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72.ケルベロスですよっ!!

 舞い降りてきたのは、全身金属鎧を装備し従魔にまたがる騎士達。その中でも目を引いたのが・・・・・・・


 「キン○ギドラの犬版?」

 「ケルベロスですよっ!!」


 アドリアーヌが突っ込んでくる。


 「いや、ケルベロスに羽はないでしょうっ!!」

 「ケルベロスは魔獣なのよっ。必要に応じて羽が生えることもあるわよっ。」


 そんなこともあるのか。常識にとらわれた考え方をしてはいけないということだな。

 ケルベロスから降りた騎士が近づいてきて、面の部分をあげる。アステリオスだ。ラフターの操縦席からアルテミスが手を振ってる。


 「おとうさまーっ。」

 「これは一体何なのだ。アルテミスがあんな所にいるが、大丈夫なのか。」

 「アステリオス様、これはショウの従魔でラフターという名前だそうです。」

 「これが従魔? とても生物のようには見えないが。」

 「アドリアーヌの従魔に比べたら、凄くかっこいいでしょ。」

 「私のトラネコバスは、可愛いんですよっ。」

 「い、いや、どちらも・・・・・  そんなことはいいっ。『カラードベアー』の討伐地点が判明したと聞いてここまで来たのだぞ。討伐者はここにいるのか。」

 「ショウが討伐したそうです。」

 「え? そうか、カラードベアーはどこから来た。」


 アステリオスは俺が討伐したことを聞いても全く驚かない。そりゃそうか。『ブリザードエンペラーウルフ』を倒したのを知ってるしね。


 「この方角の森の奥から走り出てきたのを、山の麓のあたりで討伐したんだ。」


 情報を聞いたアステリオスは他の騎士達に指示を出してる。

 で、俺はさっきから、魔獣と思われる気配が、石壁の外の堀に落ちて走り回ってるのを感知している。

 ラフターで捕まえれるかな。ブームを最大まで伸ばし、立木の中へ倒しこむ。立木の枝がバキバキと響いて折れていく。ブームを水平になるまで寝かせても堀までは届かない。その先はフックから魔力の触手を堀に向かって伸ばし、堀の中でネット状にして魔獣が走り込むのを待てばいい。

 ブームを最大まで伸ばして水平に倒した状態のラフターの吊り下げ荷重はほとんどない。人間がぶら下がっただけでもラフターの後ろの足が浮き上がってしまうほどだ。てこの原理の支点、力点、作用点だね。だけどこれは魔力で創った従魔のラフターだ。アウトリガーから魔力の根を地中深くに伸ばし、しっかり固定している。浮き上がることなど絶対にないっ!!・・・・・ と思う。


 「ショウ、一体何してるの?」


 アドリアーヌがラフターの動きがおかしいと、不審に思ったようだ。


 「麓に魔獣がいるから捕まえようと思って。」

 「魔獣ですってっ? 騎士団が来てるんだから騎士団にまかせなさいっ。」


 あ、かかった。触手で作ったネットの中に飛び込んで来た。ネットの中で暴れている。ネットを引き絞り身動きできないようにして、ラフターのブームを引き上げる。鰹の一本釣りみたいに一気にブームを起こす。

 こいつも何かを撃ち出してきている。吊り上げている時から分かっていたから、魔法防御結界はもう準備済みだ。


 「アドリアーヌ!、魔法防御結界を張るから全員俺の後ろに集めてっ!!」

 「なっ、何を、  分かったわ。

 全員ショウの結界の陰に入ってっ!!」


 結界はラフターの前面に大きな盾のイメージで展開する。攻撃魔法の飛んでくる方角が分かってるから全面をカバーする必要がない。

 でもよく考えたら守らなきゃいけないのは、アドリアーヌと子供達、この三人だけだ。後は護衛騎士と騎士団長率いる騎士団がいるだけだ。この連中は戦闘のスペシャリストだし放っといてもよかったな。

 吊り上げられた魔獣を、結界を張った外側に降ろす。吊られている時から水の球を撃ち出し続けている。結界にあたり、はじけ粉々になる水の飛沫。こいつは水魔法だね。青いイノシシのようだから『カラードボア』か?


 「マーシェリンッ、頼むっ!!」

 「はいっ!!」


 結界の外へ飛び出していくマーシェリン。マーシェリンを狙って打ち出されるいくつもの水球。ひらひらと舞うようによけながら『カラードボア』のもとに駆け寄り、その勢いのまま剣を額に突き立てる。即座に後ろへ下がり短剣を構える。

 深々と額に剣が突き刺さっていても、反撃に備え油断はしない、『残心』というやつですねっ!! マーシェリンッ、かっこいいっ!! さすが、俺のマーシェリンッ。


 「ショウ、何をやっているんだ。それは騎士団の仕事だろう。それよりもこれはこんなことをするための従魔なのか。」


 アステリオスが俺に話しかけてくる。その他の騎士達はひそひそ話が止まらない。

 討伐された『カラードボア』に向かって歩きながら返事をする。


 「そういった用途の従魔ではないんだけどね。だけど魔獣はマーシェリンが討伐したんだし、マーシェリンは騎士団員でしょ。」

 「いや、マーシェリンは護衛騎士だろう。そんな危険な事をしなくても、他の騎士に任せてほしいところだな。」

 「でも、あっちでひそひそ話している騎士達より、マーシェリンの方が強いんでしょ?」

 「うっ、まあそうなんだが。できれば私の補佐にマーシェリンを欲しいぐらいだ。」


 それを耳にしたマーシェリン、聞き捨てならんと口をはさむ。


 「私はショウ様の専属護衛です。騎士隊には入りません。」

 「分かっている。そのためだけにテルヴェリカ領に残ったのだからな。

 ふむ、眉間を一突きか。『ブルーボア』も身動きができなかったとは言え、見事なものだな。」

 「え?『カラードボア』じゃないの?」

 「色が判明してない場合はそう呼ぶが、こいつは青いのが分かってるからな。」


 しゃべりながら縛りつけていたネットを消し去り、後ろ足をラフターのフックと魔力の触手でつなぎ『ブルーボア』を逆さに吊り上げ、マーシェリンに血抜きの指示をする。


 「それじゃあ、なんで『ピンクベアー』って呼ばないの?」

 「何っ!! 熊は桃色だったのか?」

 「色は聞いてなかったんだ。」

 「その報告はあがってきていなかった。桃色は複数の系統の魔法を使う場合があって危険なのだ。騎士達に桃色出現の可能性も伝えておかねばならんな。

 ショウ、有益な情報を感謝する。

 アドリアーヌ、これから森に入り魔力の澱みを探すことになる。おまえ達は早く城に戻りなさい。」

 「アステリオス様、お気を付けて下さい。」


 アステリオス率いる騎士達は、従魔にまたがり飛び去った。まあ、俺が心配することもないだろう。

 俺は俺の仕事があるし。


 「ショウ様、魔石も取り出しておきました。」

 「お、気が利くね、マーシェリン。」


 受け取った魔石を、マーシェリンの陰に隠れ『異空間収納』に放り込む。


 「さあ、ショウ。アステリオス様も言ってましたし、帰りましょうか。」

 「まだ帰れないよ。片付けなきゃいけないし、『ブルーボア』の血抜きも終わってないし。」

 「ここは危険なのよ。アステリオス様も帰りなさいといっていたでしょう。」

 「麓は石壁で囲われているし、その外側には深さ4mの堀があるんだよ。魔獣はここまでは来れないよ。」

 「でも『ブルーボア』は入ってきたんでしょう。」

 「堀に落ちたから、俺が釣り上げたんだよ。」

 「あら、そうだったわね。じゃあ、ここは安全と考えていいのかしら。」

 「そう思ってくれて問題は無いと思うよ。」

 「分かりました。私達は先に帰るわ。ショウもあまり遅くならないように帰ってきなさい。」


 アドリア―ヌ達は帰って行った。ウルカヌスとアルテミスの兄妹が顔色が悪かったけど、魔獣の血抜きを見て気分が悪くなったのかな? 残酷なのを見せちゃったかな。

 ラフターで吊られている『ブルーボア』を立木の枝に吊し変え、ラフターの魔力供給を止める。ラフターは塵と化し消え去る。

 血抜きはまだかかりそうだ。その間に作業の続きをしよう。

 さっきまでアドリアーヌが()いだ木を【門】を開き【異空間収納】にぽいぽいと放り込む。

 仕事をするにあたっては綺麗に片付いた作業場所がいいよね。散らかってると怪我もしやすいし、片付いていれば気分よく作業できるしね。作業前の整理整頓、これ大事。

 さて、まだ『ブルーボア』から血が滴っている。抜けきるまで木を()いでいよう。

 倒しては収納、倒しては収納・・・・・  で、時間を忘れてた。

 日が水平線にかかろうとしてる。『ブルーボア』を見れば、もうしたたり落ちる血は無さそうだ。さっさと収納してハンターギルドへ向かおう。


 ハンターギルドの裏に転移して、表口には回らず裏から解体場に入る。


 「あっ、デブリコンさん。先日の魔獣の件で騎士様から、誰がどこで討伐したのか、問い合わせがあったそうですよ。ギルドマスターに報告お願いしますよ。」

 「その件は騎士団長に話を通したから、騎士からの問い合わせはもう無いと思うよ。」

 「騎士団長と・・・・・  お知り合いなんですか?」

 「ああ、ちょっとした知り合いかな? それよりも、大きい台に獲物を乗せたいんだが。」


 カイン達が部屋を出ていってくれる。収納から『ブルーボア』を取り出しドンと据える。こいつも『ピンクベアー』なみの大きさだ。

 マーシェリンに呼ばれて入ってきたカインが驚いている。


 「騎士様が先日の熊を『カラード』って呼んでましたけど、こいつもそうなんですか?」

 「ああ、『ブルーボア』というらしいね。」

 「また、騎士様からいろいろ聞かれますよ。ギルドマスターに詳細を話しておいて下さいよ。」

 「いろいろ迷惑掛けたみたいだね。マスターに説明しておくよ。」


 解体場を後にして受付に向かえば、それほど広くはない受付が随分と混み合っている。一番混み合う時間に来てしまったようだ。

 小さい獲物は、受付で直に引き取って換金してくれるから、解体場に持ち込んで後日精算はしないようだ。

 俺達に気づいたハンター達がひそひそと会話をしてる。聞こえないようにしゃべっているつもりなんだろうが、まわりの喧噪でひそひそのつもりが意外に大きな声でしゃべっていることに気付かないらしい。


 「おい、あれ、デブリコンとかいう奴じゃないか。」

 「デブリコンって言えば大型の魔獣をいとも簡単に倒すらしいじゃないか。あんなさえないデブなのか?」

 「連れてる女がとんでもなく強いらしいぞ。」

 「強いって、15~6ぐらいの小娘じゃないか。」

 「小娘って言うけど綺麗な顔立ちだよな。もう何年かすりゃ色気も出て、いい女になるぞ。」

 「俺も強い女を連れて狩りをしたいよ。そうすりゃ気楽に魔獣狩りができるってもんだ。」

 「ちげぇねえ。」


 聞いてたら下品な話も混じってる。マーシェリンを見たら頬を赤くしてる。恥ずかしいのか?

 いや、そうじゃない。手を握りしめプルプルしてる。お怒りのご様子だ。マーシェリンを止めなきゃと思ったら、噂話をしていた連中をビシッと指を指して、


 「あなたたちは勘違いしてますっ!! デブリコンさんは私なんか足元にも及ばないぐらい遙かに強いんですっ!! あなた方の話はデブリコンさんに失礼すぎますっ!!」

 「まあまあ、こいつらも噂話してただけなんだから、さらっと聞き流せよ。

 おまえ達も噂話は聞こえないようにしゃべった方がいいぞ。さえないデブの助言なんだけどな。」

 「す、すいません。」


 噂話をしていた連中が謝っている前でマーシェリンが、ムフー と鼻息荒くなってる。これ以上鼻息荒く突っかかって行かないように、肩を引き寄せ逆側に立たせる。マーシェリンの頬が違う意味で赤くなったようだ。落ち着いたようでなによりだ。

 俺達の声で気がついたのか、人混みの向こうから受付嬢のシーラが叫んでる。


 「デブリコンさーんっ!! 来てるんですか―っ!! マスターが呼んでまーすっ!!」


 人混みの横、壁際のすいてるところを抜けて奥まで行けば、シーラがすぐに気がついてくれた。


 「あ、デブリコンさん。ギルドマスターがお待ちかねです。

 オバルさん、デブリコンさんの案内、お願いします。」


 オバルって最初にここに来た時にいた、笑いの沸点の低い奴だな。すぐに立ち上がってこっちに歩いてくる奴、そうそうこいつがオバルだ。


 「こちらへどうぞ。」


 オバルの後について奥に向かう。奥の階段を上った先に案内され、扉の前に立ちノックする。


 「ライトさん、デブリコンさんがいらっしゃったのでお連れ致しました。」


 部屋の中でバタバタと足音がして、扉が開かれる。


 「デブリコンさん、お待ちしてましたよ。どうぞこちらへ。

 オバル、お茶を用意してくれ。」


 部屋の中へ招かれ、座るように勧められる。ソファに腰を落ち着ける。なんだか座り心地のいいソファだ。このまま寝てしまいそうだ。まずい、あまり長話はできそうもないぞ。眠くなる前に話を切り上げなければ。


 「何を聞きたいのか分かってるつもりだから、こっちから情報を提供させてもらう。まずは『カラードベアー』をどこで討伐したか、なんだが、西に見える山の麓だ。この件はもう騎士団と情報交換をしてるから、もう騎士からのお伺いは無いと思う。今日も『カラードボア』を討伐してきた。それも騎士団と情報を共有している。それと、一般のハンターにはあの『カラード』は危険すぎる。見かけるような事があったなら、即座に撤退するように皆に伝えて欲しい。『カラード』が発生する可能性のある魔力の澱みを、騎士団が捜索中なんだけど、それを見つけるまでに発生した『カラード』が森を徘徊している可能性があるからね。俺からの情報はこのくらいかな。何か質問は?」


 途中から、お茶を用意して持ってきたシーラが横に立っていたけど、無視して淡々と説明した。

 あれ? ライトはポカーンとして理解が追いついてない?


 「え? あ、有益な情報ありがとうございます。」

 「待って下さいっ。その『カラード』というのはどのように危険なのか説明されてません。他のハンター達に危険性を伝えられません。」

 「シーラはギルドマスターよりしっかりしてるね。マスター、変わった方がいいんじゃない?」

 「私はマスターなんかいやですよ。そんなことよりもどんな危険があるんですか。」

 「攻撃魔法を使うんだ。今日の『ブルーボア』は水魔法を撃ち出してきた。前の『ピンクベアー』は風魔法だ。特に桃色の魔獣は複数の魔法を使うらしいから気をつけろと騎士団長に言われたよ。」

 「それは恐ろしいですね。一般のハンターでは対抗手段がありません。

 マスター、西の森へのハンターの立ち入りを禁止した方がいいんじゃないですか?」

 「わ、分かった。いま下にいるハンター達に伝えておいてくれ。」

 「分かりました、伝えておきます。

 デブリコンさん、先日の熊の精算なんですが、魔獣討伐の報奨金がまだ出てきてないのでもう少し待って下さい。」


 シーラがお茶を置いて出ていこうとする後を俺達も立ち上がり、じゃあこれで、と挨拶して部屋を出る。


 「せっかくお茶を持っていったのに、他に話は無かったんですか。」

 「もう眠いから帰るよ。」

 「お疲れの所を、ごめんなさい。」


 今の時間は外は賑やかそうで、人目につかない所を探すのが大変そうだ。執務室の隣に会議室なんだろうか、大きめの部屋があった。シーラに断って部屋を使わせてもらう。


 「シーラ、これから魔法を使って帰るけど、内緒にしておいてね。」

 「えっ、どうやって。」


 足元に転移円を展開、自室へ転移。


 腹が減っているんだけど、もう眠い。マーシェリンが何か言ったかな?  眠くて理解出来ない。  デブリコンのままベッドに倒れ込む・・・・・・・

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