78.『レインボークイーン』
「何か質問は?」
「いや、おかしいだろう。従魔も無しに空中に浮かんでるなんて。人間なのか。」
マーシェリンが俺の前に割り込み、騎士達に剣を突きつける。
「コナン様に無礼は許しませんっ!!」
「やめるんだっ!! 今はそれどころでは無い。女王を見ろっ!! 損傷が回復してきてる。」
アステリオスが指摘する。焼け焦げた体が回復してきている。回復魔法を使っているのか。その上にまだでかくなりそうだ。まさか地上に出るまでに、焼けた自分の子供達、卵や幼虫まで食い尽くしてきたんじゃないだろうな。
「コナンとマーシェリンは後方待機、第9第10は班ごとに魔法の波状攻撃、行け―――――っ!!
第7第8、体制を整えろっ!! 第10で仕留められなかった場合の次の波状攻撃を準備しろっ!!」
1班が12人で、女王に向かって一気に急降下、同じ魔法、炎の槍を同じタイミングで放つ。12人が急降下から同じタイミングで従魔を引き起こし散開。
おおーっ!! あ、あ、あの・・・ ブルーインパルスを彷彿とさせる『下向き空中開花』ですねっ!! そう、あれは単なるアクロバット飛行ではないっ!! 大型戦艦を真上から爆撃するための究極の飛行形態なのだっ!! と俺は信じているっ。
ただし、急降下から機体を引き起こすときのGがハンパない。騎士達もそのGがかかり従魔に押さえつけられながら、引き起こした従魔を散開させていく。墜落しないで下さいねっ。
放たれた12本の炎の槍が、ほぼ一本に集束され女王に向かう。槍は女王にたどり着く前に砕け散った。
魔法防御結界?! まさかっ!!
もう次の班が急降下している。今度は水の槍。それも砕け散る。
8班が次々と攻撃を打ち込むが、全て魔法防御結界の前に砕け散った。奴の魔法防御結界はドーム状になっていて全方位をカバーしている。
アステリオスが第7以降の攻撃を止めている。
「班ごとの攻撃では結界を破れない。第7第8の総攻撃を仕掛けるぞ。」
第9第10が攻撃をした8回分の攻撃力を1回に集中させるのか。それならあの結界も突き抜けられるかもしれない。いや絶対突き抜ける。
でもそんなに大勢で下向き空中開花は危険だよね。人がぶつかり合って墜落しちゃうんじゃないかな。と思ってたら全員が集団になって一気に下に向かって魔法を放つ。まあそうだ。安全第一だ・・・・・ 威力が感じられない。さっきの12人の急降下攻撃はなかなかにスピードとパワーを感じられた。今度は多分駄目な気がする。
うん、駄目だった。
そんな中、治癒が進み体表が綺麗になっていく。
こっ、こいつはっ!!・・・・・・・ 数多くの色が体表の上をうごめいていた。
『レインボーアント』?? まさかっ!! インドの山奥で修行してきたレインボー男のように・・・・・・・ って、ちが―――――うっ!! レインボー男は7色ではないっ!! 7つの変身形態を持ったヒーローだっ!!
ギロリと上を睨んだ気がした。魔法防御結界が消え巨大な火球が打ち出される。騎士団の前まで飛び出し巨大な盾状の魔法防御結界を発動。火球はなんとかしのいだが、その後ろから氷の槍が飛んできている。これって真正面から受けたら、もう力負けする未来しか見えない。魔法防御結界を斜めにして横へいなす。そっちに騎士がいないようにと祈りながら。まだ魔法攻撃は止まらない。次もすでに飛んできている。
今なら魔法防御結界が無い。魔法攻撃が利くはずだ。アステリオスが叫ぶ。
「第7第8騎士隊っ!! 魔法攻撃再開っ!! 波状攻撃だっ!!」
下から襲い来る風の刃。風の刃を魔法防御結界でいなす俺の横を、騎士達が急降下。さっきの下向き空中開花の波状攻撃が始まる。
2撃が撃ち込まれダメージを与えた。3撃目が魔法防御結界に防がれ、結界の向こう側では治癒魔法が発動している。
これはキリがないぞ。魔法防御結界をなんとかしないと・・・・・
ん? 槍を持った騎士が目立つ。蟻共との地上戦を想定しているんだろう。
「槍を貸してくれ。」
槍を一本借り受け、女王に向かって急降下。コナンのパワー全開で目を狙って、槍を放つ。急降下の勢いに加えコナンのパワーで撃ち出された槍は、魔法防御結界に防がれることなく深々と女王の複眼に突き刺さる。
後ろからマーシェリンが飛んできて、同じように槍を放つ。マーシェリンの槍はもう一方の複眼を貫いた。
頭を振り、顎をガチンガチンと噛み鳴らす音が響き渡る。
魔法防御結界が消えた。どこへ向かうわけでもなく、女王は突然走り出す。
女王のサイズはゆうに40mを越えている。まわりに生えている低木など雑草程度にしか見えない。
走りながら女王のまわりに、無数の風の刃が出現。嵐のような風が轟々と吹き荒れ、その中を無数の風の刃が舞いまわる。
風と共に舞いそうになるマーシェリンを捕まえ、魔法防御結界、物理防御結界を張る。危険なのは風の刃だけではない。この風で地面の石や砂、果ては折れた木まで舞い廻っている。
風の刃が魔法防御結界で砕け散り、石や木が物理防御結界にあたりガンガンと衝撃がくる。
上空へあがり、騎士団を探せば女王を追いかけている。すぐに後を追い、アステリオスに追いつく。
「コナンっ、まずいぞっ!! この方向は伯爵領の街があるっ!! 我々では追いつけないっ。コナン、追いつけるかっ!!」
「分かったっ!! 俺が行くっ。」
騎士達のまだ上、上空にあがる。コナンとマーシェリンの回りを大きく覆うように魔力を纏う。
「コナン様、何をなさるのですっ!!」
「マーシェリンを置いてくと、また拗ねそうだから、一緒に連れてくんだよ。」
まわりに纏った魔力が変形していく。コックピットが前後に並んで2席、そこから胴体部分、主翼、垂直尾翼、水平尾翼、ジェットエンジン、燃料タンク・・・・・ F4ファントムだっ!! あのっ、往年の名機だっ!!
一気にエンジンを吹かして って、魔力飛行だからエンジン関係ないか。
あっという間に追い越してしまった。しまった。ジェット機はスピードが速すぎる。戦闘ヘリ、アパッチにすればよかったか。
ファントムは駄目だ。魔力供給をやめ塵と消える。空中に放り出されたマーシェリンを捕まえ、
「マーシェリン、ペガサスを出せっ。」
俺はコナンで今来た方向へ飛ぶ。遠くに『レインボークイーン』が土煙を上げているのが見えた。ちょっと・・・・・ かなり、飛びすぎた。
下は平原が広がっている。方向を変える時に街が見えた。ここから先に行かせることは絶対にできない。
マーシェリンがペガサスで追いついてきて横に並ぶ。
「コナン様、どうやって止めますか。」
「もう、魔法防御結界は無いはずだ。大量の魔力槍を撃ち込んで地面に縫い付けるっ!! それでも動きそうなら足を痛めつけてくれっ!!」
「はいっ。」
あれだけでかい女王蟻だ。足の太さだけでも1mを越えているのではないだろうか。マーシェリンが一撃で切り落とすのは無理だろう。
『レインボークイーン』はかなり近づいてきている。上空待機で待ち構えよう。
無数の触手を展開、先端を堅く堅くとがらせる。狙いは頭とその後ろ、足が生えているところだ。その後ろの胴体部分は重要な内臓がある。魔石もそこにある。この魔石は無傷で手に入れたい。
もうすぐそこまで迫ってきた。上空から『レインボークイーン』の頭に向かって飛びながら、無数の魔力槍を突き立てる。全ての槍が狙いを違わず、頭とその後ろへ吸い込まれ地面まで突き刺さる。
『レインボークイーン』は地面に縫い止められて、動かせる足が走っていた時と変わらない動きで土を掻いている。足が地面を掻く動きにつられて後ろの胴体部分も右へ左へと、尻を振る。
その尻から白いものがぽろぽろとこぼれ落ちている? なんだこれ??・・・・・
卵だっ!! こいつっ、卵を産んでる。『レインボークイーン』が走ってきた軌跡を見れば、白い卵が点々と転がっている。走りながら卵を産み続けていたのか。
剣に魔力を込め、胴体の節目に剣を振るい切り離す。どろっとした液体が出てきたその胴体を、魔力を袋状にして包み込む。後は【門】を開いて異空間収納に放り込む。
収納から取り出せばまた卵を生み出すだろうけど、とりあえずこれで止めておける。
さて、産み落とされた卵をどうするか。放置すれば孵化して魔獣になるんだよね。っていうよりも、この卵自体が魔獣だよね。こんな1mをゆうに越えているような卵。この平地に転がっているだけじゃなくて、森の中も大量に転がっているんじゃないか?
他にもあの森の中で、働き蟻が這い回っていたけど、どれだけいるのか把握できないだろうし。
まあ、そんなものは全部騎士団に投げよう。俺が面倒見なくてもなんとかなるっしょ。
ようやくアステリオスが飛んできた。
さっきまで地面を掻いていた足が、力が尽きたのだろうか、最期の一掻きをして動きが止まる。
「こんな状態でも動いていたのか。いや、コナン、先ほどの従魔はなんだったのだ。」
従魔じゃねーよ。ファントムだよっ!! とは口にせず、
「他に気になることあるんじゃない?」
「あ、そうだな。こいつの後ろの胴体部分はどうしたのだ。」
「卵を産み続けていたから破壊した。」
収納したとは言えないから、完膚なきまでに破壊したことにしておこう。
「卵とは?・・・ まさかあの白いもの全てがそうだというのか? 糞ではなかったのだな。」
尻から何かを落としていたのは把握していたようだ。そうだよ、尻から出てるんだから糞だと勘違いしてもしょうがないか? でも、白い糞 なんか出るか? あ~ バリウム飲んだ後に出たな~ 白い糞・・・・・ いやいや、何考えてんだ。
「これが全て卵だというのなら、全て殺処分せねばならぬな。
第9第10騎士隊、この場から女王が来た方向を逆にたどり、産み落とされた卵全て処分及び魔石を回収しながら巣のあった戦闘区域へ向かえ。第7第8騎士隊は戦闘区域まで飛び、巣からこちらに向かって、卵の捜索、処分、魔石回収。両方からの隊が出会い、卵を全て処分できた時点で、本日の作戦は終了、野営地へ帰還。以上。」
第7第8騎士隊は飛び立っていった。森の中を探しながらだから、手間取りそうだ。その点、第9第10騎士隊は平原に転がる卵の処分だから楽に進んでいけそうだ。もうすでに班ごとに分かれてかなり先まで進んで卵を破壊している。
もう、俺は帰っても良さそうだ。
「コナン、今日はご苦労だった。今日の報酬は騎士団の予算から出しておこう。」
「え、お金出るんだ。ただ働きだと思ってたよ。」
「そんなわけには行くまい。コナンの報酬としてアドリアーヌに渡しておこう。」
アドリアーヌに渡すのだったら、無報酬みたいなもんだな。どうせ『貯金ですっ』と言って俺の手元には届かないし。でも、お礼は言っておこう。
「ありがとう。もう俺は必要ないよね。もう帰ってもいいかな。」
「ああ、すまなかったな。後は我々だけで片付けられる。私はこの女王の魔石を回収せなばならんから、今しばらくここにとどまる。帰ったらそう伝えておいてくれ。」
魔石かー。俺が回収した胴体にあるんだよな。『レインボークイーン』が溶けて地に沈むまで結構な時間待って、何も残りませんでした、では、アステリオスに無駄な時間を過ごさせてしまうし。教えておいた方がいいよね。
「この『レインボークイーン』にはもう魔石はないと思うよ。胴体を破壊した時に一緒に吹き飛んだと思う。」
「何? そうか、魔石は破壊されてしまったか。どおりで魔力が感じられなかったわけだ。それにしても『レインボークイーン』とはコナンが名付けたのか?」
「勝手に名付けたら駄目だった?」
「いや、そんなことはない。なかなかしっくりくるから、私もそう呼ぼう。報告書にも記しておけば、その名が定着するであろう。で、コナンとマーシェリンは先ほどの従魔で野営地まで戻るのか。」
「え? ああ、ファントムね。考えてなかったけど、ファントムならあっという間に帰れるな。」
「そ、そのファントムとやらは私も乗れるのか?」
「ファントムは二人しか乗れないから無理だよ。」
がっくりと肩を落としたアステリオスをその場に残す。そんなに乗りたかったのだろうか。




