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88.テルヴェリカ観光『明日之城』

 アドリアーヌのお許しも出たし、お出掛けの準備だ。準備と言えばもちろんお弁当だよね。


 「ショウ様、どちらへ行かれますの。」

 「俺の城へ連れて行くって言ってたじゃない。」

 「ここは食堂のようですが、朝食をいただいたばかりではありませんか。」

 「昼食を作ってもらってあるから、それを取りに来たんだよ。」


 アルディーネを連れて外出の許可が出た時に、マーシェリンに厨房へ走ってもらったんだよね。お付きの者達の人数が多いから、昼食を作るのに時間がかかりそうだったからね。

 厨房ですでに用意されていた昼食やお茶のセット、デザートなどを受け取り、異空間収納に収納して食堂に戻る。


 「じゃ、行こうか。」

 「ショウ様もマーシェリン様も何も持っておりませんが・・・・・ 」

 「気にしないで。」


 出掛けるとの話だから、アルディーネの侍女や護衛は防寒着を持ってきている。季節は冬で外はとても冷え込んでいるが、まだ雪が降るほどではないらしい。

 マーシェリンの防寒着はウエストバッグに収納されているだろうし、俺は寒い時には、自分のまわりに透明の魔力の膜を張りその内側に暖かな魔力を充満させているから、防寒着の必要がない。


 転移するにあたっては、俺の部屋からでいいだろう。テーブルや椅子も一緒に大天守の最上階に転移すれば、使った後はそのまま置きっぱでいいや。

 部屋に戻ればアシルが不機嫌だった。


 「ショウ、遅いよ。またあたしを置いてったのかと思ったよ。」

 「アドリアーヌに怒られていたんだよ。今から出掛けるよ。」

 「出掛けるとはどのようにですか。私はまだ従魔を出すことはできません。」

 「転移するんだよ。」

 「転移の間へ向かうのでしょうか。」

 「いや、ここから。」

 「???」


 転移の間に設置された転移円でないと、転移できないというのが常識だからね、俺の言ってることが理解出来ないのも無理はない。百聞は一見にしかず、論より証拠だね。


 「全員、テーブルのまわりに集まって椅子に座って。椅子が足りないから座れなかった人はその場にしゃがんで。」


 その場にしゃがみ込み、床に手を添え、転移円を展開、転移させたい物が全て入るように転移円のサイズを調整。

 その時点で、ざわつき立ち上がろうとするのを、マーシェリンが制する。

 俺は意識を大天守の最上階に飛ばし、転移円を展開、転移円同士をリンクさせ、発動。


 「こっ、ここはっ?」

 「まさしく、転移ですねっ!!」

 「ショウ様、転移とはこんなに簡単にできるものなのですね。」

 「そんなはずはありません。アルディーネ様、転移魔法とはそんな簡単にできるものではないのです。」


 ワイワイガヤガヤやってるうちに、窓を開放すれば、冬の冷え込んだ空気と共に美しい景色が目に飛び込んでくる。

 騒いでいた客人達も、目を奪われ、声もなくため息をつく。


 「ショウ様、ありがとうございます。素晴らしい眺望でございます。ここはどこなのでしょう。」

 「領主城から西に来たところだよ。ほら、この方角、街道がずっと延びている遙か先に塀で囲まれた街が見えるだろ。あそこが領主城のある城下町だよ。」


 アルディーネが全ての景色を目に収めようと、窓から窓へ歩く後を護衛達がぞろぞろとついて回る。


 「ショウ様っ、階段があります。下へ行ってもよろしいのですか。」

 「階段が急だから気をつけてね。」


 そんな急階段を降りるのは、0歳児には無理だから、いつものようにマーシェリンに抱かれて移動する。

 下に降り、大天守から(くる)()に移動すればそこには騎士団が詰めている。


 「ショウ様、そちらの方々はどちらの方でございましょう。」

 「王女様とその他大勢だよ。」

 「なんとっ。王女様をこんなところに案内して良ろしいのですか。」

 「こちらの部屋でお待ちください。今日は団長はこちらに詰めています。今、呼んで参ります。」

 「わざわざ呼ばなくてもいいよ。勝手に見て回るから。」

 「え、しかし・・・・・  では、私がご案内いたします。」


 俺やマーシェリンの方がこの中は詳しいんだけどね。騎士達がわらわら出てきて、全部に対応するのも煩わしいし、この騎士に前を歩いてもらおう。


 「どちらへ行かれますか。」

 「外からこの城を見せてあげたいんだ。」

 「かしこまりました。こちらへどうぞ。」


 「ショウ様が創られたお城だというのに、騎士団がお使いになっているのですか。」

 「勝手に城を創ったら、アドリアーヌに怒られたんだよ。こんな城に住んでいたら、領主と対立する派閥が俺を担ぎ上げようとするって。だから騎士団に貸し出してるんだ。」

 「そ、そうですわね。アドリアーヌ様は怒ると、とても恐いですわね。」


 朝、アドリアーヌにひどく怒られてたから、それを思い出してるのかな。王女様、トラウマになってないよね。

 小天守には上がらず曲輪から外に出て、城の前の広場に出る。


 「見たことも無いお城ですわ。他国のお城なのでしょうか。」

 「そうそう、たしか女神の書庫の古い文献に載っていたんだっけ。」


 この建築様式をどこから? と不審に思われるのも困るし、誰も見たことのない女神の書庫で見た事にしておけば確認のしようがないから、後で突っ込まれることもないかな。


 「とても美しいお城です。こんな美しい城に私も住んでみたいです。将来は私もここに、」

 「却下っ!!」

 「え?」

 「一緒には住みませんっ。前に婚約の話は断ったよね。うやむやの内に婚約話を勧めようとしても無理だからね。」

 「ま、まあ、私達は子供ですし、大人になるまでに心変わりもあるでしょうし。」

 「俺はアルディーネの心変わりを期待するよ。」

 「あたしはここに住んでもいいんだよねっ。」


 そういえば、アシルにはそんなこと言ったような気が・・・・・・・


 「そろそろお昼だよ。さっきの最上階でお昼ご飯にしようか。」

 「ここをまた上っていくのですか。大変そうですね。」


 飛んでいけばいいんだけど、この人数だからアドリアーヌのトラネコバスを創るか? ちょっと上まで飛ぶだけだし、魔法の絨毯・・・・・  マジックカーペットだな。そんなのがいいんじゃないか。

 魔力を放出、絨毯を形成、この人数を乗せるようにサイズは大きめ。


 「はい、全員乗って乗って。落ちないように真ん中に寄ってね。」


 全員が乗ったのを確認してマジックカーペットを上昇させる。ここまで案内してくれた騎士が、呆けた顔で見送ってくれた。


 「これはっ、アドリアーヌ様の従魔と似たようなものですかっ。たくさんの人が乗れる魔獣のようだったと聞いたことがあります。」

 「魔獣には見えないでしょ。単なる絨毯だよ。」

 「そ、そうですわね。オホホホ。」


 最上階の窓に絨毯を横付けして、窓の敷居を越えるだけで部屋の中だ。もちろん俺が一人でおりようとすれば、敷居から転がり落ちることになるから、マーシェリンに抱かれて部屋の中へ、アルディーネも護衛に抱かれておりる。


 「ごはんだーっ、ごはんだーっ」


 うかれたアシルが飛び回る。

 ここへ一緒に転移してきたテーブルと椅子だけでは足らないから、異空間収納からテーブルと椅子を取りだし、テーブルの上に昼食が入っているバスケット、スープの入った鍋、食器類を並べていく。


 「ショ、ショウ様っ!! それはっ・・・・・ なんの魔法ですか。」

 「ああ、これは、異空間に物品その他諸々、何でも収納できる異空間収納魔法だ。」


 アルディーネとお付きの者達、呆然、唖然、茫然・・・・・


 「ア・・・・・  アルディーネ様   このような魔法は、見た事がありません。」

 「そうなのですか? まだ私は、全ての魔法を教わっていませんし、あるのかもしれませんよ。」

 「今のところは俺にしか使えないけどね。『原初の女神』の書庫で見つけた魔法円で創った異空間なんだけど、誰かが同じものを創ろうとすると、魔力枯渇で死ぬだろうね。」


 しゃべってる間にマーシェリンが昼食を並べてくれた。


 「用意ができたから、座ってよ。」

 「ありがとうございます。」


 みんなの前にはバスケット、暖かいスープだ。バスケットの中にはサンドイッチか。肉や卵、野菜をはさんだおいしそうなサンドイッチ。

 うん、俺には無理か。俺の前には穀物や野菜を柔らかく煮込んだおじやっぽいものとスープか。

 しょうがない。歯が生えそろうまでの辛抱だ。固い食い物共め、覚えておけ。歯が生えそろった時には、ガジガジ噛み砕いてやるっ!!


 「先ほどの話ですが、魔力枯渇で死ぬようなことを、ショウ様はなさったのですか。」

 「それほどの魔力を持ってかれるとは思わなかったからね、結構ヤバかった。だからこの魔法は公表するつもりはないんだ。」

 「そうそう、あんときは凄かったよね。あたしまで巻き込まれるかと思って、恐かったよ。」


 アシルって食事に集中していたかと思っていたけど、話を聞いてたんだ。


 「ああ、そうか。あの時、アシルいたんだっけ。」

 「そんな危険な事を・・・・・ ショウ様の身が心配です。お気をつけてください。」

 「もう、そこまでのことはやってないよ。で、昼食の後はどうしよう。領主城の中を案内しようか。」

 「私は海を見てみたいですわ。ヴァランタイン領には海がないでしょう。海を見た事がないのです。」

 「海かー、遠くから見ただけで、海は行ったことがなかったな。でも今日は領主城に帰ろう。アドリアーヌの許可を取って、明日の朝からお弁当を持って遊びに行こう。」

 「本当ですかっ。是非お願いします。」

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