76.作戦会議 コナン
巣穴だ。地響きがしてる。巣穴のまわりに立つ騎士達が脅え騒ぐ。土の中を巨大ななにかが移動して・・・・・・ なにかが地表に出ようとしてる?
地面が盛り上がり割れる。その亀裂に落ちていく騎士達。騎士達の悲鳴が交錯する。
「撤退だっ!! 全員下がれっ――――!!」
逃げ遅れた騎士達が巨大な顎に飲み込まれる。
「ぅあ―――――っ!! ・・・・・・・ あれ?・・・・・ 夢か。」
「ショウ様、大丈夫です。ここは戦場ではありません。」
目の前にマーシェリンの顔が・・・・・ ち、近い。腕に抱かれてたのか。
ぎゅっと抱きしめられ、背中をさすられる。マーシェリンのいい香りが鼻腔をくすぐる。 あ~ 心地よい。このまま気持ちよく眠れそうだ・・・・・・・
違―――――うっ!!
さっきまで夢を見てた。巨大な何かが地下から襲いかかってくる? 何が?
「アドリアーヌっ!! アドリアーヌはどこっ!!」
「救護用のテントにいらっしゃると思います。呼んで参りましょうか。」
「いや、いい。対策会議はどうなった。」
「私が隊長達に、戦闘時の説明をしました後、第1から第10までの隊の会議になりました。」
「まだやってるのっ!!。」
「分かりません。」
「じゃあ、行ってみよう。」
コナンの姿になり、会議用テントに案内してもらう。救護用テントの前でアドリアーヌが俺に気付いた。
「ショウ、もう起きたのね。どこへ行くの。」
「会議用テント、まだ会議やってるよね。」
「アステリオス様が戻ってこないから、まだ会議中でしょう。」
会議用テントの中に入れば、終わったばかりのようで席を立ち始めている。
「席に戻ってくれ。伝えたいことがあるっ!!」
「おお、コナン、来てくれたのか。」
アステリオスが立っている騎士をかき分け俺に近づき握手を求める。握手に答えながらアステリオスの耳元でささやく。
「かなりまずいことになっていると思う。」
「何がまずいのだ。」
「女王が巨大化している可能性がある。」
「なにっ、それは本当か。
全員席に戻れっ!! 作戦に変更事項があるっ。」
上座のテーブル席に着く。アステリオスとアドリアーヌも席に着いているが、マーシェリンは俺の後ろに立つ。
「マーシェリン、座れ。」
「いえ、しかし、私は護衛騎士ですので、」
「一人だけ立ってると、マーシェリンが注目の的になるぞ。」
あわてて俺の横の席に着く。注目されるのは嫌だったようだ。
「私がコナンです。質問は受け付けません。魔力の澱みは解消されたと聞いていますが、場所がどこだったのかを教えて下さい。」
アステリオスが答えてくれた。
「それなら、私も同行していた時だ。説明しよう。ここから西なのだが、まだ低木の林に出る前だ。高木に囲まれた薄暗い場所だったが、何か関係があるのか。」
「今日騎士を助け出した時、奴らの巣穴を見つけました。ここから西に行ったところの低木の林の中です。発見した巣穴が、その場所からかなり離れてます。ここからは推測で話します。
蟻の巣から新しい女王が巣立ちする時、雄が共に飛び立ちます。女王蟻は空中を飛びながら受精します。飛んでいる時に魔力の澱みの中を抜けたのではないかと思われます。飛んでいった先で巣穴を掘り、卵を産み、子が生まれ、働き蟻として成長した蟻が、今日戦闘になった蟻です。この働き蟻は、女王や幼虫の餌を求めて地上に出てきます。我々を餌だと認識して狩りに来たのでしょう。戦闘になり数多くの蟻を倒しました。怪我を負った騎士の救出を優先させたため、蟻の骸は放置してきてしまいました。奴らは自分の同族の骸でも餌にします。『カラードアント』の女王や幼虫が『カラードアント』を餌として捕食した場合どうなるでしょうか。」
ざわつき始めた。その後の俺の言葉を待っているのか、遮ろうとするものはいない。
「巨大化する可能性があるということです。」
「そんなことになったら・・・・・・・ 2隊では危険か・・・・・ 今日の本部待機はどの隊だ。」
「第9と第10です。」
「今すぐ呼び寄せろ。明日の本部待機を第1から第4まで、4隊を待機させろ。明日の待機組は副団長がいたな。副団長は明日本部待機をする4隊とそのまま本部待機を頼む。すぐに連絡しろ。」
騎士が一人飛び出ていく。ここに連絡魔道具を持ってきていないようだ。
「ショウ、今話したことは本当に起こりうることなのか。」
アステリオスにビシッとサムズアップ。
「コナンだ。」
「え? ああ、すまん。コナン。」
「え? ショウって誰だ? コナンじゃ?」
「俺も聞いた。誰と間違えたんだ?」
「ちょっと待て、マーシェリンが『ショウ様、ショウ様』って言ってなかったか。」
「静かにっ!! 私の発言の間違いに文句がある者は前に出ろっ!!」
アステリオスも動揺しているようだ。ショウ=コナンだとばれるかもしれないけど、俺はそんなに気にしてないからいいんだけどね。ばれたらばれたで、まあいいか程度ぐらいにしかしか考えてないし。
アステリオスに、まあまあとなだめる感じで手を振る。
「必ず起こる、と言うわけではありません。その可能性を考慮に入れて行動した方が安全でしょう。可能性を考えるなら、今日戦った蟻は働き蟻です。巣穴を攻撃すると兵隊蟻が出てくるかもしれません。働き蟻よりも大きく強いでしょう。明日の戦術はどのように組み立てましたか?」
「上空からの探索、発見、撃破、の予定であったが、巣が発見されているのであれば、直接巣を叩こう。」
あれ? マーシェリンも巣穴の所まで行ったのに、情報を教えてないのか。
「マーシェリン、巣穴見たよね。」
「え? そのようなものがありましたか。私は見ておりませんが。」
がっくり・・・・・ この娘は戦闘中は蟻しか見ていなかったみたいだ。まあ、戦闘中に他の事に気を取られるのも危険なんだけどね。マーシェリンらしいと言えばそれまでだけど、もうちょっとまわりを気にしようよ。
「マーシェリンも巣の場所を知っているのかっ。」
「い、いえ、私は見てみません。」
「コナンと共に行動していたのではないのかっ。」
「明日は私がそこまで行きますから、マーシェリンを責めないで、」
「いや、しかし、コナンは今日の戦闘で疲労しているのだろう。明日も参加させるわけにはいかんぞ。」
「それほどの疲労はありませんよ。それと巣穴への攻撃にはこのような技が必要になるでしょう。」
立ち上がり、前に突き出した手のひらから一本の触手を伸ばす。途中で5本にわけテントの端まで伸ばしていく。それぞれの先に炎の魔法円を展開、テントが燃えないように極々少量の魔力を注ぐ。テントの端に五つの炎がともる。
おおー、というどよめきがあがる。
「このような小手先の技ですが、巣の中に魔力を通しその先の女王の部屋、卵の部屋、幼虫の部屋、などの部屋で、何者をも焼き尽くす程の火力を発生させられる方がいれば、その人に巣穴攻撃の要となってもらいます。」
「そんな繊細な魔力操作など誰も・・・・・」
アステリオスがふと振り向いた先はアドリアーヌだ。
「あら、わたくしならできますよ。」
「いや、できたとしても連れて行くわけないだろう。しょうがない、コナン、頼めるか。」
「承知致しました。その上で作戦を決めましょう。」
「明日は4隊を出す。コナンの案内で巣まで飛ぶ。到着後、第7第8騎士隊は地上でコナンの安全を確保。地上に出ている蟻、巣から出てくる蟻を殲滅。第9第10騎士隊は上空からの戦況確認をしながら増援、負傷者救助。私がコナンについて護ろう。」
「いえ、私の横はマーシェリンにお願いしますよ。アステリオス様には戦況を見て騎士達への指示をお願いします。」
マーシェリンの顔がパァーッと明るくなった。そうだよね、マーシェリンを遠くに配置すると、絶対命令違反で俺の元へ飛んできそうだし、俺の手の届く所にいた方が無難だよね。
「いや、マーシェリンは明日は休ませるつもりだったが、」
「アステリオス様、コナン様がこうおっしゃっているのです。私はコナン様と共に戦います。私がコナン様をお護り致します。」
「む、そうか。ではマーシェリン、コナンをたのむ。」
「はいっ、お任せ下さい。」
「では、集合はペルセポーナの正刻、出撃はデーメーテーの始刻、以上、解散っ。」
明日は朝が早い。早く寝た方がいいな。
日はとっぷりと暮れている。さっきまで俺が寝ていたテントに向かっている横をアドリア―ヌが歩く。
「ショウが行ってくれるのは安心できるんだけど、大丈夫なのかしら。さっきだって、突然意識を失うような感じで寝てしまったじゃない。」
「朝からお昼寝もせずに働きづめだったしね。お昼寝タイムをもっと取らないといけないのかな。」
「そうね、マーシェリン、ショウに無理をさせすぎないで。ショウの仕事が終わったら騎士団に任せること。ショウは後方待機よ。」
「はい、承知致しました。」
「私は物資補給で城へ戻るけどショウは一緒に戻る? ベッドで寝たいでしょ。」
「マーシェリンも着替えたいだろうし、俺達も帰るよ。」
マーシェリンは朝から俺に護衛で付いてきて、ハンターの格好のままだったんだよね。護衛専門の騎士だから、全身金属鎧の支給は受けてなかったよな。金属の胸当て、脛当て、籠手ぐらいはあったような気がする。
「それじゃあ、私のトラネコバスで送るわ。ちょっと待ってて。」
「いや、俺は城へ転移するからいいよ。」
「なんでっすってーっ。ちょっと待ちなさいっ。
リベルドータ、他の護衛達を呼んできなさい。一緒に転移させてもらいましょう。」
リベルドータが走って行ったけど、そんなに急がなくてもいいよ。
ここにこれだけの騎士や後方支援者が集まっているんだけど、凄く気になっていることがある。
トイレ事情だ。みんなどうしているんだ? こんな暗い中でも森の中へ用足しに行ってるのか? 壁で囲ってあるから魔獣は入ってこないと思うけど、この山の中が糞まみれになるのは許せん。
城へ帰る前にトイレぐらい建てていってやろう。
就寝用のテントが張られているところを過ぎ、開けた場所へ出る。人がいないので灯りもなく、離れた所の灯りがかろうじて届いている程度だ。後で灯りは用意してもらおう。水洗トイレなんて贅沢なものはできないから少し匂うんだけど、これだけテントから離れていれば文句も言われないでしょう。
土魔法で穴を掘り出したのを、アドリアーヌが驚いている。
「一体何するつもりなのっ。」
「トイレがないとみんな困るでしょ。」
「そんな大きな穴を掘ってトイレって・・・・・ 」
「まあ、見ててよ。」
魔力を放出、穴の上に建築物の外部及び床を形成、窓は天井付近に開口のみ建具無し、屋根は切妻、男女別の入口、内部にそれぞれ個室を、サイズは3尺×6尺にて10個づつ形成、個室入り口扉形成、扉可動部蝶番及びレバー空錠形成、個室内部便器便座便蓋形成、便器下床穴開口、建物入り口外部横水のタンク及び水栓金具形成。
こんなもんでトイレとして機能できるかな。あとは【魔力固定】の魔法円を展開、発動。
光り輝き、すぐに輝きは失せ、元の薄暗い状態に戻る。
「図面も無しでなんで【建築物創造】ができるのよっ!!」
「この程度の建物なら、頭の中のイメージだけで組み立てられるよ。」
俺は水のタンクに水魔法で水を張る。バルブを捻れば、ちゃんと水が出た。用足しの後の手洗いも大丈夫。
炎を灯しながら中を覗いていたアドリアーヌの素っ頓狂な声がした。
「なんで扉まで付いてるのよっ!! 最初から扉まで作ると壁と同じように固定されるのよ。こういう備品は職人さんが作って・・・・・・・ 扉が・・・・・ 開くわ・・・・・ どうして開くのよっ!!」
「いや、扉だから。」
「意味が分からないわ。なんでショウが創ると開くのっ。」
「壁の表面に扉のイメージをしただけなら、壁に扉の絵が描かれているだけになるんだろうね。俺は、扉は扉として認識して創り、可動部も蝶番やレバー空錠をイメージして創ったからね。」
「私にもできるかしら。」
「今から職人の道を極めることができれば、できるんじゃない?」
アドリアーヌががっくり肩を落としている。まだまだ若いんだから今からでも職人道、極められると思うぞ、頑張れ。
「アドリアーヌ様、呼んで参りましたが、先ほどの光はなんなのですか。皆が集まってきてます。こ、この建物は・・・・・ 」
リベルドータの後ろにはアドリアーヌの護衛達以外に騎士達が集まり、ザワザワしている。
「今ここで野営する方々のために、トイレを創りました。」
悲鳴ともとれるような歓声が上がった。全部女性達の声だったけど。女性騎士って意外にたくさんいるみたいだね。
「それって、女性用ですよねっ。」
「そうよね。殿方は林に行って済まして頂かないとね~。」
「いえ、入口が男性用女性用で分かれています。どなたか、入口に男性、女性の文字を書いて下さい。灯りが点いていませんので、灯りも用意して下さい。」
男性用もあると聞いて、ほっとした様子の男性騎士達。男が圧倒的多数の騎士団なのに排除されたらたまんないよね。
「ありがとうございますっ。アドリアーヌ様。」
騎士達が口々にアドリアーヌに謝意を述べてるけど、アドリアーヌの表情が微妙だ。
転移する場所を探してその場を離れ、もっと暗い人のいない場所に向かう。
「ショウ、ごめんなさい。あなたが称えられるべき事なのに・・・・・ 【建築物創造】は王族と領主一族にのみ、その魔法円を記した魔石を保管し使用することが許されているの。だからあの場でコナンが魔法円を使ったことを知られたくなかったのよ。」
「いや、気にしてないし。みんなが便利に使ってくれたらそれでいいよ。」
そうか、次にその魔法を使う時もアドリアーヌと一緒にやった方がいいのかな? それとも、誰もいなければ内緒でやっちまうか。
人のいたところからだいぶ離れあたりには人の気配は無い。俺の創ったトイレで、誰が先に使うのか、といった喧噪が聞こえてくる。誰が先に使うかでは無く、出したい人が使いなさい、と注意しに行きたくなる。
よし、ここで転移しよう。アドリア―ヌとマーシェリンを含めた護衛達5人を俺のまわりに密集させて転移円を展開、転移先は俺の部屋だ。発動。
見慣れた部屋だ。あー、これでゆっくり寝られる。
「ショウ、集合がペルセポーナの正刻よ。始刻には出られるように準備しておいて。」
「じゃあ、その前に起こしに来てよ・・・・・・・ 」




