28.魔力暴走.?
突然の大きな魔力のうねり。嵐の中に立っていると感じる程、魔力がうねり叩き付けてくる。神々が降臨されたのではないかと思われるほどの。領主城にいる貴族達にはショウの事は知らせてないから、神々だと思ってくれればいいけど。
「アドリアーヌ様、これはいったい、」
「多分、ショウね。今度は一体何したのよ。この魔力は神々に匹敵するんじゃない?」
ショウに会って問い詰めなきゃいけないわね。ドアを開けて執務室を飛び出れば、うろたえて右往左往する文官達がわらわらと廊下に出てきている。魔力の強い物達はこのうねりをすぐに感じてあわてふためいている。魔力量が少なくてうねりを感じられない者達は、あわてる者を見てうろたえているようだ。私を見つけた文官が近づいてきた。
「アドリアーヌ様、何が起きているのでしょう。」
「何も問題はありませーんっ!! 部屋に戻って仕事をしなさーいっ!!」
拡声魔法を使って、廊下全てに響き渡らせた。これは近くも遠くも同じ大きさの声量を届ける便利魔法なのよね。近い人の鼓膜が破れるような事が無いから安心ね。
文官達がまだ魔力のうねりに脅えながらも、部屋へ戻ってゆく。そんな中を急いでショウの部屋へ走っていけば、反対からグレーメリーザが走ってきた。イブリーナも付いてきてるから、ちょっと外れてもらいましょう。
「イブリーナ、子供室へ向かって子供達を見ていて。子供達に、大したことじゃない、落ち着いて部屋の中にいなさいと伝えて。」
「はいっ、分かりましたっ。」
イブリーナが子供室へ向かって走り去る。
「何が起きているのっ!!」
グレーメリーザも理解できていないようで、
「何が起きているのか分かりませんっ。小さい子が起こす魔力暴走かもしれません。ショウ様自身が魔力を制御できていないようです。」
その言葉を聞いて恐怖を覚えた。『魔力暴走』名前だけ聞けば怖い名前だけど、小さい子供がときおり起こすとされる魔力暴走。でも所詮は、周りの子供に比べてちょっと大きな魔力を持った子供が癇癪を起こして本人が制御仕切れなくなる程度が魔力暴走と呼んでる程度で、そんなときは魔力を使い切った空の魔石を握らせて魔力を吸い出してやればすぐにでも収まるのだけれど・・・ 神々に匹敵するような魔力を持った子供が暴走したら・・・・・ 誰も止められない? 私でも止められない?
止められない場合の、最悪の事態は覚悟しておかなければいけないわね。ちらりと護衛騎士達に目をやれば全員剣を装備してる。彼女達にはやらせられない。ショウの命の灯火は私が消さなければならないわ。
先程の爆発的な魔力のうねりが突然発生した時と同じように、消えるのも突然だった。何が起きたの。いえ、誰かが何かをしたの? マーシェリン?
リベルドータが扉を勢いよく開け部屋の中に飛び込んでいく。私もその後に続き、ベッドの上を見た。ショウと、ショウに抱き付いたマーシェリンが横たわっている。リベルドータが駆け寄るけど、
「触ってはだめっ!!」
状況が分からない。手を出してまたあの魔力のうねりが起きたら止めようがない。ここは慎重に動きましょう。ベッドの上でショウに抱き付き俯せでピクリとも動かず横たわるマーシェリン。抱き付かれているショウは・・・ 白目むいて意識失ってる。漫画で見た事あるけど、こんな事本当にあるんだ。ちょっと驚き・・・ いやいや、そんな事を見たい訳じゃないのよ。
さっきの魔力のうねりの発生の原因はショウで間違いないようね。
「マーシェリンには、ショウ様に触れないように言っておいたのですが、アドリアーヌ様をお呼びするのはマーシェリンに行かせた方がよろしかったのでしょうか。」
「グレーメリーザ、今更悔やんでも仕方がありません。これからの行動を間違えないようにしましょう。」
ショウの側からベッドの上に乗り、鼻と口の前に手をかざしてみる。
「呼吸はあるようね。マーシェリンはどうかしら。仰向けにしたいんだけど、触っても大丈夫かしら。」
「お待ちください。そのような事は私がやります。」
マーシェリンの側に立っていたグレーメリーザがやると言う。何かあったときは私の方が対応できそうなんだけど。
「いえ、わたくしが、」
「いけませんっ。私はショウ様の護衛騎士であり、アドリア―ヌ様の護衛騎士でもあるのです。僅かでも危険があるのなら私をお使いください。」
「そう、分かったわ。グレーメリーザにお願いするわね。でも、気を付けて。触るときに手のひらで触らないで、手の甲で試しに軽く触ってみて。」
転生前お父さんに聞いた話なんだけど、電線を手のひら側で触ると電気が通っていた場合筋肉が収縮してギュッと握ってしまい感電死するらしい。手の甲側だとすぐに手を引く事が出来るから安全だと言っていた。電気と魔力は勝手が違うと思うけど、出来れば安全に確認したいわよね。
「アドリアーヌ様、それはどういった理由なのですか。」
「手の甲側なら危険を感じた場合、すぐに手を引けるでしょ。」
「そうなのですか?」
グレーメリーザが手の甲で軽く触れすぐに手を離す。3回ほど繰り返し、
「大丈夫そうですね。仰向けにしてみます。」
あら、マーシェリンまで白目剥いてるじゃない。いったい何をやったらこんなふうになるの? でも乙女が白目剥きっぱなしはかわいそうよね。閉じておいてあげましょう。呼吸は? よかった、あるわね。でも魔力が全く感じられない。魔力が枯渇したような感じ? 平民は魔法を使えないけど僅かなりとも魔力はあるものだけれど、今のマーシェリンの状態はそれ以下、無ね。私の部屋で魔力を圧縮する事が出来て喜んでいたのが嘘のようだわ。
ショウはどうなの? ショウに触れて、意識を失っていたマーシェリンに触っても大丈夫なら、ショウに触っても大丈夫よね。まず目と口を閉じてあげましょう。魔力の状態は? 胸に手を当ててみると魔力の枯渇のようだし、魔力が全くないわけでもなさそうな感じだし、どういう状況なの。
「マーシェリンには魔力回復の薬を・・・・・ 飲ませられるのかしら。とりあえず口の中に流し込んでみて。ショウはこのまま寝かせておきましょう。グレーメリーザとマスカレータはここで二人に付いていてちょうだい。」
「かしこまりました。」
「どちらかが目を覚ましたら報告して。」
「ん・・・ 」
「アドリアーヌ様、今、ショウ様が動かれました。」
「あら、目が覚めたのかしら。」
ショウを抱き上げれば、うっすらと目を開いたけど、目の焦点が合ってない。何処を見てるのか分からないわね。抱き上げられた事も気が付いてないわね。呼びかけて反応すればいいんだけど。
「ショウ、気が付いたの?」
「・・・・・ あ・・・・・ ん・・・ 何? え? 何が?」
「気が付いたようね。もう大丈夫よ。」
状況を知らない人が来たら困るわね。
「人を入れないように、扉の前に立ってちょうだい。」
「かしこまりました。」
グレーメリーザとマスカレータがすぐに動き扉の外に出る。リベルドータは扉の内側に立つ。
「どう? 意識ははっきりした?」
「あ・・・ うん、 何となく・・・ っ!! マーシェリンっ!! マーシェリンはどうしたのっ!!」
「魔力切れのようね。意識を失ってるわ。何をしてこんな事になっているの。」
私の言葉も聞かず手を振り払ってマーシェリンにのもとへショウが這い寄る。マーシェリンの胸に顔を伏せて、
「マーシェリン、マーシェリン、ごめん、マーシェリン。」
ちょっと、この子全く泣かない赤ちゃんだったのに、マーシェリンを心配して号泣してるわ。マーシェリンに大事にされて情が移ったのかしら。意外ね。
ショウが治癒の魔法円をマーシェリンに展開して、魔力を操作できない事にあわててる? やっぱり魔力切れなの? でもこの子は魔力切れの場合、いつも昏睡状態になるのに、何故起きてるの?
「ショウ、魔力切れは治癒魔法では回復できないわ。マーシェリンのポーチに魔力回復薬が入ってるはずよ。それを飲ませましょう。」
「魔力がない・・・ 魔法が使えない・・・ 」
「今のあなたの魔力の状態を看たんだけど、魔力切れのようでもあり、そうでもなさそうな、よく分からないのよ。それもすぐに回復出来ると思うから、そんなにあわてないで。」
「マーシェリンは大丈夫なの? すぐに治るの?」
「魔力を回復出来れば、すぐに目を覚ますと思うけどしばらく休ませた方がいいわね。ショウは体の具合はどうなの?」
「俺の事はいいよ、マーシェリンが大丈夫なら。」
これは、マーシェリンに聞かせてあげたいわね。ショウがこんなふうに思ってくれてるなんて知ったら天まで舞い上がっていきそうだわ。
でも、それはそれ。今回の事は何をして何が起きたか、しっかり聞き出さなきゃいけないわ。
「それで一体何が起きたの?」
「え? 何が?」
「とぼけるのはやめなさい。この城内にいた多くの人達が、あの大きな魔力のうねりに気が付いて、恐怖し、脅え、あわてふためいたのよ。私でさえも、あなたがあそこまでの大きな魔力を放出するなんて想像も出来なかったわ。最初は幼い子が時折起こす魔力暴走だと思ったのよ。普通の子の魔力暴走なら簡単に止められるんだけど、あの巨大な魔力で暴走されたら誰も止められないわ。私は覚悟をしてここに来たのよ。」
「覚悟?」
「ショウの命を奪う覚悟よ。他の誰にもさせられないし、私以外では出来ないでしょうね。」
「 ・・・ そうか・・・ そのときはよろしく頼むよ。アドリアーヌに殺されるなら、文句は言わないよ。」
「えっ、ちょっと、死んじゃうのよ。『そうならないように注意します』とか言えないのっ。」
「他人に迷惑掛けられないでしょ。それに、殺す気満々で来たくせに。」
「言い方っ!! 私だってそんな事したいわけじゃないわよ。」
「ごめん。」
「あら、素直に謝るのね。珍しいじゃない。」
「ありがとう。」
突然何なのよ。謝ったり、お礼を言ったり。キャラ変わってない?
「どうしたのよ、一体。」
「うん、死を覚悟したんだ。マーシェリンにはそのとき、謝罪とお礼を言えたんだ。アドリアーヌには言えなかったな、って思って。」
「ま、まあ、謝罪とお礼は受けるわ。それで、死を覚悟するほどの事って、一体何をしたの。」
「アドリアーヌの部屋で話してた、ブラックホールの件、あれを試してみた。」
「それが失敗して、暴走したって言う事なの。」
「失敗したって言うのとは、また違うと思う。イメージしたブラックホールの力が、想像を遙かに超えてた。体中に充満させた魔力が、一瞬で吸い込まれ、どんなに魔力を発生させて供給しても全く追いつかなかった。そのときに死を覚悟して、マーシェリンに謝罪と感謝をしたんだけど、何か勘違いしたらしくて泣きながら抱きしめられたんだよね。もう振り払う力も残ってなくて、意識が無くなったんだけど・・・・・ マーシェリンのおかげで止まったんだろうか。」
話を聞いてると、魔力を外へ放出してたわけでは無いって・・・ 発生させた魔力を吸わせてただけ? それだけで、ほとんどの人が感知出来るような魔力のうねりが、発生するというの。
想像も出来ない魔力量が、動いたという事なのね。そこへマーシェリンの魔力まで全て吸ってしまってようやく止まった? それとも、吸う魔力が無くなれば勝手に止まった? それよりも、それだけ吸い上げられた魔力は何処へ行ったの? そんな大きな魔力が感じられない。魔力切れの状態よね。
「マーシェリンのおかげかどうかは分からないけど、お礼は言っておきなさい。」
「うん、そうするよ。」
「ブラックホールの件は、この先禁止ね。もう二度としないで。」
「マーシェリンをこんな目に遭わせてしまったんだから、二度と出来ないよ。」
「十分反省しているようね。ショウにとって、マーシェリンがどれだけ大切な存在か、気づく事が出来たみたいだし、何か実害があったわけでも無いから、今日の件はお咎め無しということで、あなたも疲れてるようだから休みなさい。」
「大丈夫だよ。マーシェリンを看てるよ。」
「いえ、休みなさい。ものすごく疲れた顔をしてるわ。マーシェリンもこのベッドに寝かせておくから、一緒に横になってなさい。グレーメリーザについていてもらうから、安心して休みなさい。」




