37.空間を存続させるもの
マーシェリンと時折、魔獣を狩りに行ったり、図書館の本を読み漁ったり、平民街へ遊びに行ったりと、なかなか充実した毎日が過ぎている。その間もずっと、魔力を丹田に集め続けている。これって限界は無いのか? どれだけの魔力をため込んだのだろう。限界いっぱいだって感覚が全くない。
これはもう、あの天空の魔方円に行ってみるか。あの魔方円に魔力を注いでみたい。どんな魔方円なんだろう。アドリアーヌが作った本には、どこにもあの魔方円らしいものは載っていない。王都の図書館にはあるんだろうか。図書館に無くたっていいんだ。そこまで行って魔力を注げば記憶できる。
よし、今晩行くぞ。すぐに帰ってこれば、ばれないだろう。
深夜・・・・ 草木も眠る丑三つ時、ってなんだそりゃーっ!! この世界に丑三つ時があるのですかっ!! なんちゃら怪談ですかっ!!
もうどーでもいいからさっさと行こう。今回はマーシェリンはお留守番だ。すぐ帰ってくるし。マーシェリンはぐっすり寝ていなさい。
まずは『プロテクトアーマー シュ〇ちゃん タイプ コナン』
転移円展開、精神体を天空の魔方円の中心に飛ばす。おお~、上空1万mの世界だね。 っていうか、1万mなの? まさか宇宙との境目10万mの上空じゃないよね。夜で暗いし地表までの距離なんて見当がつかないよ。分かんない時には1万mであろうと想定していればいいや。
俺の精神体が天空の魔方円の中心、そして上空1万mで転移円を展開。コナンごと俺の本体が転移してくる。
普通から考えれば高度1万mなんて、気温は低いし酸素は薄いし、人が生きていける場所では無い。そのために準備として、温度が下がらないように、酸素が無くならないようにと、コナンの回りを魔力で三重に囲って準備してきた。魔力コーティングとでも呼ぼうか。
高度1万mであろうと思われるところで空中に浮くコナン、その廻りに保温用に施された魔力コーティング。わずかに穴を開け、外の冷気を感じてみる。
この世界って・・・・・ おかしい。こんな高高度なのに、山の上にいる程度の肌寒い程度の気温ですんでいる。酸素は? ある。普通に呼吸が出来る。
ありえねー。どういう世界なの?ここ。惑星じゃ無いのか。夜で暗くて地平線が見えないし。
まさかっ、ガリレオが地動説を唱える前に一般的だった、天動説の世界ですかっ!! 地面を支える巨大な4頭のゾウ、そのゾウはもっと大きな亀の甲羅の上に立ち・・・・・
あの天動説の絵を思い出して想像しちゃったよ。まさか、そんな世界があるわけが無いよね。そんなことはまた後で考えよう。
今の目的は頭の上に広がっている巨大な魔方円。この魔方円に魔力を注ぎ、何が目的の魔方円なのか究明したい。あわよくばこの魔方円を自在に操りたい。
手の届く所まで飛んで行き、恐る恐る指先を近づけていく。想定しているのは、触れた途端に一気に俺の魔力が持ってかれる事、その反対に一気に俺に魔力が流れ込み俺の体が爆発する事。後者だったら即死か。そうならないように、触れるのは指先のほんの一点のみ。危険を感じたときに、すぐにでも手を引けるように。
触れた。
一瞬のうちにコナンを形成していた魔力が持ってかれた。魔力を奪い尽くす魔法円だったか。
コナンを魔力として一瞬で吸われたおかげで、俺の赤ん坊の肉体のみが空中に放り出された。俺の手で直に触れていたら吸い付いて離れなかっただろう。
ヤバかった。『三十六計逃げるに如かず』だっ。
1万mの高さからの赤ん坊の肉体だけの自由落下が始まる。
大丈夫だ。地表に激突するまでにはまだ十分な時間がある。もう一度コナンを形成して転移円を展開出来る余裕はある。
上から何かが迫ってくる。何だ? 触手? 俺がいつも便利に使っている触手状の物が天空の魔方円からニョキニョキと生えて迫ってくる。何かの意思があるのか。俺を逃がさないつもりか?
よしっ それなら全部迎撃してやる。
迫ってくる触手にこちらからも触手をぶつけていく。触手同士がぶつかり合い白熱の迎撃戦。
よし、このまま自由落下で距離をとれば逃げ切れるぞ。
突然の触手の増加。いや、もう触手では無い。袋状に被さってきたもの、巨大な投網だよ、これっ!! こんな小さな赤ん坊に、クジラでも捕らえようかと思える程の巨大な網。
包まれ取り込まれた。逃げ場がない。網が一気に縮小して身動きもとれなくなる。その瞬間から体内の魔力が一気に持って行かれる。
これは罠? 魔力が強い者を、おびき寄せてる? なんちゃらホイホイですかっ!!
どんどん魔力を吸われ続けている。その廻り、天空の魔方円がひかり、その光が外へ外へと広がっていく。止めることが出来ない。逃げ出せない。このまま魔力が枯渇するまで吸収され続け、干からびて死ぬのか? まあそれでもいいが一矢報いたい。俺の全ての魔力をぶつけてやる。一瞬だ、一瞬で丹田の魔力を全解放する。
解放と同時に、天空の魔方円がひときわ明るく輝く。
ただそれだけだ。俺の魔力は吸われ続けている。もう魔力は魔石が発生している魔力だけだ。俺が故意に発生させているわけでは無い。無理矢理、そう、意思に関係なく無理矢理に引っ張り出されている。
どれだけ魔力を発生させても、止まることの無い吸引力。ダイ○ンで~・・ す~・・・ か~・・・・・ つっこむ気力も無くなった。
もう魔力は限界を迎える。意識も失うだろう。よかった。地表に激突するのに意識が無いのは助かる。
ふわっと抱き上げられた感触、ああっ、母さん。母さんの腕だ。母さんに抱かれた記憶なんてもう残ってないと思ってたのに。俺が5歳の時に死んじゃった母さん・・・・・ 今までのは全部夢だったの? 目を開けたら母さんの腕に抱かれてるの。
暖かい。このまま母さんの腕の中でずっとずっと寝ていたい。
起きなさい
いやだっいやだっ 母さん このまま寝かせてよっ
このままあなたが終わることを許しません
母さん 許してよ もう疲れたんだよ 寝かせてよ
起きなさい
突然、外部から流し込まれる魔力。突然の意識の覚醒。今の記憶の混濁は何だ? そして誰の声? 空中に浮遊しているような感覚。ここは? どこ? 死後の世界? 廻りには何も見えない、ただ白い世界が・・・・・
誰か? 何か?・・・・・ 居る? 在る?・・・・・
「誰? 母さん?」
あなたは耐えました
「あなたは誰?」
あなたは力を注ぎました
「何に?」
円を満たしました
「円とは?」
あなたは眷属となる資格を得ました
「何の?」
あなたの生ある間に力を育てなさい
「力?」
死したのち我が眷属として尽くしなさい
「人の話を聞け-------っっっっっっっ!!!!!!!!」
なぜ
「何故とは? 自分の言いたいことだけ喋ってんじゃね------っ!!!!!! 俺が言ってることは全無視で、好き放題喋りやがって------っ!!!!! そもそもおまえは誰だ------っ!!!!!」
私は誰でも無い この空間を存続させるものです
うわ、私は神です、っぽい返答だね。始まりの女神ルーナレータ様かな?
そう あなた達の言うところの神と 位置づけられた者と思ってください
「喋らなくても伝わるんですかっ!!」
意思疎通に言葉はいりません ルーナレータと あなた達が呼ぶ存在は 私から派生した分体 長きに渡り門を守っています 私とはすでに別の意思を確立させています
「これは隠し事が出来ないって事っすか。あ、今のは返事はいりません。なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
名はありません 存在を認識しているのは 我が分体と 11の眷属のみです
「じゃあ、『原初の女神様』でいいでしょうか。」
ご随意に
「聞きたいことがあります。この空間を存続させるとは、どういうことなんですか。」
私の描いた円により 次元の狭間に創り上げた世界 その存続
円? 多分、天空の魔方円のことだろう。次元の狭間? この国が存在している場所が次元の狭間。現実世界とはまた違う場所? 分体と11の眷属? 門を守っている? 国境門か。門の向こう側に別の世界がある?
もしかすると俺の前世の記憶にある世界にもつながる門があるのか。
その世界の文明は 2千年以上の過去に 崩壊しました
あ~、あの世界の人類は、調子乗って好き放題やってたからな~。人類滅びたって言われても納得できちゃうよ。だからその星での転生先が無くて、この世界に転生してきたのか。
概ね そのとおりです
「でも、何故過去の記憶があるんですか。」
時折 いますが 私が干渉したわけではありません
俺もアドリアーヌも、偶然の産物ということか。
分体が守る 門の向こうの世界では 分体が干渉して 転生させた者がいるようです
「ええっ、会ってみたい。その人には会えますか?」
あなたが力を使い切り 意識を失った時に わずかですが私の力を分け与えました その力は 使うことは出来ません 死を迎えるまであなたの中に存在します 分体もその力を認識し 門を通してくれるでしょう
「使い切ったんではなくて、搾り取ったんでしょうがっ!! そもそも、最初に言ってた、『耐えた』とか、『満たした』とか、『眷属の資格』とか、訳がわかりませんよっ。」
力を使い切ることに耐え 円を満たしました 円を満たしたことのある存在は あなたが初めてです 生ある間 その力を育てなさい 死を迎えたのち 我が眷属となり 尽くしなさい
「眷属なんか嫌ですよっ。普通に死んで、普通に転生させてくださいよっ。」
俺の最後の言葉には返事が無く、暖かな場所から突然放り出された感覚。
却下ですかっ!!
そして・・・ 意識が・・・・・ 途絶えた・・・・・




