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Last Resort  作者: 当廟
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奇跡の連日更新

「では、皆さんお集まりいただきありがとうございます。司会進行とさせていただきます会長と申します。キャラネームですので深い意味はございませんので悪しからず。それでは今回の本題、大規模レイド戦、呼称『Break Carrier』について現状の確認から」



そんな会長による進行で始まった会議を肴にして、アヤカと二人並び人の金でデザートと紅茶をいただく。

いやしかし本当に美味しい。時代設定的には砂糖とか貴重品になってそうな気もするんだけどもそうでもないのか。

プレイヤーのストレス緩和とかユーザービリティ的なので実装しているだけなのか、いや無いな。ここの運営はそんな優しくない。

きっとこの再現された味覚だって苦味なんかでプレイヤーの精神にダメージを与えるためのものに違いない。



「現在Break carrierは沈黙中、座標はE2S1、フィールド名:神の住む山。山と同レベルの巨体を持ち全身に薄闇のようなものを纏っている模様。また角と思しき部位には紫電の帯電が確認されています。ここでは便宜上触腕とさせていただきます肢や腕に相当する部位ですが、出現時に地表を貫通、破壊し高高度まで上昇していたことからかなりの強度及び耐久性を持ち伸縮性にも富むと考えられます」



山間部の低い雲まで到達してたもんなぁ。あれが演出ならいいけど実際あのリーチで振り回されでもしたらプレイヤー何か近づけないでしょ。

その辺のモーションや行動パターンの把握は実際突っ込んでみないと分からないもんな、仕方ない。



「今後の大まかな方針としまして、マップ調査と並行しての威力偵察による反応パターンの解析及び肉質調査。解放されたレイド機能及び通常ボス討伐による解放機能の調査。ポーション等消費アイテムの増産及び分配、装備品増産、防衛設備の制作、それらに伴う原料の調達を分担し進めていこうと思います。」



班分け多いなぁ。でも仕方ないよなぁ、画面の前でやるのとは訳が違う。そのまま自分たちの生活圏に直結する問題だし。

そういやこれ敗北条件とか出てたけどさ討伐も撃退も防衛も出来なかったときはどうなるのか。

横でデザートに舌鼓を打ってるアヤカを肘で突き思考を回す。



「……これさ、防衛失敗で街まで突っ込まれた時何が起こると思う?」


「順番に考えればですけど、街と外を隔てる壁が無くなりますね、街中にモンスターが侵入してくることになってセーフエリアじゃなくなるとか。次に建物が壊され多くの死傷者が出るとして、生産と供給が完全とまでは言わないですが止まるでしょうねえ」


「街としての機能が停止するわけだからなぁ。工業都市まで進出してないプレイヤーなんて消耗品の供給も無しになるとか詰んでない?」


「それでもまだプレイヤーはましじゃないですか?死んでも生き返りますから。NPCの方が危ないですよ、多分死んだらそこで終わりですし」


「教会で生き返るから最悪工業都市までゾンビアタック繰り返し出来るもんな……いや、これ、ちょっと待てよ。……もし教会潰されたらどこでリスポーンするんだ?」



そうだ、プレイヤーは初期状態では教会聖堂前の広場でリスポーンする。これが単なるリス位置の座標固定ってだけなら別にいいが。

実際はリスポーン地点は設定で切り替えることが出来る。ただしこれは到達した街の教会にだ。

教会が紐づけされたプレイヤーをリスポーンさせるシステムだとしたら……



「―――ヤギリさん、これかなりヤバイ案件では?」


「やっぱりそう思う?」


「ランダムリスポーンになるだけならいいですが、多分そんな話じゃないでしょうねえ」


「だよなぁ。わざわざ敗北条件としてプレイヤーの全滅とか出しちゃうくらいだし。最悪リス位置更新してない人間はゲームから除外されるかも」


「ですねえ。うわぁー気が付かなきゃよかったー。何で気が付いちゃったんだろ。おかげで全く会議の話聞いてませんでしたけど。いつの間にか班分けの話になってますしい」


「ホントだ、仕事増やすようで悪いけど後で所属聞いたらいいでしょ。やること含めて。ただ一個気掛かりなのがさ、ゲームに閉じ込めてまで目的を達成させようとする姿勢とそれを妨げるリス潰しって何か矛盾しているというか噛み合わない気がするんだけども」



万を超えるプレイヤーを閉じ込め完全なるログアウト不可能な状況で何かを倒せと強要する。

レイドのアナウンスでも肉体の枷から解き放たれた~とか言ってたわけで、おそらく現実じゃどうにもならないモノ。それをゲームとしてのルールが成り立つ仮想世界で何とかしろと。

この場合ゲームのメリットとして考えるならば命が軽いという点と装備とスキルによる補強が可能という点。それらを構築するリソースの確保さえできればプレイヤーは際限なく強くなることが出来る。

そう、システム的に無敵でもなければいつかは倒せるということ。



「あーまぁ何か違和感みたいなのはありますねえ、そう言われればですけど。単に鬼難易度のデスゲームに閉じ込めて右往左往してるのを眺めるのが趣味って可能性とかもありますけども。でもそうなるとレイドのアナウンスが引っかかるなぁ」


「結局今のところじゃ分からんってことか」


「ですかねえ。まぁ良いじゃないですかその辺は一回置いといて、会長さんとこ行って話しましょう。丁度終わったみたいですし」


「結局冒頭しか聞いてなかったなぁ。とりあえず二度手間掛けに行くか」










『あーあー本部へ、こちらヤギリ。これよりE2S1神の住む山へ突入します』


『こちら本部、マップ突入了解。くれぐれも無理のない範囲で情報収集を行ってください』


『了解です。善処はします』



生返事と共に大規模レイド用通話を切断し意識を引き戻す。


善処はしますよ善処は。出来るとは言ってないけども。

だって新マップだし地形も気候もモブも何もわかってない状態なわけで。



「何か過大評価されてる感じあるなあ」



確かに夜間単独行動は現状で自分の代名詞かも知れないが、別に自分しか出来ないわけではないし。夜目の分効率は落ちるだろうけど。

ってかそろそろ夜目取得者他にいないのかな。


そもそも別にそんな生存能力高いわけじゃないぞって言いたい。

ソロでマップ踏破した功績は確かに大きいとは思うけども。別にそれだってノーデスで初見突破しわけじゃないし。

レイズ何かよく死に戻りしてるの知ってるからサイレントに指さして爆笑してやがった。

いやホント、あんまり見られてないだけだと思う。レイズは覚悟しろ。


……そろそろ集中しよっか。一応新マップだし何があるか分からないしね。


E2のフィールド境界線へ、張り詰める様な緊張感と未知への好奇心で突入。


視界端で現在地の表記が切り替わりゲームとして別のマップへ侵入したことが確認できる。

フィールド境界線付近は隣接部の特徴を併せ持った感じですぐさま大きな変化がないからなぁ。

スキルをフル稼働させながらあらゆる情報の取りこぼしがないように足を進める。

出会うモブはおそらく格上で全てが初見。ならば強化された五感でもって索敵で先手を打つ。


……異常に静かだな、何もいない訳じゃない。確実にいる。いるのは分かるが、どうなってる。

モブが見当たらない、聴こえない、動きがない。


自分の呼吸音と衣擦れの音ばかりが耳に付く。自分以外の全てから違和感を感じ行き場のない焦燥感に駆られる。

何がおかしい、何に違和感を感じている。理性ではなく本能が何かを捉えている。

この環境において違和感はなんだ。異物は俺だ。完成された環境に踏み込んできた俺だ。

侵入者にして餌である外来種、縄張りを犯す者。



「何で何も反応しない、襲ってこない……」



本来ならば縄張りの主や然るべきモノが均衡を乱す俺を排除しに来るはず。


心音が煩い、脈が大きすぎる。肌を刺すような感覚が毛を逆立たせる。

背筋を冷たい汗が流れ落ちていくような不快感。重圧を全身で感じている。


違う、これは環境から来るものじゃない。



「───あいつか、Break Carrierッ!」



肉体を持たず電子の海で構成された仮初の器でさえ生存本能が警鐘を鳴らす圧力か。

完全に雰囲気に呑まれてしまっている。

ゲームなのに、仮想なのに、現実ではないのに。


膝を屈したい、今すぐ背を向けて逃げ出したい、意識を手放し楽になりたい。

本能が、肉体に刻まれた記憶が逃走を選びたがっている。

なのに



「何で笑っちゃうんだろうなあ、普段使わない顔の筋肉フル稼働だ」



口角が自然と上がっていた、顔が熱を帯びる、心臓の鼓動が加速する。

生存と真逆を行くこれは、獲得した理性すらも溶かし染めていくこれは。



「これは狂気の沙汰ってやつかな、自分から死にに行こうとするなんて」



現実としか思えない、再現された五感が知覚するこの世界。

プレイヤーの何割かが脱落する程に作られた死の恐怖。


でも大丈夫だ、これはゲームだから。現実よりも現実味があったとしても。

自分にそう言い聞かせて恐怖から体の支配権を取り返そう。


正気でやれないなら狂っていこう。そもそも今の状況自体が狂ってるんだから。

恐怖を麻痺させる甘い毒、思考を蝕む逸脱を。


さあ、今度こそ武力偵察の始まりだ。パーティー会場へ乗り込んでやる。


ダイスロール

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[一言] Garden of Clockworkと作風とか流れが一緒で楽しい
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