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39.うちの子です

 深夜、突然の魔力の動き。近辺ではないわ。ヘイレーネーの方角? 王直轄領から? またショウが何かをしたのかと思ったけど、これは違うのかしら。

 バルコニーへ出て、夜空を仰ぎ見ればヴァランタイン領の方角から、夜空に光る紋様が広がってきている。まさか、ショウの言っていた天空の魔方円?

 ショウは部屋にいるの? 部屋から走り出れば、リベルドータ達も走り出ていた。


 「アドリアーヌ様、何事ですか。」

 「まさかとは思うけど、ショウは部屋にいるの?」

 「私が確認して参ります。」


 リベルドータが一気に加速して走り去る。あれにはついて行けないわ。私は私なりに急ぎましょう。それよりもイブリーナね。今回はイブリーナにも教えないといけないのかしら。今回のは大事過ぎるし、隠し通せないでしょうね。命令すれば秘密は守ってくれるだろうし。


 「イブリーナ、今起きている事、これからわたくし達がとる行動、そして話す事柄、全てを秘密にできるか問いたいの。」

 「私はアドリアーヌ様の秘密を喋るなど、絶対にいたしません。」

 「そう、ありがとう。信じているわ。これからの事なんだけど、説明している時間があるか分からないから、一切質問はしないで。今起きている事が落ち着いたら、説明をしてあげるわ。」

 「かしこまりました。」


 ショウの部屋へ着く前に、リベルドータが 戻ってきた。


 「アドリアーヌ様、ショウ様がどこにもいらっしゃらないようです。」


 予想はしてたけど・・・・・  いえ、予想どころではないわね。こんなことショウ以外ないでしょう、と思って走ってきたんだけど。

 これほどの魔力解放をしてあの子は大丈夫なの。天空に浮いた状態で魔力切れを起こしたら、地上に落下するとか考えないのかしら。お願い、すべての神様、ショウを守って。


 グレーメリーザが出てきた。


 「申し訳ありません、アドリアーヌ様。私が付いていながら、ショウ様がいなくなってしまいました。今マーシェリンが部屋中をくまなく探していますが、見つからないようです。」

 「マーシェリンと話をしたいわ。」


 部屋の中に入れば、ベッドの下をのぞき込むマーシェリンがいた。そんなところを探したってショウがいるわけがないとわかっているはずなのに。


 「マーシェリン、あなたに聞きたいことがあるの。」

 「なっ、なんでございましょう。」


 声がうわずって、何か隠している事がまるわかりだわ。


 「ショウはわたくしの知らない移動方法があると思うの。あなたは知っているのかしら。」


 ゴクッと喉がなり、半歩後ろへよろけ、突然跪いた。


 「申し訳ありませんっ!! ショウ様にきつく口止めされてました。」

 「口止めされていたのならしょうがないわね。で、いまここでしゃべって頂けるのでしょうね。」

 「はいっ、ショウ様は、転移魔法だとおっしゃっていました。」

 「転移魔法―――? あれは一人では出来ないって教えたのにっ!! どうやってるのよ?」

 「いえ、私は魔法の原理は全く理解できませんので、説明ができません。」


 これは王城と連絡を取らなきゃ。ショウが地上に激突する前に助けてもらわないと。

 連絡魔道具の間へ向かう間に考えを整理しましょう。ショウは天空の魔法円に触れるために、転移魔法を使って魔法円の中心に移動したはずよね。そしてあそこまでの魔力解放をしている。以前にここで巨大な魔力のうねりを起こした時から比べたら、遙かに大きな魔力を放出しているようだけど、一体どこにそんな大きな魔力を持っていたのかしら。

 あ~、ブラックホールとか言ってたわね。懲りずに魔力をため込んでいたのかしら。

 椅子に腰掛け、連絡魔道具に魔力を込めて、王城を呼び出しているんだけど、なかなか応答がない。早くでて頂かないと・・・ ショウは、大丈夫かしら。

ようやく応答があった。


 「これはテルヴェリカ領の連絡魔道具ですな。私はセバスティアンです」

 「アドリアーヌ・テルヴェリカです。アンジェリータ様に急いで伝えて頂きたいことがあるのですが。」

 「それに関しては、アンジェリータ様よりのお言葉を賜っております。『天空に魔法円が光っておりますが、今の状況では』」

 「そんなことは後でよろしいのです。天空より子供が落ちてくるかも知れません。助けてあげて下さい。」

 「それは、どういった意味なのですかな。」

「わたくしの子供が行方が分からないのですよ。そちらへ行っているようなので、助けて下さい。」

 「すぐにアンジェリータ様にお伝えします。」


 通話が途切れ、連絡魔道具が沈黙する。でもここを動けない。いつ王城から連絡があるか分からないし。天空の魔法円の状況も知りたいわ。

 そうだ、騎士団ほどではないけれど、ここにも携帯用連絡魔道具が、いくつか置いてあったわね。それを持たせて、天空の状況を伝えてもらいましょう。


 「誰か、携帯用連絡魔道具を持って、天空の魔法円の状況を伝えてくれる?」

 「私が行きます。」


 いち早く名乗り出たのが、イブリーナだった。いつもはイブリーナには、秘密を知られないように遠くへ走らせていたから、イブリーナを指名するのは気が引けたのよね。


 「ありがとう。イブリーナ、お願いするわね。」

 「いえ、命令して頂ければありがたく承ります。」


 イブリーナが出て行ってまもなく、イブリーナとつながる連絡魔道具に魔力の反応があった。


 「アドリアーヌ様、イブリーナです。天空の光は、もう領主城の上を超えて国境の結界に向かって広がっています。まもなく国境の結界に到達します。」

 「その時に変化があるようでしたら、また伝えてちょうだい。」

 「かしこまりました。」


 「マーシェリン、ショウが転移魔法を使い始めたのはいつなの?」

 「分かりません。突然、転移魔法で平民街に連れていかれたのが初めてなのですが、その時にはもう慣れたご様子でした。」


 深夜に、図書館の侵入者対策の魔法円が反応したのは、やっぱりショウだったのね。問いただしたときに、随分と熱弁を振るって煙に巻かれたけど。それも、天空の魔法円の中心に転移したかったからなのね。それにしても便利すぎじゃない? どこへでも転移出来るのかしら。


 「アドリアーヌ様、光が国境の結界まで到達したようです。他領までは遠すぎて見えませんが、国中の全ての空が光っているのではないでしょうか。」

 「そうでしょうね、全ての空が光っているのでしょう。それがいつまで続くのでしょうか。それとも、もうヴァランタイン領の方角から消え始めているのでしょうか。」   

 「え? ヴァランタイン領の方角? 東の方角から光が下がってきています。」


 下がってきている? まさか、ショウが魔力切れを起こして落ちてきている? それとも、満足して地上に向かって降りてきているの?

 アンジェリータ様はショウを助けてくれるの?  



 連絡魔道具に魔力の反応があり、即座に魔力を込める。


 「セバスティアンです。アドリアーヌ様はそちらにいらっしゃいますか。」

 「アドリアーヌです。アンジェリータ様はなんとおっしゃっておられますか。」

 「ご本人様でございましたか。アンジェリータ様は今こちらへ向かっておられます。しばし、お待ちください。」

 「子供は落ちてきませんでしたか。」

 「子供が落ちてくるなどとは、そのような危険なことはありませんよ。それよりも、天空より神々の御子がご降臨なされました。」


 よかった。降臨っていうことなら落ちてきたわけじゃないのね。どうやったか知らないけど、無事地上におりたと考えていいわけね。でも、ショウが神々の御子にあがめられてるの? まさか、神々の御子として王宮で囲い込むつもりなの。

 ここはビシッと、『うちの子です』宣言をしておかないといけないわね。その上で私の元に戻るのか、王宮暮らしを選ぶのか、ショウに選ばせましょう。たとえ王でさえ、ショウを縛り付けておくことはできないでしょうし。


 「ご機嫌麗しゅう存じますわ、アドリアーヌ様。」

 「ご機嫌麗しゅう存じます、アンジェリータ様。領主風情に王からのそのお言葉、恐悦至極に存じます。」

 「あらあら、アドリアーヌ様だけですのよ、そのように語れるのは。アドリアーヌ様はわたくしより下に見てはいけないと、常々存じております。先ほど、セバスティアンの話では、アドリアーヌ様のお子様がいらっしゃらなくなったと聞きましたが、お見つかりになりましたか。」


 きましたね。私の言っている子供は知りませんと、主張したいのでしょうね。


 「そちらへお伺いしているようなのです。赤ちゃんなのですが、名前は『ショウ・アレクサンドル・テルヴェリカ』と申します。あれだけの魔力放出をした後なので、意識を失っていると思うのです。」

 「あっ、あの、赤ちゃんが、アドリアーヌ様の子?」

 「あら、やっぱりそちらへ伺っておりましたか。心配したのです。天空で魔力切れを起こしてしまったら地上に向けて真っ逆さまでしょう? 死んでいてもおかしくないと思っていたのですが、アンジェリータ様に保護されて頂けたようで、ありがとうございます。」

 「いえ、あの赤ちゃんは天より使わされた、神々の御子なのです。光り輝く神の魔力を纏っておられます。」


 あくまでも、神々の御子設定を押し通すつもりね。まだ意識が戻ってないんでしょうね。意識が戻れば、ショウは自分の主張を通すだろうし。


 「目が覚めたら、名前を聞いて下さい。『ショウ』と名乗ります。それよりも、夜寝る前にお乳を飲んでから何も飲んでいないと思うのですが、夜が明けたらお乳をあげに、王宮へ伺ってもよろしいでしょうか。」

 「え、ええ、おねがいしますわ。」

 「では、ウルカンドラの正刻にお伺い致します。」


 よしっ。王宮訪問の許可をもらったわ。勝手に王宮へ乗り込んだりしたら、王宮警備隊に捕縛されてもおかしくないけど、これで大丈夫。

 ウルカンドラの正刻なら午前10時ね、朝とは言っても遅めの時間にしておいたから少し仮眠はできるわね。


 「アドリアーヌ様、天空の光が細かくなってキラキラと舞いながら降りてきています。」


 イブリーナの声で、天空の魔法円のことを思い出したわ。


 「わたくし達も外へ出てみましょう。」


 外へ出れば、多くの人たちが庭に出て空を見上げている。

 本当だわ。魔法円の光が、細かい光の塵となって舞い降りてきているわ。光とは言っても、魔法円を光らせたショウの魔力が、塵になってこの国中に舞い降りているのね。それを見ている人々は、神々の祝福だと勘違いしてるんでしょうね。

 ショウはこんなことをして、神様に目を付けられたりしないかしら。少し、いえ、かなり心配ね。


 「リベルドータ、皆に伝えて。夜が明けたら準備をして、王宮へ向かいます。ウルカンドラの正刻の約束です。仮眠をとれるようならとっておくようにと。わたくしは部屋に戻ります。」

 「かしこまりました。

 マスカレータ、アドリアーヌ様に付いて。私はイブリーナを探してくる。」

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