45.引きこもりのニートですかっ!!
ビクッ、 フガッ ・・・・・ ん?
ああ~ 寝てるときに突然、びくっとなって頭が覚醒するやつだ。
まだ暗いな。夜中かな? ちょっと外が明るみ始めてる。夜明け前か。
さあ、今日は図書館だ。楽しみにしていたんだよね。どんな本を読めるんだろう。こんなに朝早くから、目が覚めてしまうぐらいだから、わくわくしてるんだろうね・・・・・?
あれ? 図書館? 行ったような記憶があるんだけど・・・・・ でも、本を読んだ記憶が無い? 何か・・・ あった?・・・・・
「あ―――――っ!!」
原初の女神だっ!! 何をされた? 知識だ。大量の情報を、強制的に流し込まれた。
「ショウ様、どうされましたっ。お体は大丈夫ですか。」
え? イブリーナ? そ、その顔はなんだ。泣きながら突っ伏して、寝入ってしまったような・・・ しかも涎を、じゅるっとすすりましたねっ!!
赤く瞼が腫れ上がり、指摘するのもかわいそうになるぐらいだ。ちょっと治癒魔法をかけておいてやろう。そうだ、原初の女神が展開した魔法円、あれを使えるかな。試しに使ってみようか。
何の問題も無く、魔法円は展開出来た。魔力を注いだら、大量の魔力を持っていかれた感じだ。
魔力量が少ないと一回の治癒で魔力切れを起こすか、魔力量が足らなくて治癒の発動まで至らないかもしれないぞ。さすが『原初の女神』の治癒円、使用者を魔力量で限定するんだね。
「今のは何なのですかっ。体の疲労が消えてしまったようです。体力回復の魔法でしょうか。」
「治癒だと思ってやってみたんだけど・・・ 原初の女神が使った魔法なんだけどね。顔の腫れは治ったみたいだから、治癒でいいのかな?」
「腫れておりましたか。ありがとうございます。」
「でも、よだれの跡は残ってるから、顔洗ってこれば。」
「すぐに、グレーメリーザ様を呼んでまいりますー。」
イブリーナが顔を赤くして、走り出ていった。
さて、マーシェリンだ。同じベッドの上で寝息を立てている。呼吸は普通だ。肉体の損傷は無いと思われる。でも脳だ。あれだけの情報量を一気に流し込まれて、脳に損傷を受けていたりはしないだろうか。
自分の頭の中を探ってみると・・・・・ ああ、そうだ。治癒魔法に、データ圧縮を強烈にイメージしたんだ。データ圧縮はうまくいったようだ。できていなかったら、どうなっていたんだろう。脳みそバーンで即死か? 脳に損傷を受けて廃人か? 脳の損傷は治癒魔法で回復できたとしても、記憶は消えてしまうんだろうね。あ、それもいいかも。普通の赤ん坊としてリセットされれば、普通の人生が送れたかも。
いや、そんなことより、マーシェリンの記憶を無くさせるわけにはいかない。マーシェリンの脳は大丈夫だろうか。
起こしてみたいけど、無理に起こすのも宜しくないような気がするし・・・・・ 自然に目覚めるまで待ってみよう。その間は、強制的に流し込まれた知識の検分でもしてみるか。
人間の脳は、70%以上が使われていないと聞いたことがある。この流し込まれた情報は、その休眠状態の部分に、圧縮データとして収まったようだ。ただデータが入っているというだけで、活発に脳が活動している状態では無い? それが活動してたら、超天才になったかな?
PCのハードディスクを分割して、ソフトを動かす領域とバックアップデータを保存する領域に分かれていると、理解すればいいか。
脳が活動する領域が増えたわけじゃ無いから、天才になったわけじゃ無い。思考速度が上がったようでも無いし。相対性理論の理解なんて・・・ 無理だな。試しにベロンと舌を出しても、アインシュタインの考えには及びもつかないようだ。アインシュタインの舌を出した顔を見たことあったけど、舌を出すと脳が活性化されて、天才になったり? ならなかったり?・・・・・ 天才の考えることはわからん。
ともあれ、脳内のイメージが、あの地下にあった円形の部屋のイメージになっている。というか、自分自身でそのイメージがしやすかったのだろうと思う。その中に俺が立っている。まだ立って歩けるわけじゃないのに、俺の存在も単なるイメージだから立っていられるんだろうね。
ぐるっと見回せば、壁には12の扉があり、神々の名が刻まれている。その扉、それぞれにデータが圧縮されているのだろう。扉を開くと解凍出来るのだろうか。
ルーナレータの扉を開けてみよう。
ぐわ――――っ
大量の情報が流れ出てきて、ヤバい、ヤバい、頭がパンクするっ!!・・・ ?
あれ? 最初の勢いでびっくりしたけど、それほどでも無かった? 全ての情報が出てきたわけでも無いのかな。円形の部屋が情報でいっぱいになれば、止まるのだろうか。
さて、原初の女神はどんな情報、知識をくれたんだろう。
うん、本だ。大量の本だ。俺が望んだのは、本を読むための知識だ。文字、単語の意味、文法が分からないと、読めないでしょうがっ!! 本が欲しかったわけではありませんよっ!!
まさか、あの地下の扉の向こうに所蔵されている書物全部、頭の中に放り込んでくれたのか。書物を読むための知識が欲しいと、お願いしたはずだよね。全く人の話を聞かない神だっ!! どうするんだ。こんな、本のデータだけが大量にあっても・・・・・
? あれ? 表紙の文字が読める? なになに、『欲望の果てに』 パラパラとページをめくってみれば、『だめっ、そんなピ―――しちゃ。男はピ―――――――してピ―――――――――』 エロ小説ですかっ!! こんなろくでもない物を頭に詰め込みやがったのか。原初の女神めっ!! その世界の歴史書とか、地理の本とか、偉人伝とかでは無く、最初に手にした本がエロ本とか・・・ エロ本混入率高いのか? この書物の山が全てエロ本とか、無いよねっ!!
でも、文字が読めて、意味が理解できる。お願いした事を聞いてくれたみたいだ。単語の意味も分かる。文章も理解出来る。原初の女神様、グッジョブ。
おっ、これは地図の本か? 海にはさまれた国がメインになってる地図だ。王国の名前が記入されてるけど、読み方が分からない。単語の意味は分かる。だから王国は理解出来るが、固有名詞である国名が読めない。多分、国名が『北の果て王国』とかだったら頭の中で変換してくれたかも知れないが、そのような意味の当てはまらない固有名詞は無理みたいだ。
その近辺に、いくつかの国々があって、そのまた東に砂漠があって、その砂漠は『砂虫の砂漠』と名付けられている。そのような名詞は読めるようだ。
しかし、読めるだけであって、発音が出来ない。これではその世界に行ったときに、現地の人との会話が成り立たない。筆談で意思疎通するしか無い。何故、原初の女神は、そういう所に、サービス精神が欠如しているのですかっ!! しゃべれるようにしてくれたって、いいじゃないですかっ!!
それはそれでしょうがないっ。気を取り直して、他にも何かめぼしい本は・・・ この王国の歴史かな?
神の降臨と共に、神々の国につながる門が創られた。と記されている。門はルーナレータが守護する門の事を言っているんだろう。すると、この時の神の降臨は原初の女神か? その門を創ったということは、その門につながるこの次元の狭間の空間を同じ時に創ったと言うことだよね。その後、原初の女神が分体と言っているルーナレータを、そこに配置し門を管理させた。
何故、原初の女神はこんな空間を創り、維持しているんだろう。引きこもりたかったのか? 引きこもりのニートですかっ!!
誰かが部屋に入ってきた気配がした。慌てて情報を元の場所、ルーナレータの扉の奥へ押し込み、扉を閉める。
目を開ければ、グレーメリーザが入ってきてベッドに近づく。
「ショウ様、お目覚めだと聞きましたので、こちらへ伺ったのですが、またお休みだったようですね。起こしてしまいましたか。」
「いや、目を瞑って記憶を探っていたんだ。色々あったから。」
「色々ですか。何があったのかは、私は伺いませんが、アドリア―ヌ様は全てを知ろうとしますよ。」
「ああ、そうだね。俺が伝える全てを理解出来るのも、アドリア―ヌしかいないだろうし。アドリア―ヌはいつ会いに来るの?」
「ショウ様がお目覚めになったら連絡を、とのことでしたので今イブリーナが連絡に走りました。今日中には、こちらに来られると思いますよ。」
「それまでに、マーシェリン起きるかな?」
「寝ているだけのようですから、じきに目覚めるかと思いますよ。」
「じゃ、それまで一人で静かに頭の中を整理してるよ。」
「では私は、お乳のポットを用意してきます。」
また、ベッドに寝転がり目を瞑って、円形の部屋をイメージ・・・・・ 何か大事なことを忘れてないか?
意識を失う直前に、何か言ってたような・・・・・ そうだっ、もう一つ部屋があるとか、言ってなかったか。
円形の部屋のイメージの中で、周りを見て・・・ どう勘定しても、扉の数は12だ。どこかに隠し扉があるのだろうか。自分が見たこともない隠し部屋がどこかにあるのか、今見えてる風景は俺の脳内のイメージを写す出しているだけの風景だから、隠し扉が見つけられないのか。
いやもしそうなら、12の扉だってイメージで見えているだけなんだから、扉を開けて中の本を確認することなんて出来なかったはずだ。
この世界での魔法には、魔法円に魔力を供給して発動するんだけど、そこに自分のイメージを上乗せすることで、補助的な効果が乗っかって来るみたいだ。魔法にイメージは、かなり重要な役割を果たしているようだ。
では、13番目の部屋が、魔法で隠されているとしたら、この円形の部屋の中に俺のイメージでもう一つの扉を作れば・・・・・ おお――、やってみるもんだね。13番目の部屋の扉が現れた。その扉には何も刻まれていない。とりあえず、入ってみよう。
扉を開け部屋に入ろうとして、壁にぶちあたり弾き飛ばされた。扉の向こうには何も無く、目の前には壁があるだけだった。クッソー、単に脳内のイメージで扉だけ作っても、隠し部屋にはアクセスできないのか。
これは、実際に円形の部屋を調べないと、見つけられないんじゃないかな。もう一度あの部屋へ行かなくてはいけないんだろう。まあ、機会をを見て連れていってもらおう。
もう、朝だ。明るくなってきた。先ほど人が入ってきた気配がしたけど、イブリーナが時間凍結の革袋を持って椅子に座ってた。
「ショウ様、お乳のポットを持ってまいりました。お休みのようでしたけど、まだお疲れでしょうか。」
「いや、そんなことはないよ。」
いつものように、魔力で哺乳瓶を作って お乳を注ぐ。
「あのっ、き、今日は・・・ わ、私が、抱っこしてお乳を飲ませてさしあげますっ。」 「なに、突然。」
「そうしたいのです。」
「あ、ああ、そう。じゃ、お願い。」
イブリーナに、ひょいと抱き上げられお乳を飲ませてもらう。なんだか恍惚の表情をしてるけど、母性に目覚めたか? もう騎士なんかやめて、何処かへ嫁いだほうがいいんじゃないか?
おなかが膨れて、瞼が重い。マーシェリンが目覚めるまで起きてるつもりだったのに。やっぱり疲れてるのか・・・・・




