3.ナイスバルクッ!!
まあ、完全に記憶が無いわけでもないし、この先、過去の記憶がはっきり戻るにしろ、曖昧な記憶も消え去って赤ん坊として普通に成長するにしろ、今の猛獣に喰われる寸前の現状を回避できなきゃ、どっちでもいいことで、記憶の件は、まあいいか。後で考えよう。後があるのか?
でも目の前の状況の打開策は、「まあいいか」で済まないし、どうしよう。
【ファイヤ――――ッ!!】
「あ―――――っ!!」
駄目だ。 魔法出てないし、言葉になってねーよ。
この白いやつ、形って変わらないのかな? 人型に変形できれば、猛獣とも戦う事が出来るんではないだろうか。
あれ? 今ちょっと動いた? ちょっと動いたかっ?! こっ これはっ! 俺が強く念じれば、自由に動かせるのかっ! そうなのかっ?! 大きくなるのかっ?!
おっ、おお--っ!! 大きくなったぞっ!! これは俺のイメージで大きさや形も変えられるみたいだ。
よしっ! よしっ!! 落ち着けっ! 落ち着けっ!! 俺っ! 動かせるとなったら、やっぱ正義のヒーローだよな。正義のヒーローっていったら 月〇仮面だよなっ!! よしっ!! 〇光仮面に変形。
ん? 月光〇面? って誰だ? 一体どこからそんな記憶が? なんだか微妙な感じ? まっ、いいか、拳銃撃ちまくって退治してやるっ!!
おおっ 月光仮〇の目を通して景色がみえる。赤ん坊の目ではピントが全く合わず全てがぼやけていた景色が、この魔術的なもので人型になれば、その目を通して見えた映像が俺の脳内に投影されるのかっ。目が見えるようになっただけでも助かる。わずかながらも生き延びる確率は上がってくれたはずだ。
って、この真っ黒けのサングラス邪魔っ! サングラスを投げ捨て・・・ え? 黒いサングラスを投げ捨て地面に落ちるのかと思ったら、手を離れた瞬間に白い霧となって空気中に消え去っていった。どーいう事? 俺の体内から出た魔術的な物で出来ていたから、俺から離れると形を維持できないのか。後で検証しておかねば。
廻りを見回せば、夜空の月が辺りを明るく照らしている。森か林の中だろうか。葉が枯れ落ちた木立ちに、地面にはうっすらと雪が積もっている。さっきまで馬車が走っていたはずの道らしいものが、見当たらない。どれだけ引きずられたんだ。
猛獣が見えた。虎やライオンみたいなのを想像してたけど、犬? 狼? しかもサイズ虎並み。でかい口に凶暴な牙が、夜目にギラリと光ってみえる。
まだ俺の変化に気付いていないみたいだけど、こんなしょぼい拳銃でダメージがあるの?
パンッ パンッ パンッ
てな感じで、ターバン巻いた白いおっさんが拳銃撃ちまくったら、わずかにはひるんだ様子も見えたけど猛獣どもが飛びかかってきた。ちょっと待って、やっぱ拳銃なんか全く効いてないじゃん。ムッ ムー〇ライト号で逃げよう。
マントを翻し猛獣に背を向け走り出し、白い魔術的な物で一瞬の内にムーン〇イト号を作った。しかも自分がまたがった状態で出現したんだから、アクセル全開さっさと逃げる!! 走り出した途端に派手にクラッシュ。
そりゃそうだ、〇ーンライト号はダート向けじゃない。こんな森の中で走れるわけないだろ。こんな時は仮面〇イダーのサイクロ〇号か。いや、あれもオンロードバイクだ。
ブイスリーだっ! ブイスリーの〇リケーン号だっ! あれならオフロードバイクだ。
今度はハリ〇ーン号を作り、走り出したけど、よく考えたら普通にオフロードバイクで良かったんじゃね?
前方の木立ちが薄くなっている所が見えてきた。そこに向かって走っているんだけど、猛獣、はえーよ。もう少しで森を抜けられそうなのに・・・ 正面の立木を避けようと、ブレーキを掛けたらリアが横滑りして衝突コースを回避・・・ ガッ!! タイヤが地面から持ち上がっている木の根に引っ掛かり・・・ げっ! ハイサイド!! ハリケー〇号ごと宙を・・・ また飛んでるよっ!
やばい、ハイサイドはヤバいっ! 〇リケーン号より先に俺の体が宙を舞い、一度地面に叩きつけられたハ〇ケーン号がバウンドして俺を追いかけて飛んでくる。宙を飛んだまま森を抜け地面に叩きつけられ転がる俺、俺に向かって激突コースを飛んでくるハリケ〇ン号。消えろっ! 消えろーっ!
激突の寸前、ギリギリで消えてくれた。消えたというよりも、ボロボロと崩れ去ったという感じかな。やっぱりそうだ。俺から離れると形状を維持できないんだ。消えるのが遅かったのは、サングラスに比べて質量が大きかったせいか。
あー、助かった・・・・・ ガッ! ガガッ!! 助かってねーよっ!!
腕を噛みつかれ、足を噛みつかれ、喉元噛みつかれ、引きずり回され、ちぎれるっ!ちぎれるっ!! 月光仮〇弱っ! ショボすぎっ!
もっと! もっと!! 最強のヒーローはいないのかっ!・・・
シュ〇ちゃんか? 最強ヒーローっていったら〇ュワちゃんだっ!! 筋肉の鎧を纏い大剣を振り、姫を助けるヒーローオブザヒーロー 『コナン〇グレート』!!
俺の廻りの白い魔術的な何かが、力強く変形し始め、人型を形成し、筋肉が膨れ上がり、大剣を腰に携えた半裸のヒーローの姿になった。力が漲ってくる・・・ 気がする。
猛獣が飛びかかって来るのを右ストレートで迎え撃ち、『グシャッ』と嫌な音がして、鼻先が潰れ首が折れた感触と共に、その場に一頭が崩れ落ちる。
パワーすごすぎ。どう見ても虎やライオンぐらいのサイズの猛獣を、一撃瞬殺なんて人間の力では考えられない。魔術的な物で作り上げてるから、その分人間の能力を遥かに超えた力がだせるのだろうか。〇光仮面も殴り掛かったら強かったのかも。
ちょっと待て、剣士なんだから剣使えよっ!!
剣を上段に構え、次のやつが襲い掛かって来た所を脳天から大剣一閃、頭真っ二つ、脳ミソブチまけ。うえ、気持ち悪、これはもうやめよう。最後は綺麗に首チョンパしよう。
最後の奴も、2頭目のすぐ後ろから飛びかかってきている。一歩横によけて下から一閃、ズバッ! 綺麗に首が放物線を描いて飛んでいった。
オオオオ――ッ!! シ〇ワちゃんつえ――っ! コナンかっけ―――っ!!
これはもう、ポージング ポージング 鼻息荒く「ふんっ!」 「ふんっ!」 さっすが、ボディビルダー全米チャンピオンだぜ。けど、このポージングが見れない。腕と足と腹筋しか見れない。全身ポーズが見たい。
〇ュワちゃんの目で景色が見えてるんだから、もう一人シ〇ワちゃん作って外から見れば見れるかも。でも俺から離れて形状を維持出来ないなら無理なのかな。
いやいや、魂の緒的な物でつながっていればとか、かの有名なオカルト漫画でも言ってた気がする。何だったっけ。後ろから前から百太郎・・・・・? だっけ?
やってみました。もう一人のシュ〇ちゃんから、猛獣の返り血を浴び真っ赤になってポーズを決めてる〇ュワちゃんを見てみた。ムッキムキのゴリマッチョだよ。『ガッツポーズ』なんてのがあるけど、もう『シュワポーズ』にしたほうがいいんじゃない? もうガッツいらねーだろ。
「ナイスバルクッ!!」
ついつい掛け声かけちゃったけど、えっ? シ〇ワちゃん声が出るの? ってそれ以前の問題が・・・・・ ポーズを決めたまま血まみれのシュ〇ちゃんが、全く身動きが無い。
俺の意識がこっちに来ているって事は、体の意識がトんでる状態か? 幽体離脱みたいな感じになっている? 怖っ これって戻れるの? このまま意識だけが何処かにとんでって、また転生って事も有る?
こっちの俺の意識がある〇ュワちゃんを消したら・・・
よかった。戻った、戻った。血まみれのシ〇ワちゃんの中の赤ん坊の体に意識が戻ってる。あの意識を外に飛ばすのは、あまり遠くに行かなければ大丈夫なのかな。段々と魔法っぽいものが出来るようになってきたのかな。まあこれも練習あるのみか。
だけど大きくなったり形を変えたりするたびに、腹の奥底の熱が引っ張り出される感じがある。この力を使いすぎると、体内の熱がすべて奪われて、死に至るなんてことは無いよね。無いと思う。無いことも無い? いや・・・・・ 有るかも・・・ 有ると思って気を付けた方が無難か。まあ、そんな状況になれば、はっきりするか。
とりあえず目の前の危機は去ったということで、現状を把握しよう。
辺りを見回せば、森を出たわけでは無く、森の中の空き地の様な所に出ていたみたいだ。