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75.作戦会議 マーシェリン

 「ショウ様っ!! どうされましたっ。」


 私の向かいに座って食事をされていたショウ様が、突然背もたれに身を預けスプーンを取り落とし意識がなくなられたように目をつむり、身動きさえもなくなりました。

 アドリアーヌ様がショウ様の具合を見て下さっています。


 「大丈夫よ。寝ているだけだわ。どんなに賢くても赤ちゃんの体だものね。赤ちゃんって、手が温かくなるとすぐ寝ちゃうのよ。よほど疲れたんでしょうね。」


 そんな、ショウ様をあんなところで戦わせてしまった・・・・・  止められなかった・・・・・   私のせいでしょうか。


 「申し訳ありませんっ!! 私がふがいないばかりに、ショウ様をあのような場所で戦わせてしまいました。そのあげく、お疲れになっているのも気付かず・・・・・  」

 「マーシェリンのせいではないわ。マーシェリンが止めてもこの子はきっと止まらないでしょうね。私でも止められないわ。人を守りたいと言うんじゃなくて、情がある者を守りたいのね。イクスブルク領でヤギと一緒に旅をしてたらしいけど、そのヤギに情がわいて、助けたって言ってたわね。」

 「でも、今日助けたのは、ショウ様が会話もしたことのない騎士達ですよ。」

 「この子はテルヴェリカ領に情がわいたんじゃないかしら。だからテルヴェリカ領の人達を、力の限り助けたいのよ。」

 「そんなっ、全てを救うことは・・・・・ できないと  思います。」

 「そうね、でも目の前にいる人達は助けたいのでしょうね。」


 そうでした。私も命を救われてます。あの時、私は金属鎧を纏い誰なのかも分からなかったのに、そんな私を助けて頂きました。

 これから先も、そんな場面に立ち会えばショウ様は迷うことなく飛び込んで行くのでしょうか。その時は必ず私が隣にいます。ショウ様をお守り致します。絶対に1人でどこかへ行かないで下さい。


 「ショウが寝てしまったんだけど、マーシェリンが対策会議で発言をお願いできるかしら。」

 「えーっ、わっ、わた、私がですか?! むっ、無理ですっ。」

 「あら、ショウと一緒に戦ったんでしょ。その時の状況と、後は・・・・・そうね、戦闘中にショウがマーシェリンに何を指示したか、そんな感じの話をすれば大丈夫よ。」

 「そ、それだけでよろしいのでしょうか。」


 「アドリアーヌ様、騎士団長がお呼びです。・・・・・ ん? コナン様はどこに?」

 「コナン様は会議には出られません。わたくしとマーシェリンが行きましょう。

 イブリーナ、ショウをお願い。」

 「かしこまりました。」


 案内された大きなテントの中は椅子がたくさん置かれています。でも8人しか座っていおりません。今日討伐に出ていた隊が一隊、新たに来た隊が2隊、その隊の隊長副隊長6人に加えて、リベルドータ様とグレーメリーザ様が座っています。この2人は護衛特化の第11騎士隊の隊長副隊長なのです。

 その上座に対峙するようにテーブルと椅子が置かれていました。その席に着いているアステリオス様が手招きしています。


 「ショウはどうしたのだ。」


 他の騎士達には聞こえないように、アドリアーヌ様の耳もとでささやいています。アドリアーヌ様も同じようにささやきます。


 「寝てしまいましたよ。しばらく起きませんよ。」

 「何っ。どうするのだ。この会議でコナンの言葉を聞かせたかったのだが。」

 「ショウと一緒に行動してたマーシェリンに戦闘時の説明をさせますよ。」

 「そうか、マーシェリン、たのんだぞ。

 もうそろそろ、本部から待機組と非番の隊の隊長副隊長が到着するはずだ。もう少し・・・・・」


 言ってるそばから、続々と人が入ってきました。


 「第5騎士隊2名参上しましたっ。」

 「第8騎士隊到着しましたっ。」

 「第3騎士隊到着しましたっ。」・・・・・・・


 隊長副隊長が全員集まったようです。大きなテントも手狭な状態になりました。


 「待機中、非番中の者達もよく来てくれた。前口上は無しで本題に入らせてもらう。

 ここから西の森の中で、危険な魔獣が多数発生している。本日、第6騎士隊が遭遇し戦闘になったが30名以上の重傷者を出し撤退することとなった。」


 場がざわつき、1人の騎士が手を上げます。


 「発言をよろしいでしょうか。」

 「構わん。」

 「それだけの重傷者を出して、死亡者または行方不明者はいないのでしょうか。」

 「死亡者は無し。全員救い出された。まだ動けない者達は救護用のテントで治癒魔法を受けている。」


 質問した方がほっと胸をなで下ろしています。友人がいらっしゃったのでしょうか。


 「数多くの死者を出すかもしれない戦闘に、救出に入ってくれた剣士がいた。ここで魔獣への対応のしかたを教えて頂きたかったのだが、来られなくなったようだ。その剣士と共闘をしたマーシェリンが今ここにいる。どのような魔獣なのか。どのように戦えばいいのかを、マーシェリンに話してもらう。」


 アステリオス様が小声で、たのむ、とおっしゃいます。

 立ち上がって見回します。その場の皆が睨みつけてくるようです。ヒ~ 怖い、帰りたい。


 「あっ、あのっ、わた、私がママーシェビッ」


 いっ、痛いっ。噛みました。思いっきり舌噛みました。涙が出そうです。

 アドリアーヌ様が私にささやいてきます。


 「あなたの大事なコナン様の言葉を伝えるだけですよ。」


 あぁ、アドリアーヌ様、ありがとうございます。コナン様のお名前ガ耳に入ってきたおかげで勇気がわいてきます。

 そうです、コナン様。コナン様のおっしゃった言葉、今でもはっきり頭の中に残っています。それを皆様にお伝えするだけです。私にはコナン様がついています。


 「た・・・助けて頂いた剣士は、コナン様とおっしゃいます。」


 大丈夫そうです、コナン様。私は頑張れそうです。


 「コナン様と共に戦いました。それを皆様にお伝えします。今回森に発生している魔獣は『カラードアント』です。個体数が多くて様々な魔法を使います。大きさは皆様の体格と同じぐらいの蟻が地面を這っています。早さは騎士が全力で走っても追いつかれると思います。ここからはコナン様のお言葉です。『頭を切り落としても魔法を撃ってくる。頭に剣を突き刺して脳を破壊しろ。脳が破壊されても体が動いて突進してくる。足を切り落とせ。』このようにおっしゃいました。生命力の強さ故か、首を切り落とされても即死はしないようです。頭の無い体もしばらく動き続けます。白い蟻は治癒を使います。遭遇したら真っ先に倒して下さい。」


 場がザワザワし始めている。


 「そんな危険な魔獣なのか。」

 「そんなの相手に第6がよく戻って来れたな。」

 「明日は俺達が行かなきゃいけないんだろ。命がけだぜ。」


 「静かにしてくれっ。私は第6騎士隊の隊長だ。確かに危険だ。しかしマーシェリンと一緒にいたコナン様? この2人はいともたやすく蟻を殲滅していたんだ。きっとコツがあるんだよ。」

 「そうです。2人で走りながら、コナン様が蟻の頭を貫き脳を破壊します。通り抜けざまに私が足を切り払います。それで蟻は行動不能になります。皆様でしたら3人一組がよろしいかと思います。」

 「頭を貫いて足を切り払うのだから、二人でいいのでは?」

 「魔法を撃たれる前にそれだけの事をできればいいのですが、真ん中に槍士を据え脳天を穿つ、左右に剣士一人ずつ、常に左右の剣士のどちらか一人が魔法防御結界を張る。これで攻撃を受ける確率を下げれるでしょう。大事なことは怪我をすることなく蟻を殲滅することだと思います。」


 そうです。誰かが怪我をしたり、死んだりしてしまったら、ショウ様が悲しみます。皆が無事であって欲しいと願います。


 「では、質問があれば聞こう。」

 「団長、明日は何隊で出ますか。」

 「今、ここに来ている2隊で出る。その時は私も出るつもりだ。その次の日は本部に待機させた2隊を出す。明日のうちにこの野営地に呼んでおいてくれ。今回の戦いは長丁場になりそうだ。

 実際に戦ったマーシェリンや第6にも、助言を求めても構わんぞ。」

 「先ほどから出てくる名前で、コナンとは何者なのですか。」

 「そうです。我々第6も、多くの者が彼に救われました。それほどの剣士の存在を、私は知りません。どこの家の者なのでしょう。

 そうだ。マーシェリンが一緒に行動してたんだ。マーシェリン、コナンとはどこの家の者なんだ。」


 突然私への質問、それもコナン様の正体を暴こうとでもしているかのような・・・


 「コナン様はコナン様です。他の誰でもありませんっ!! あなた方が呼び捨てにしていい存在ではありませんっ!!」


 その場がシンと静まりかえりました。コナン様を冒涜はさせません。


 「マーシェリン、黙っておれ。

 コナンは、アドリアーヌ直属で動いている。騎士団には所属していないから誰も知らないのも無理は無い。しかし今回はここに領主アドリアーヌがいる。領主の懐刀コナンを連れてきてくれたのだ。領主が連れてきた剣士に意義がある者は名乗り出ろっ!!」

 「申し訳ありませんっ。意義があったわけではありませんっ。私共第6は満足にお礼もお伝えしていません。」

 「まだ会う機会もあるだろう。その時に礼を言えばよい。さて、質問が無ければ我々だけで『カラードアント』殲滅の作戦会議だ。

 アドリアーヌ、マーシェリン、手間をかけさせたな。リベルドータ、グレーメリーザ、おまえ達も退出していいぞ。」



 ショウ様が就寝用に張られたテントの中で、薄い毛布にくるまれています。できましたら寝心地のいいベッドで休んで頂きたいのですが、このような野営地で贅沢は言っていられません。


 静かな寝息を立てているショウ様。とても癒やされます。

 でも、小さな手足をもがくように動かし始め、うめき声まで、


 「・・・・・うっ・・・・  ううっ・・・・・」


 まさか、夢の中で魔獣と戦っているのでしょうか。

 落ち着かせるために腕の中に抱き上げます。

 もう大丈夫です。ショウ様の戦いは終わったのです。後は騎士団が引き受けてくれます。 

 「・・・うぅ・・・・・  ぅあ―――――っ!!  ・・・・・・・  あれ?・・・・・ 夢か。」

 「ショウ様、大丈夫です。ここは戦場ではありません。」

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