1.落ちるう――――っ!!!!
おっ! おっ!! おっ!!! 落ちるう――――っ!!!! どこに向かって落ちてんだ―っ!! どっ!どっ!どうして―っ!! なんでこうなった―っ!!
これってどう考えても、自由落下状態だっ!! しかも腹の底から異様な熱が、暑いっ!! 熱いっ!!! 火だるまかっっ!! 下から聞こえてくる声が、猛獣の咆哮に聞こえるのは気のせいかっ?
キャンキャンというかわいい声とは全く次元の違う、『グオー』とか『ガオー』とか、もう全身に響き渡るような大型獣の恐怖の咆哮。体動かそうにも、簀巻き状態みたいに身動き取れない。
何故か分からないけど、時間が異様に間延びして、思考だけが加速して、こんな時によくある、走馬灯のように過去の記憶が~ って、走馬灯見えね―― って、それ以前に目が見えね―――っ!! 目の焦点が全く定まらね―――っ
今まで何度も死にそうな目にあったけど・・・・? 死にそうな目?・・・ どんな? 記憶に手が届きそうで・・・ おぼろげなその記憶をつかもうとすると、指の間からするっと抜けていくような・・・ 思い出せない。
いやいやっ、記憶なんかどうでもいいっ!! 今現在の自分の状況だっ!! 最高にヤバいっ!! 簀巻き状態で、火だるまにされて、エサとして猛獣の群れに放り込まれてって、最高にヤバい以前に、死しか見えない。熱いっ熱いっ!! 腹の中でマグマが煮えたぎっているような感じ? って 誰も腹の中でマグマが煮えたぎる経験なんかね――よっ! 足を銃で撃たれた時みたいな、焼け火箸が突き刺さって、痛いって言うよりも熱さでのたうち回るって感じ? それが腹に突き刺さって、全身に熱がひろっがってる。
銃で撃たれたって、俺どんな人生送ってきたのっ!! 犯罪者ですかっ!!
曖昧な記憶の中で、自分自身がそれほど生に執着しているようではないらしいと感じられるけど・・・・・ この全身が焼けるような熱さは、どうにかしてほしいっ!! っていうか既に炎熱地獄に落ちて、火あぶりの刑にあってるんじゃなかろうか。
なんで地獄なんだー!! 天国行きたかったよ、極楽浄土行きたかったよ。
すいませんでした―――っ!! 神様っ 仏様っ 今まで無神心でした―――っ!! これからは拝みますっ 手も合わせますっ 熱いのは勘弁してくださ―――いっ!
すっごい間延びした時間の中で、あまりにも自分に都合のいいお願い事をしていたら・・・
なんか出た。
おならではないっ。
体内の熱がほとばしりでるという感じ? そのほとばしりでた熱が一瞬の間に、自分の廻りを白い何かで覆い尽くした感じがした。焦点の定まらない視界がとらえていた、暗い中にもわずかばかりの光が見えていた景色が、一瞬の間に白一色の世界に変わっていた。何か白い膜状のものに覆われて、今まで感じていた空気とは違う密度の高いものにくるまれて、守られているような感じがする。そのおかげで、焼けるようだった体内の熱が安らいでいった。まだ熱が消えたわけではなかったけど、あの熱さが和らいだだけでも助かった。
助かってねーよっ!! まだ落ちてるよっ!! 猛獣いるよっっ!!
ボフッ!!
下に落ちたらしい。廻りを覆う白い何かが膜状になって、その中の密度の高い何かがクッションみたいな感じになったらしく、体には何のダメージも無く接地の衝撃を吸収しくれたみたいだ。
だけどまだものすごい吠え声の猛獣が迫ってきてるよ。これが声だけ猛獣で、実際には可愛らしいワンちゃんが、ペロペロってことにはならねーか。
なるわけねーよな。やっぱ死ぬな。絶対死ぬな。誰か近くにヒーローがいて助けてくれたりしないかな?大声で呼んでみようか。
誰かたすけて――――っ!!
「あ――――――――っ!!」
えっ?!!!
赤ん坊の声? どこから声が? 俺以外にも誰かいるのか? 助けなきゃ、どっ どっ どうやって助ける?
どこにいるんだ――っ!!
「お――あ――――っ!!」
えっ?えっ?えっ?えぇ――――――っ!! まさかっ 俺の声?
なぜ赤ん坊の声っ?????
まさか、まさかの輪廻転生っていうやつか――――っ!!!
いやいや 輪廻転生って言っても、過去の記憶あったらおかしいでしょうがっ!!
え? 過去の記憶? ってあるの? 私は誰? ここは何処???
アルツハイマーですかっ!! ボケ老人の記憶を持った赤ん坊なんて嫌すぎる。このまま、ボケたまま一生送るのか? そんな人生、あまりにも残念すぎる。
ちょっと待て。それ以前に、この状況を生き延びれるのか? こんな体じゃ身動きもできないぞ。
ガッ! ガガッッ!!
うわーっ、 噛みつかれた。引きずられてる。どこまで引きずられるんだ。すごい勢いで走ってる。
ヤバい やばいっ! わずかながらも俺を守ってくれてるこの白い膜が食い破られたら、地面を引きずられる衝撃で破れたら、あっという間に骨も残さず、喰われるぞ。
お願いっ!お願い!! 食い破られないぐらいの強度があってほしいいいい――っ! 固くなれっ!固くなれっ!
ガッ! ガッ! おおお―――っ! お願いが通じた? 今まで口にくわえて運んでいたぶよぶよしたものが、突然固くなってダチョウの卵みたいになったんだから咥えきれないよな。しかもダチョウの卵よりもはるかに大きい。
そりゃそうだ、赤ん坊が中に入ってるんだから。
放り出された俺は地面をガッツンゴッツン転がって止まる。ドラム缶に入れられて転がされた気分ですよっ!!
奴らの牙をものともしない強度になったみたい。、びくともしない。 横揺れさえもなくなった。 でもこいつら余程腹が減ってるのか、吠えながらいつまでも牙を立ててくる。
。
もうあきらめてどっか行ってくれよ、って思ってたら、牙を立てるのはやめたみたいだ。 とりあえずは助かったっぽい?
いやいや、周りをぐるぐる廻っている気配がする。時折聞こえる唸り声が『グルルルル――』って、全く諦める様子もなく威嚇してきてる。でも、この膜がある間は大丈夫そうか?
今のうちに落ちついて状況確認だ。 今の俺の状況って・・・・・ どうしてこうなった? 落下する前の状況って、どうだったんだ? なぜ赤ん坊? なぜこんなに熱い? この白い膜状のものって何? 分からないことだらけだ。
この訳の分からない記憶というか意識が、覚醒する前の記憶を思い出せるだろうか。少しなりともここに至る経緯が分かれば、この先の状況の打開策を考えつく?・・・・・
全く考えつきそうもない。いや、この白い膜に護られている間に父親が手勢を引き連れて戻ってこれば、助かる道も残っているのか。
でも、落ちたところからかなり遠くまで引きずられた感がある。助けに来てもよほど広範囲を捜索しないと、見つけられないんじゃないか。
やはり、俺の命は風前の灯火なのか。
記憶には残っては居ないが、どうせどこかで死んだ身だろう。このまま死ぬかもしれないという覚悟だけはしておこう。