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自分の心臓の音がバクバクと音を立てているのが分かる。
なんだ、この男は。
なんだ、この人間は。
「君は頭がいいそうだね。」
光のさしていない真っ黒な瞳に似合ない威圧感のない優しい声が落ちる。
「ぇっと…」
「君がこの学校にきてからずっと1位をキープしていることは知っているよ。」
「、はい。皆様に貴重な時間を割いていただいているので、励んでいます。」
昔教えられた言葉を必死に紡いだ。
突然の状況が呑み込めない。
「そうか。君は今の状況をどう思っている?」
「…皆様からの貴重な教えをいただけていることは大変光栄で、」
「そうじゃない。」
用意していた言葉をピシャリと遮られる。
なにを、聞かれているのか。
「君は、つらくないのかい?」
「っ!!」
煙草の薄い煙の向こうで、僅かに眉を下げ、そう聞いてくる男は確かに心配を顔に浮かべていた。
この表情を、感情を知っている。モモが私にしていた。
きっと私もモモに対して無意識にしていた表情で、確かに持っていた感情だ。
なぜ、この男が。心配を。
「僕はね、助けたいんだ。」
困惑する私に対して、そう言葉を吐く男は、徹 原田と名乗った。
「疲れているところに突然悪かったね。今日はもう帰るといい。」
そういって懐から灰皿を取り出した徹は火を消しつつ、私に立ち上がり自室に戻る様指示を出す。
状況がコロコロ変わるので、一向に私の思考はまともな働きをせず彼の言う通りその部屋を出た。
「また話そう。」
少し眉を下げてそう言うと、さっと翻して職員室へ行ってしまう。
私は何も言葉を発せないまま、少し熱に浮かされたように足を動かした。
そのあとどうやって自室に戻ってきたかは分からないが、モモからはそんな顔初めて見たと笑われてしまった。