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51.パラレルワールド

 自室のベッドに寝かされて、ようやく帰ってきたと実感する。出掛けていたのは、それほど長くはなかったけど、いろんな事を知ることが出来た。

 原初の女神の創造によるこの世界が、次元の狭間に創られた空間であり、門を通って別次元に移動できる事が分かった。

 赤ん坊のまま意識が覚醒してから、そろそろ8ヶ月ぐらいか。今までも随分といろいろなところへ行ったけど、この世界の外、異次元世界にまで行けそうだ。

 まず、行きたいところはルーナレータの門の向こう側だな。ルーナレータが干渉して転生させた存在がいるらしい。その人に会ってみたいよね。どんな生活してるんだろう。その世界も魔法が使える世界なのかな。

 気分だけ先走りしても、俺が自由に動けるようにならなきゃ駄目だよね。

 明日からは歩く練習をしよう。早い子供なら8ヶ月ぐらいで歩き始めてるよね。壁につかまって立ち上がる事は出来ている。そこから一歩を踏み出すのに恐怖が伴う。転ぶと痛い、という知識が先行するんだよね。

 きっと普通の赤ん坊は、恐怖なんか全くなく、歩きたいという願望、楽しい事をしたいという欲望に突き動かされてるんだろうね。俺もそれに習って、明日こそは歩こう・・・・・  眠い・・・・・・・



 朝か。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。今日は、子供部屋へ


 「ショウ、おはよう。帰ったんなら教えてくれれば良かったのに。」


 考え事の最中に、すぐ横からの突然の朝の挨拶。そうか、アシルがいたんだ。いつの間にかベッドに潜り込んでいたみたいだ。


 「子供はたくさん寝ないと大きくなれないんだ。俺が寝てるときにアシルも一緒に寝れば、もっと大きくなれるかも知れないぞ。」

 「あたしは無理だよ。もう大きくなれないよ。ショウが寝てるのを邪魔しないから、隣にいてもいいでしょ。」

 「ああ、構わないよ。」

 「ねえ、今日はどうするの。何処か連れてってよ。」

 「今日は、歩く練習だ。」

 「ええー、面白そうなとこ連れてってよー。」


 マーシェリンが入ってきた。


 「おはようございます。今日は、アドリア―ヌ様に呼ばれております。準備が整っているようなら、ウルカンドラの初刻に執務室に来るようにとの指示をたまわっております。」 「えー、そうなの。今日は歩く練習をしたかったのに。」



 アドリア―ヌからの出頭命令だ。しょうがない、そっちが優先か。

 マーシェリンに抱かれて、執務室へ向かう。暇なのかアシルがくっついてきた。


 「アシルは呼ばれてないだろう。」

 「あたしはショウに何処までもついて行くんだ。」

 「アシルは口が堅い? 人に話されると困るような話もするんだけど。」

 「ショウにお願いされたら、絶対喋らないよ。」


 そうだった。アシルはお願いすると、ちゃんと聞いてくれる素直ないい子だった。



 「おはよう、そして、お帰りなさい。ショウ。よく眠れたかしら。」

 「ただいま。うん、ただいまって、帰ってこれるところがあるのっていいね。」

 「そうでしょう。何処かへ出掛けることがあっても、ここはあなたの家よ。いつでも帰っていらっしゃい。」

 「そうするよ。ありがとう、アドリア―ヌ。それで、俺は今日はなんで呼び出されたの。」

 「ショウがしでかした一連の騒動を、文書にまとめてアンジェリータ様に提出しなければいけないのよ。」

 「俺、色々話したよね。他に何を知りたいの。」

 「話が前後したり、順序が逆とか・・・・・  後は、次元の狭間とか、順序立てて話を聞きたいわ。」


 他の面々には聞かせないほうがいいだろう。二人だけになっても、アシルは聞いていそうだな。言葉が違えばアシルも理解出来ないか。日本語で喋るか。


 「話してもいいけど、この世界の人間には理解出来ないと思うよ。次元の狭間の話については、アドリア―ヌでさえも理解出来てないみたいだし。」

 「あら、日本語ね・・・・・  理解が及ばなくても、記録として残せるものなら残さなくてはいけないわ。後世でそれを理解出来る人が、記録を見て研究することもあるでしょう。」

 「ああ、分かった。この世界の形から話すよ。推測がかなり含まれるからね。」

 「ええ、構わないわ。」

 「ルーナレータが管理する国境門、原初の女神は【(ゲート)】と呼んでいたんだけど、その門の向こうの世界。そこが原初の女神の最初の世界だと思う。その世界で門を開き、門の中にこの世界を創造した。何のために? 推測しか出来ないけど、自らの分体を向こう側の世界に置き管理させ、原初の女神はこの世界に籠もりたかったんじゃないのかな。」

 「そんな、この世界を創った・・・・・?」

 「隠し部屋の書庫で見た本に載っていたよ。次元の狭間に空間を維持し、その中での自然現象も全て管理する、それが天空の魔法円だよ。直径にしておよそ二千キロメートルの円。地上には、王直轄領を中心に12の領が廻りを囲っている。でも最初から分かれてはいなかったと思う。この空間内で生活する人達が増え、その中で魔力の強い者が現れ・・・・・ 最初から王城があったのかは知らないけど、転移トラップに引っかかった奴が女神に会って、魔力レベルを上げてもらって、生きてる間に魔力をもっと強く育てて、死した後にまで、原初の女神に眷属としてこき使われるんだよ。で、眷属が増えるごとに別次元に門を開き、その別次元の世界の管理をまかせているんだろう。」

 「別次元の世界?」

 「並行世界・・・  パラレルワールド、とか聞いたことは?」

 「本で読んだ記憶はあるわね。でも興味が持てなかったのよ。あまり記憶に残ってはいないわ。」

 「ほんの些細な分岐点から枝分かれしたとされる、無数の平行世界があるとされていたんだけど、その元々あった世界に原初の女神が門を開いて、行き来出来るようにしたのか、あるいは・・・・・    気分次第で、平行世界までも創造しているんじゃないかと思えるんだよね。眷属が増えるごとに、そんなに都合良く異次元世界が見つかって、そこへ門をつなげられるんだろうか。そんなことをしているぐらいなら、門を開いたその向こうに新しい世界を創ってしまえ、とか思ったりして。」


 あれ? アドリア―ヌ、頭抱えてどうしちゃったの。そんなに難しかったかな?


 「私だって理解出来ないのに、どうやって書類に纏めろって言うのよ。」

 「じゃあ、俺はもう居なくてもいい?」

 「いいわけ無いじゃないっ。私にもわかりやすいように説明できないのっ。」

 「推測がかなり多かったけど、今まで喋ったことが、事実にかなり近いと思うんだ。それで理解出来ない、もっとわかりやすくって事なら、フィクションを絡めて物語を作ってしまえばいいんだよ。」

 「じゃあ、わかりやすく物語を作ってもらえるかしら。」

 「ええー、俺がやるの? こんな小さな子に仕事を押しつけるなんて、酷いじゃないかっ!!」

「やる事なす事、子供がやってる事じゃないでしょうっ。普通の大人だってそんなことしませんよっ!!」


 しょ、しょうがない。俺が纏めなきゃいけないのか。衣食住のお世話になっていることだし。魔力の触手を繰り出し、紙とペンを取り、さて、何から書こうか。



 “ルーナレータの国境門の向こう側の世界、まだルーナレータは存在せず、その世界には唯一、原初の女神が存在した。

 原初の女神は、その世界に国境門を創りその外側にもう一つの世界を創造した。

 原初の女神は自らの分体に、元の世界と国境門を管理させ、自らは新しい世界へと(うつ)り人々を住まわせた。

 その新しい世界に住まう者達の中に魔力の強い者が現れ、原初の女神はその者の魔力を強化し、生ある間さらに魔力を育てよ、死した後我が眷属となり尽くしなさい、とおっしゃった。

 長い(とき)の間に11の眷属が誕生し、その眷属それぞれに国境門を開き国境門と外側の世界の管理をまかせた。


 原初の女神の眷属となるには

 王立図書館の地下には、一定以上の魔力量を持った者にしか見えない魔法円が隠されており、その魔法円に魔力を注ぐことにより原初の女神の元へ転移する。そこで原初の女神に魔力の強化を受け、その魔力を育て、鍛えて、さらに魔力量が増えることにより、天空の魔法円が視認出来るようになる。天空の魔法円に魔力を注ぐことにより、もう一度原初の女神の元へ招かれる。そこでは、さらに魔力を鍛えなさい、死した後眷属になりなさい、との言葉を頂く。”



 「平行世界だの、パラレルワールドだのを取っ払って、この世界で使われている言語で、わかりやすく説明してみたつもりだけど、どうかな? フィクション入れなくても、なんとか説明できたっぽいし。」

 「こっ、この世界の説明が、こんな簡単になっていいの?」

 「この世界の説明を細かくいれたら、誰も理解出来なくなるよ。この世界が次元の狭間に創られて、空間の存続から、空間内部の自然現象、太陽、月、星の運行、潮の干満、季節の移り変わり、天候等々、全てが天空の魔法円に組み込まれているんだ。前に言ってたよね。この国は結界に囲われて守られてるって。結界の外には何も無いんだ。次元の狭間の虚無の空間とでも言えばいいのかな。そこに浮かぶ、結界に囲われた空間がこの世界だよ。」


 あ、また頭を抱え込んでる。どうしよう。説明書にもう少し付け足したほうがいいのかな。

 ばっと顔を上げたアドリア―ヌ。


 「この文章を採用よっ。ここに付け足しも、削る事もしないわ。このままアンジェリータ様に届けましょう。もうこんな事で悩んでいたら、他の仕事がたまる一方だわ。」


 自分で文章変更は、完全に諦めたみたいだね。


 「でも、自分で清書してね。」

 「え?」

 「何だよ、その紙にアドリア―ヌの署名だけして送るつもり? 筆跡が違うってモロバレでしょ。」

 「もっ、もちろん、書き直すわよ。とっ、当然じゃない。」


 当然じゃないような顔してますよっ。本当に書き直すんですかっ。


 「今回は助かったわ。ありがとう。何かお礼をしたいけど、欲しいものはある?」

 「ええっ、何かくれるの? と言ってもそんなに欲しい物は・・・・・  ああ、そうだ。靴を所望する。そろそろ歩く練習をしようと思ってたんだ。ウルカヌスのお下がりの靴があればそれでいいよ。」

 「ちゃんと靴職人を呼んで、新調してあげるわよ。」

 「すぐにサイズが合わなくなるから、今はお下がりでいいんだよ。でも服はアルテミスのスカートはやめてね。」

 「分かったわ。今日中に探しておきましょう。他には何かないの?」

 「そろそろ、離乳食を始めて欲しいかな、と思ってるんだけど。」

 「もう離乳食は用意したのよ。ショウが突然いなくなったから食べられなかったのよ。今日のお昼に用意してあげるわ。」


 おおー、さすが二児の母ですね。気が利いてる。今日から離乳食だ。

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