29.ぎゅ~ってして
ショウ様がベッドの上で考え事をするとおっしゃたので、私はベッドの脇の椅子に腰掛けようとしましたら、ショウ様が、シッシッ と手で追い払う仕草をします。酷いです。ショウ様。私はいつでもショウ様のおそばに仕えたいと思っているのに・・・ でもショウ様も一人で静かに考え事をしたいのかもしれません。隣の部屋へ下がります。
隣の部屋ではグレーメリーザ様がお茶を入れてくださっていました。
「少し休憩にしましょう。その後、私はアドリアーヌ様のお手伝いに行ってきます。ショウ様の事はお任せしますね。」
「はい、でも今、ショウ様に部屋を追い出されてしまいました。考え事をされるとか、私は邪魔なのでしょうか。」
「マーシェリンが邪魔というわけではないと思いますよ。何か考え事をするのに、静かに一人で集中したいのでしょう。そっとしておいてあげましょう。」
「そうですよね、私が邪魔という事ではないですよね。」
ショウ様に邪魔者扱いされてとても傷ついていたのですが、グレーメリーザ様のお言葉で少し癒されます。
「グレーメリーザ様はアドリアーヌ様のお手伝いに行くとおっしゃってましたが、どのようなお手伝いをされるのでしょう。」
「書類整理が多いですね。経理の書類に目を通し、各分野の文官から上がってくる書類に計算間違いが無いか確認したり、領地持ちの貴族達の陳情なども目を通し優先順位を付けたりしながら、アドリアーヌ様へ書類を上げます。」
「そっ、それは文官の仕事では? 護衛騎士の仕事ではありませんよっ。私には絶対に出来ません。」
そうです。私にはそのような書類仕事は出来ません。私にできる事は自らの肉体を盾にしてショウ様をお護りする事です。
「文官に任せるのも重要だけど、任せっきりでは文官達が腐敗する。領主が目を通していると知らしめる事が重要だと、常にアドリアーヌ様はおっしゃっています。」
グレーメリーザ様のおっしゃる事は・・・・・ 少し分かります。いえ、分かっているような気がしてるだけです。で、でも騎士が書類仕事なんて・・・・・
ショウ様の部屋から、突然大きな何かがぶつかってきたような、これは何事? 何かが実際にぶつかってきたというわけでは無い。魔力の圧力? 何が起きたの? ショウ様は大丈夫? 早くショウ様のもとへっ。
「ショウ様っ!! どうされましたっ!! この大きな魔力の動きはいったいどういう事ですかっ!!」
「来るなっ!! 俺にさわるなっ!!」
すぐにでもショウ様を抱き上げようとした手を止めてしまいました。ショウ様はベッドの上で仰向けで苦悶の表情をしています。どうすれば。
「グレーメリーザ様、どうすればよいですかっ。」
「落ち着いて、マーシェリン、あなたはここでショウ様を見ていて。私はすぐにアドリアーヌ様をお連れします。ショウ様には触れないようにして。」
ショウ様、苦しそうです。月の女神ルーナレータ様、お願いです。その苦しみを私に与えてください。ショウ様をその苦しみからお救いください。
「ショウ様、大丈夫なのですか? 私に何かできる事はあるのでしょうか。」
「何もするな。絶対に・・・ さわるな・・・ ごめん・・・ ありがとう・・・ 」
何故、謝罪なのですか、何故、感謝なのですか。まさか、ショウ様がいた元の世界から、お迎えの魔法が発動しているのですか。行ってしまわれるのですか。謝らないでください。お礼もいりません。一緒に、私も一緒に連れて行ってください。
「なぜ謝るのですか。なぜお礼をおっしゃるのですか。私はショウ様と一緒に行きます。」
なんだか体がだるい。微睡みから覚醒し始めているのに、寝た後の爽快感が全くない。いつ寝てしまったんだろう。魔力切れが起きた時みたいな体のだるさね。
もう朝のようだ。早く起きて身支度をして、ショウ様の元へ行かなければいけないのに。
腕の上に何か乗ってるようだ。何が乗っているんだろう。けだるい感覚の中、重い瞼を僅かにあげ薄目を開いた先に
っ?!!!!!!!!!!!!!!!
だめっ!! マーシェリン、動いてはだめっ!! ショウ様が起きてしまう。
何故っ、こっ、ここは? ショウ様のお部屋? ショウ様をベッドへお休みさせるときに、そのまま一緒に寝入ってしまったの? そんな恐れ多い事をしてしまって、アドリアーヌ様にお叱りを受けそうです。
でもっ、お叱りを受けたとしても、今ここでショウ様の睡眠を妨げてはいけません。決してショウ様の腕枕をして、至福の時を長く続けたいと思っているわけでは、絶対にありません。目尻が下がっていても、口角が上がっていても、絶対に喜んでいません。ショウ様の睡眠の邪魔をしてはいけないだけなのです。
あ~、この胸の高まりがショウ様を起こしてしまいそうです。
落ち着くのです、マーシェリン、深呼吸です。そう、徐々に心臓の高まりを押さえて・・・・・
っっっっっ?????!!!!! ショウ様と目が合ってしまいました。
「おはよう、マーシェリン。」
「お、おはようございます。あ、あの、この状況は、な、何故私は、こ、ここに寝ていたのでしょう。」
ショウ様はその問いには答えて頂けず、私の胸に耳を当て
「ドキドキしてる。魔力も大丈夫みたいだ。だいぶ回復してきているようだね。」
「回復とは? 何かあったのでしょうか。」
それにも答えて頂けず、ベッドの上に起きあがった私に抱き付き、
「ぎゅ~ってして。」
あ~~ そんな・・・ 恐れ多い でも・・・ でも・・・ ぎゅ~したい。してもよろしいのでしょうか?
「しっ、してっ、してもっ、よっ、よろしいのですか?」
「アドリアーヌが言ってたんだ。マーシェリンを大切に思ってるんならもっと大事にしてあげなさい、って。でも、どうすればいいか分からないし」
アドリアーヌ様、ありがとうございますっ!! ショウ様、ありがとうございますっ!! 涙が止まりません。
「うっ、うっ、あ~~~~ ずっと、ずっと、そばに置いてください~~」
ドアがノックされ、マーサが入ってきた。まだショウ様をぎゅ~したまま泣き続けている私に、
「あらあら、マーシェリン様、どうされました?」
「ショッ、ショウ様が、わたっ、私を大切に、思ってくれているんです~。うぐっ、ひくっ、」
「それはよかったですね。ショウ様はお腹がすいてるでしょうから、預からせて頂いてよろしいでしょうか。」
「は、はい~、よろしくお願いします~。ひっく、」
「マーシェリン様も、お顔を整えた方がよろしいようですよ。泣かれた後は、目の回りが赤くなってしまいますから、水で冷やすとよろしいでしょう。」
「ありがとうございます~」
でも私は、ショウ様の護衛騎士です。ショウ様を一人で置いて行く事は出来ません。こんな顔でもドアの前に立ちます。グレーメリーザ様が歩いてきました。
「ど、どうしたのです、その顔は。」
「ショウ様に幸せを頂きました。」
「?」
「とても幸せな気持ちを頂いたのです。」
「でも泣いていたのでしょう?」
「あれほどの大きな幸せを頂いたのです。涙が止めどなく流れ、暖かな幸せの中に浸ってしまいました。」
「よく分かりませんが、悪い事で無いのならよろしいのでしょう。体の具合はどうですか?」
「目覚めたときは、魔力切れを起こした後のようなだるさがありましたが、ショウ様のおかげでとても元気になったようです。」
「動けるようなら、アドリアーヌ様がお呼びです。ショウ様と一緒に、執務室へ行ってください。朝食を摂ってからでよい、と仰ってましたので、それほど急ぐ必要も無いと思いますよ。ショウ様の護衛は私が変わりますから、顔を洗ってくるといいでしょう。」
「はい、ありがとうございます。」
朝食を摂った後、水を絞ったタオルで顔を冷やし、なんとか見れる顔になったようなのでショウ様のお部屋に戻って参りました。
っ!!!!! コナン様っ、コナン様っ、コナン様っ、どん、と胸に飛び込んでしまいました。
「コナン様っ!! こっ、今度は私をぎゅーってして下さいっ。」
コナン様は一瞬躊躇ったようです。でも優しくぎゅってして頂けました。あ~~~また涙が溢れます。せっかく顔を冷やしてきたのに、何の意味も無くなってしまいました。涙が止まりませ~ん。
「コナン様、ショウ様、マーシェリンは幸せ者です~」
「マーシェリン、いい加減にしなさい。アドリアーヌ様の元へ行くのでしょう。」
グレーメリーザ様に怒られてしまいました。しぶしぶコナン様から離れたら、グレーメリーザ様に顔をのぞき込まれ、
「また目元が赤くなってしまいましたね。水場まで冷やしに行きますか?」
「俺が治癒魔法、掛けておくから大丈夫だよ。」
「それではショウ様にお願いして、私は先にアドリアーヌ様の元へ向かいますね。」
また、ショウ様の治癒魔法のお世話になってしまいました。私がショウ様をお世話しなければいけないのに・・・ 私は、護衛騎士としてもっと成長します。ショウ様に頼って頂けるように、がんばります。
アドリアーヌ様の執務室へ向かうのに、ショウ様を腕に抱いて歩いているのですが、なんだか・・・ 気恥ずかしいです。ショウ様を腕に抱いてると思うだけで頬が火照ってしまいます。赤くなっていないでしょうか・・・ いけません。私はショウ様の護衛騎士なのです。浮かれていては、いざというときの対応が遅れてしまいます。緊張です。緊張して周りにもっと注意を払わなければ。
執務室の扉の前にイブリーナが立っていた。
「おはよう、イブリーナ。アドリアーヌ様に呼ばれているのですが入ってもよろしいでしょうか。」
さすがに『ごきげんうるわしゅう』とか、お嬢様のご挨拶は恥ずかしいので出来ない。
「おはよう、マーシェリン。昨日のあの大きな魔力が吹き荒れたのは知ってるでしょ? 私は子供部屋を任されて、子供達を静めるのに走って、すっごく活躍したと思うのよ。でも騒動が終わってみれば誰もが口を閉ざして、何が起きたのか全く分からないのよ。あなたは何か知っているんじゃないの?」
「え? 魔力が?・・・ 何の話ですか?」
「ちょーっとっ!! あなたっ!! あの暴風のように吹き荒れた魔力の嵐を、あなたは気が付かなかったとは言わないでしょうねっ!!」
ショウ様がぎゅっと抱き付いてきます。あ~・・・ 顔が火照ってきます。心臓が早鐘のように鳴っています。この場を早く離れなければ。
「イブリーナ、そんなに強い言い方をされると、ショウ様が怖がってしまいます。申し訳ありませんが中へ入らせて頂いてよろしいでしょうか。」
「ショウ様、ごめんなさい~。決しておどろかせるつもりは無かったんですよ。マーシェリンまで昨日の事をとぼけて話してくれないから、すこーし言い方が強くなってしまいました。」
「とぼけるとはどういう事ですか。私は何も知りませんが。」
イブリーナがじー、っと私の目を見つめて、
「本当に何も知らないの? あなたは魔力量は私より遙かに多いのに、あれに気が付かなかった? 爆睡中だったとか?」
ばっ、爆睡中などと・・・ 言い当てられてしまいました。なぜ寝ていたのがばれてしまったのでしょう。
「どうでもよろしいでしょう。早く中へ取り次いでください。」
「分かったわよ。」
ようやく、取り次いでもらい、中へ招き入れられた。




