時ごろからだろう?ずっと続いている。
まだ日本にた父が”成長痛”と診断し、過度の練習、ランニングを止められた。
そういう選手は他にもいてたし、痛みの無い子と別メニューで練習していた。
どうせ試合に出ていないので、調整は利いた。
今回は痛みが出てるのに投げたいので相談に来たんだ。
患者だから堂々とお母さんに会える!
「レントゲンとMRIで見ても大きな異常はないわ。けど注意してね。
細部に気になる所はあるのよ。」お母さんが説明してくれる。
「私はやめて欲しい。それでもやる?」
「投げる。もうこれで最後にするつもりだし。前にも辞めるって言ったから説得力ないけど。」
「翔太が私の言う事きかないの初めてかもしれないね。」
そうだっけ。
「苦い薬でも言い聞かせれば飲むし、食べなさいと言えば何でも食べてくれるし。」
たんなる食いしん坊じゃないか?好き嫌いはないけど。
「理学療法士の人に診てもらって、異常が無ければ良いわ。異常を感じたらすぐ止めてね?」
「わかった。」
この後理学療法士の人にマッサージしてもらい、お姉ちゃん所に行き看護師さん達とちょっとだけ
ティーブレイク、お菓子は袋菓子だけど。
家ではお祖母ちゃん手作りのお菓子以外禁止だから嬉しいんだ。
射沢晴彦(監督)の視点
翔太(孫)の後診察室に呼ばれる。
「やはり駄目かな?」医師(息子の嫁)に問う。
「形成外科医としては無理するなとしか言えません。母親としては止めました。」
「そんなに?」
「1年で10cm近く背が伸びています。成長痛が出るのは、むしろ自然です。」
「ひどいのか?」
「今の所骨に異常はない、という診断です。が、無理すると筋肉や骨が変形する可能性が
あります。でも当人はやりたがっています。」
「投げる、という事か。」
「野球を続けられなくなっても良いと言ってますし、当人の進路に野球は無いので。
将来の生活に支障が出ないよう、無理はダメと釘を刺しておきました。
お義父さんも気を付けてやって下さい。」
診察室を出てため息をつく。
ひょろ長い孫の足を思い浮かべた。
俺が高校生の頃に居たらあいつ、どんぶり飯に卵かけ、気絶するまで食わされるだろうな。
しかも日に4回、5回と。
うん限界だ。俺は3年の選抜は準優勝投手だった。
その時が人生のピークだったかもしれない。
夏は優勝と頑張りすぎて俺は壊れた。
手術したがいまだに肘は曲がったままだ。
何事も無理はいけない。




