46.我慢が利かない子供みたい
人の会話が聞こえる。部屋の中に何人かが集まっているようだ。目覚めてみたら・・・ あ、股間が気持ち悪い。洗浄魔法円、展開、洗浄ー・・・ スッキリー。
「目覚めたようね。もうお昼頃よ。気分はいかがかしら。」
「ああ、アドリア―ヌ、来てたんだ。マーシェリンは目覚めてる?」
「半刻程前に目覚めたんだけど、部屋から出て行ったっきり、ショウのそばに近寄ろうとしないのよ。マーシェリンに何か酷いことでもしたの。」
「俺は何もしてないよ。やったとしたなら、原初の女神だ。強制的に大量の知識を頭に詰め込まれた。マーシェリンに何か、記憶障害とか出てないよね。」
「ほとんど会話もしてなかったから気づかなかったけど、一体何が起こったの。順序立てて説明していただけるかしら。」
「順序ね。順序かー。そう、順序が逆だと言われたんだ。」
「何を言ってるのか、さっぱり分からないわね。本当に順序を考えてるの。」
「ああ、そうね、どこから? 円形の部屋へ下りるとこから?」
「そこは、イブリーナに聞いてるわ。マーシェリンが倒れたところからよ。何故マーシェリンは倒れたの?」
「あの時、俺を抱いていたから、マーシェリンは部屋に足を踏み入れる事ができたんだと思う。その後に続いたイブリーナは足を着けられずに弾き飛ばされたからね。
あの部屋は、人を魔力量で選別するんだと思う。そこに俺の魔力を感知した部屋が、魔法円を起動して強制的に魔力吸引を始めた。それが俺からではなく、足を着いていたマーシェリンから。マーシェリンは倒れるときに体を捻って、俺を床に付けないように抱きしめて倒れたから、どんどん魔力を奪われて、しょうがないから俺の魔力をマーシェリンの体を経由させて、床に展開された魔法円に供給させたんだ。」
「ちょっと、待ちなさいっ!! 魔力をマーシェリンの体を経由させたー? 何て事してるのよ、あなたはーっ!!」
突然、アドリア―ヌに襟首をつかみあげられた。
ちょっ、待てっ、苦しい、苦しい、つかみあげた手をパンパンと叩いたら、アドリア―ヌが、はっ、と我に返り手を離してくれたけど、幼児虐待だよねっ!!
廻りを見れば、護衛の面々が、一歩引いた感じで口に手を当てていたり、イブリーナが顔が真っ赤になって横を向いてる?????
「前に言ったわよね。他人に魔力を干渉させないようにって。」
「なんか、聞いたようなー・・・・・ 気がする。」
「マーシェリンがショウを避けてる理由が分かったわ。そんなことをされたのなら、もしかすると、マーシェリンは、」
突然、俺の耳に口を寄せささやく。
「レイプされたと思っているかも知れないわよ。」
「ええーっ、嘘だーっ、嫌だ嫌だ、マーシェリンに嫌われたくない。そんなつもりじゃなかったんだよ。あのままじゃ、マーシェリンが 大変な事になると思ったから。」
「まあ、レイプは言い過ぎだけど、女の子に対してそれほどまでに衝撃的なことをしてしまったということは、自覚しておきなさい。」
イブリーナに訪ねるような視線を送れば、察してくれたようで、頬を染めながらコクコクと首を振っている。他の面々も似たような反応だ。
「マーシェリンには、私からも口添えはしておきますけど、あなたも自分でちゃんと謝っておきなさい。」
「マーシェリンは何処? マーシェリンに会いたい。マーシェリンに謝らなきゃ。」
涙がこみ上げてきて、ボロボロと頬を伝い落ち、我慢できずに声を上げて泣き続ける。マーシェリンはこの世界で初めて会った人だ。その後も、ずっと一緒にいてくれた。そんなマーシェリンを傷つけてしまった。これからもずっと一緒にいてくれるだなんて、思い上がりも甚だしい。謝って許してくれるだろうか。許されなくても謝らなきゃ。
「あなたは泣かない子だと思ってたけど、意外ね。これじゃ話が聞けないわね。
イブリーナ、マーシェリンを大至急連れてきて。隣の部屋にいると思うわ。」
「かしこまりました。」
イブリーナが走り出ていくが、すぐにマーシェリンの腕を無理矢理という感じで、引っ張って戻ってくる。
泣き止まない俺を見たマーシェリンが、驚いた顔でベッドに駆け寄ってくる。
「ショウ様っ。どうされましたか。何処か、痛いところがありますか。」
「マーシェリン、ごべんなさーい、うっ、うっ、酷いことをしちゃって-」
えっ? という顔でアドリア―ヌを見るマーシェリン。
「ショウが言ってるのは、マーシェリンの体に魔力を注ぎ込んだことを言ってるのよ。そんなことをしたら、マーシェリンに嫌われてもおかしくないわよ、って叱っておいたわ。」
「それは・・・・・ 私が悪いのです。ショウ様をお守りしなければならないのに、また危険なめに合わせてしまったのです。今回の事は、ショウ様は私を守るためになされたことです。」
向き直ったマーシェリンが、俺を胸に抱く。
「うっ、うっ、マーシェリンー」
「ショウ様、ありがとうございます。マーシェリンは幸せ者でございます。ここまで思っていただけるなんて・・・・・ ただ、あっ、あの、あのような・・・ けっ、経験、衝撃はっ、初めてだったのでっ・・・ ショウ様とっ、かっ、顔を合わせるのが恥ずかしかったのですっ。」
「マーシェリンー」
マーシェリンの胸に顔を埋めて泣き続ければ、ギュッと抱きしめられる。マーシェリンの胸は温かく、ずっと抱かれていたかった。
アドリア―ヌにヒョイッと持ち上げられ、ベッドの上に置かれる。
「さて、落ち着いたかしら。」
「酷いよ、アドリア―ヌ。」
「領主は忙しいのよ。ここにいるだけで、どれだけ仕事がたまっていくか、分かるかしら。」
なっ、泣く子も黙る、その笑顔・・・ 怖い・・・
「それで、魔法円を魔力で満たして、何処へ行ったのよ。」
「人払いを頼みたい。」
「また、、あの件なの? 分かったわ。
皆、この部屋から出てちょうだい。」
マーシェリンが、私もですか? みたいな顔をして見つめてくる中、皆が扉に向かって歩き始める。
「マーシェリン、待って。」
にこやかにマーシェリンが近づいてくる。
「やはり、私はショウ様のおそばに、」
「そうじゃなくて、体に不具合は無い? 記憶が飛んでるとか、頭が痛いとか。」
「そう言われますと、頭が重いような感じでしょうか。いえ、実際に重いわけでは無いのですよ。そんな感じがするという程度です。」
「ああ、その程度なら大丈夫かな。それと、女神の件は誰にも喋らないようにね。それじゃ、扉の外で待ってて。」
「ええっ、私はショウ様のおそばにいられるのでは?」
ええっ、そんな悲しげな顔で見ないで。マーシェリンの胸に抱かれたい。マーシェリンのお膝に座りたい。そのまま眠りにつきたい。手がマーシェリンに伸びている。
「マーシェリン、あなたに聞かせたくない話もあるのですよ。」
スパッと切り捨てるアドリア―ヌの言葉に、腹の中で毒づく。
『鬼ですかっ!!』
マーシェリンが寂しそうに出て行くのを見送ることもなく、俺を振り返ったアドリア―ヌ、鬼の形相か?
にっこりと、
「領主は忙しいのよ。何処まで話したのかしら。」
ヒエ―、ヤバい。さっさと洗いざらい話して終わらせよう。
「そう、あの部屋から何処に行ったのか、からの話だよね。転移の魔法円を強制的に発動させられて、また原初の女神の所に飛ばされた。あれはもう、原初の女神の『転移トラップ』と呼んでもいいよね。」
「私は過去に、その部屋へ何度か行ってるけど、何も起きなかったわ。」
「原初の女神の、眷属になり得る魔力量がある者を選んで、女神の所へ転移させてるんじゃないかな。あの大きさの魔法円の割に、吸い出された魔力量が意外に多かったのも、それが理由だったのかな。」
「それで、原初の女神様は今度は一体何をおっしゃられたのかしら。」
「順序が逆だと言ってたね。」
「逆とは一体、どういう意味なの?」
「最初に、図書館の地下から、女神の元へ飛んで魔力を授かり、それを大きく育てて、天空の魔法円に魔力を注ぐらしい。その後は、死ぬまで魔力を鍛え続けろと言うことなんだろうね。女神としては、二人も転移してくるのは予想外だったらしくて、マーシェリンに、大きな魔力が欲しいか聞いてきたんだけど、マーシェリンは断ったんだ。その後も何が欲しいのか問われて、地下の書庫の書物を読む知識が欲しいと答えたら・・・・・ 死にそうな目に遭った。」
「その知識を・・・ あなたは受け取ったの。」
アドリア―ヌが身を乗り出してきた。今にもその知識をよこせと言わんばかりに。
「ああ、頭の中に収まってると思う。ほんの僅かしか確認してないけどね。」
突然、抱き上げられ、ギュッと抱きしめられ頬ずりをされる。さっきまでの鬼の笑みは何処行った? 表情が柔らかくにこやかで・・・ 豹変ぶりが、かえって恐ろしい。
「なっ、何なんだよ、突然。」
「ショウにお願いがあるの。地下の書庫の書物の全てを翻訳して欲しいの。」
「何言ってんの。どんだけの本があるのか知ってるの? 無理だよ。」
ベッドの上に戻され、諭すように喋りかけてくる。
「大丈夫よ、あなたはまだ赤ちゃんだし、時間はたっぷりあるわ。ずっとここで生活してくれていいわよ。生活費はテルヴェリカ領から出してあげるわ。」
「あ、それは多分必要ないと思う。テルヴェリカ領に帰ってもいいよ。」
「何を言ってるの。毎日、図書館に通ってもらわなきゃ。」
「書物は、全部頭の中に入ってるからいいよ。」
「ええっ、書物全部? そんなものどうやって。」
「強制的に脳内に詰め込まれた。頭、爆発するんじゃないかと思ったよ。治癒の魔法円に、データ圧縮をイメージして展開したら、なんとかうまくいったみたいで、脳みそ爆発せずにすんだよ。マーシェリンと二人で、血の涙を流してたんだよ。かなりヤバかったよ。」
「ここに運び込まれたときは、二人とも血まみれだったと聞いてるわ。それが原因なのね。」
「その後で意識が飛ぶ寸前に聞いた言葉が、あの円形の部屋にはもう一つ部屋があると言っていた気がする。もう一度、あの部屋へ行って、その隠し部屋を探したいんだけど、だめかな?」
「何ですって―――っ!! それはっ、女神様がおっしゃったの?」
「多分、そう言ってたと思う。」
「時間はまだ大丈夫よね。今から図書館へ行きますよ。」
扉に向かい、外の護衛達に指示してる。アドリア―ヌも、隠し部屋を見たいのか? 今まで誰も見たことがない書庫があるとなれば、どんな書物があるのか期待で胸が膨らむのも、しょうがないか。
「マーシェリン、ショウはあなたが抱いて行きなさい。では、皆さん、急いで行きましょう。」
我慢が利かない、子供みたいだね。




