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83.ゲロが軌跡を描き・・・・・・

 『明日之城』前の広場で、巨大な【(ゲート)】を開く。

 出し入れする物のサイズによって【門】の大きさも変わるよね。女王蟻は胴体だけでも20mを超えていた。それを出せる大きさの【門】が必要だ。

 で、【門】から胴体を取り出した。


 「ぎぃゃぁ―――――っ!!」


 やっぱ、アシルは逃げてった。放っておこう。

 その胴体は、いまだうごめきながら卵を産んでいる。白い卵の中には、青やら赤やら緑やらと、色とりどりの幼虫たちがうごめく。

 この卵の中の幼虫にも、それぞれ魔石があるようだ。それなら、『レインボークイーン』の魔石を取り出す前に、この幼虫の魔石を確保した方がいいな。

 俺はコナンの体で剣を振るい、生み出される卵を次々と幼虫ごと切り伏せる。

 かわいそうな感じがしないでもないが、こいつらが成長すると魔法を撃ち出す魔獣になって、かなり危険な存在になる。今ここで根絶やしにしておこう。


 産まれてくる卵が大きくなった。中の幼虫の色が『レインボークイーン』と同じ色合いになった。

 これは『レインボークイーン』に進化した後に体内で受精した卵か。女王蟻って、一回の交尾で受け取った精子を貯蔵して、ずーっと生み続けるらしいからね。

 今回、俺が巣を燃やしたことで危機を感じて、自分を守る兵隊を産み出そうとしたのかも。このままこの卵が孵化しても、世話をする働き蟻がいないから成虫になることもなく死に絶えるのだろうか。

 いや、女王が逃げ出す時に、巣の中の自分の子供達や幼虫や卵、喰らいながら逃げ出したはずだ。その女王から生まれた幼虫がその貪欲さを受け継いでいたら、お互いが喰らい合い、最強最悪の一個体が残る可能性がある。

 やはり、全て討伐しておこう。

 この卵というか、白い膜の中にうごめく幼虫・・・・・ もうすでに幼虫だよね。普通なら白い蛆みたいなものなんだろうけど、虹色の幼虫? 『レインボーラルバ』とでも名付けるか。


 マーシェリンが一緒に『レインボーラルバ』をサクサクと切り捨てている。後はマーシェリンに任せて魔石の回収でもしようかな。


 息絶え動きの止まった虹色の・・・・・  蛆のような・・・ 幼虫。その体内の魔力を感じられる胴の後方部を切り裂き、手を突っ込む。

 つい先ほどまで生命活動を行っていた生き物の腹を割き腕を突っ込むなど、あまり気持ちのいい所業ではない。

 ぬるっとした粘度のある液体と臓器の中を、肩近くまで腕を突っ込み、お目当ての魔石を掴む。

 まだ、コナンの腕でやってるからいいけど、自分の腕では絶対やりたくないね。まあ、俺の腕じゃ届かないけど。


 魔石を掴んだ腕を引き抜く。やっぱりだ。虹色魔石。色とりどりの輝きを放つ魔石。これはかなり珍しい物が手に入ったんじゃないか。それも大量に・・・・・  いや、大量にあったら珍しくもなんともないぞ。

 希少価値を上げるために、全て俺が保管して小出しにすれば、高値取引できるんじゃないか。よし、決定、これ全部俺保管。


 マーシェリンが切る、俺が魔石を触手で抜き取る、魔石を取った幼虫を遠くへ放り投げる、半刻ほど繰り返して・・・・・ どういうことだ?  卵を生み出すスピードが衰えない。というか、スピードアップしてる。

 ろうそくの炎が消える直前にひときわ明るく輝くのと同じで、『レインボークイーン』の胴体の生命活動が終わろうとしているのか。

 

 『レインボークイーン』が脳から出した指令は受精卵を産み続けること。脳を失ってもその指令が消えることなく、受精卵を生産し続けている。この胴体の生命活動が停止した時は、腹を切り開いてでも受精卵を討伐しないとまずいだろう。腹の中で孵化しようものなら、幼虫たちはお互いを喰らい合い、母親の臓器を喰らい、食う物に不自由することなく成虫になる。


 卵を産み続ける動きがようやく止まった。蠢き続けた胴体も動きを止めた。生命活動が停止したようだ。しかし、『レインボークイーン』の巨大な魔石以外に、小さな魔石が感じられる。産み出されなかった卵が体内に大量に残っているようだ。


 「マーシェリン、ちょっと離れて。」


 卵が産み落とされていた場所に立っていたマーシェリンは、俺が何をしようとしているのか、即座に理解したようだ。すぐに後ろに下がる。

 上段に構えた剣に魔力を大量に注いでいけば、剣が巨大化していく。俺の魔力で創られた剣だから重量は感じられない。コナンの手で柄を握る事ができなくても、手のひらで支えているだけでいい。振り下ろすイメージだけで、魔力の剣は動いてくれる。

 刃の長さが30mほどになった。もういいだろう。これで『レインボークイーン』の胴体を両断できる。


 魔石を傷つけないように、剣を勢いよく振り下ろす。

 振り下ろされた剣は、地面を傷つけることなくピタリと止まり、縦に両断された『レインボークイーン』の胴体が左右に開き・・・・・・・   うん、  分かってた。中からドロンとした液体と共にこぼれ出る内臓、産み出されなかった大量の卵、そして異臭。

 マーシェリンが鼻を押さえ吐き始めた。コナンの中にいる俺にまで異臭を感じられるほどだ。マーシェリンがどれだけ強烈な異臭を吸い込んだのか、想像もできない。いや、それよりも、この場からマーシェリンを待避させないと、マーシェリンが壊れかねない。

 横っ飛びでマーシェリンの元へ飛び、小脇に抱え天守閣の最上階へ飛ぶ。飛びながらもゲロが軌跡を描き・・・・・・


 「アドリアーヌっ!! マーシェリンをたのむっ!!」

 「ちょっと、マーシェリンはどうしたのよっ。」

 「においが酷いんだ。魔法で下に向かって風を送って!!」


 アドリアーヌにマーシェリンを任せて屋根から跳び降りながら、コナンの回りに魔力の膜を張る。これでにおいの侵入は防げるだろう。もう一つ、風の魔法で上空からの吹き下ろしの風を送る。これで最上階ににおいが到達するのを遅らせる。後はアドリアーヌが風を送ってくれるだろう。

 地面に降り立ち、両断された胴体を切り刻む。器状になった胴体から、中に残っていた臓器や卵が、液体と共にドロンと流れ出てくる。

 さすがにこの液体の中で泳ぎたくはないよね。卵は全部外に出して討伐しよう。


 流れ出た卵を全て切り捨てるのも面倒だ。魔石の位置を確認しながら、直接触手を突き刺し魔石を掴んで引き抜く。まだ卵も中の幼虫も柔らかいから、簡単に突き刺さる。豆腐に箸を突き刺してるようなものだ。

 見る間に虹色魔石の山が積み上がっていく。

 しかし、それも終わりは見えてきた。あたり一面の魔石を抜かれた卵。他に感じられている魔力は『レインボークイーン』本体の魔石だけのようだ。それも回収する。

 デカい。直径が5尺はあるかと思われる虹色魔石だ。他の魔石を積み上げたところへ置き、最初に切り伏せた『カラード』の魔石や、あちこちに放ってある魔石も全て一カ所に集める。

 目の前にある魔石の山以外には、この広場には魔獣の魔石はもう感じられない。

 よしっ、これで全て討伐できた。じゃあ、この魔石の山を洗浄して収納しよう。

 『レインボークイーン』のデカい魔石は単体で収納、他は虹色魔石と『カラード』の魔石は別で収納しよう。アドリアーヌに一個、虹色魔石を渡しておくか。


 洗浄の魔法円を展開、魔石と共にコナンの外側に張った魔力の膜を洗浄する。洗浄してにおいはどうなったんだろう。においもとれてくれればいいんだけど。

 【門】を開き魔石を種類ごとにどんどん収納していき、最期にアドリアーヌ用に一個だけ別にしておいた虹色魔石を収納した。

 『レインボークイーン』や卵の残骸は、一晩ほども地上に置いておけば地中に消えてくれるだろう。


 上空からの風が地上に向かって吹いている。アドリア―ヌの風魔法だ。風に逆らって天守閣最上階へ飛ぶ。飛びながら魔力の膜を解除。最上階に入ってコナンを解除、コナンが塵となって消え去る。


 「あれ? マーシェリンは?」


 アドリアーヌがなにも言わず、ちらりと視線を送った先に・・・・・   膝を抱えうずくまるマーシェリンが・・・・・・・  くっ、暗いっ。 みんなにゲロシーン見られちゃったからか?

 もうすでに誰かが洗浄してくれたんだろう。液体の異臭もしないし、吐いた跡もない。

 アドリアーヌが俺に顎で、フン フン と指示を送ってる。マーシェリンを慰めろということか? こういうのはアドリアーヌにやって欲しいよね。いや、もうすでに慰めたのかな? 駄目だったから俺にやれと?

 マーシェリンの傍らまで歩き、肩に手を乗せる。マーシェリンは膝に額を押し付け足を抱え込んだまま、シクシクとむせび泣いている。


 「マーシェリン、俺は泣いているマーシェリンよりも笑ってるマーシェリンが好きだ。」

 「うっ・・・ うっ、わっ、私は、ショウ様をお護りしなければいけなかったのに、ショウ様に助けられ、嘔吐物にまみれ・・・・・  ショウ様をお護りすることもできなかったのですっ!!」


 あれ? ゲロまみれで落ち込んでたんじゃないの? いやいや、マーシェリンらしいっちゃー、らしいかな。


 「私は・・・ ショウ様には必要がないのでしょうか。」

 「そんなことは・・・  ないさ。」


 うつむいていた顔を上げさせて、足を抱えていた腕を解かせて・・・・・  その腕に倒れ込む。


 「ここがいちばん・・・・・  安心でき る   よ・・・・・」


 意識は深い眠りの中に沈んでいった。

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