90 クリスマスパーティー
葵です。
大イベントのブロック大会が終わったと思ったらすぐに祝勝会を兼ねて、男子校、女子校合同のクリスマスパーティが開かれることになりました。
あわただしい年末です。
でも、楽しい!
場所は女子高の近くのレストラン。
形式は立食パーティです。
みんなが自由に歩き回って、おしゃべりできるようにしたんです。
パスタ、ピザに、パイにケーキとジュース!
高校生らしく、ノンアルコールです。
顧問の山野秋葉先生と福島雅先生は堂々とビールを飲んでいますけど・・・
うーん、大人だから、仕方ないかぁ。
酔っぱらって変な事を言わないといいなあ。
そんなパーティにおいて、私にはミッションがありました。
うーん、ドキドキしちゃう。
実は、男子校演劇部の同学年の安藤司君から頼まれごとがあったんです。
彼は、お芝居になると光った演技をする頼もしい仲間なんですが・・・
男子校特有の「女子の前に出たら、緊張して何も話せない」病?!
つまり、女の子に慣れていない男子!
夏の合宿の時もほとんど女子と会話してませんでした。
そんな彼が、・・・何と女子校の演劇部の女子に惚れてしまって、私に二人が仲良くできるように橋渡しをしてほしいなんて言ってきたんです。
相手は、三塚公佳さん。やはり同じ1年生。
安藤君と違って、すごく元気で活発な子。
誰とでも、分け隔てなくおしゃべりをします。
うるさいくらい、人に絡んできます。
そして困ってる人を積極的に助けるお節介焼きでもあります。
私の幼馴染みの由奈とはおしゃべり同士で気が合うタイプです。
二人そろうとおばちゃんの会話か?というくらいおしゃべりが途切れません。
安藤君・・・
そんな三塚さんに合宿の時に演技を絶賛されてました。
三塚さんはいいなって思ったことはすぐに声に出すタイプなんです。
安藤君は女子に褒められるという初めての経験で、何となく意識するようになったみたい。
まあ、三塚さんはけっこう可愛いし、巨乳だから・・・気になるよね。
そして、先日の演劇大会で顔を合わせた時、
三塚さん、安藤君に
「こんにちは!元気?」
なんて明るく声をかけるもんだから、安藤君、舞い上がっちゃいました。
つまり、恋に堕ちちゃったんです。
で・・・
私、
安藤君から
「三塚さんを好きになっちゃんだけどどうしよう?
今度のクリパで話のきっかけ作ってくれないかな?」
なんて相談してきたんです。
まあ、話のきっかけくらいけど作れるけど、恋の手助けもしなきゃいけないのかな?
どうしよう?
・・・そんなことを考えてると、
「小出さ~ん!出番だよ!」司会の女子校の部長から呼ばれます。
ついに時間が来ちゃいました。
私のプライベートについて、発表することになってたんです。
みんなの前で話をしなければいけません。
記者会見するタレントみたいで恥ずかしいけど。
私は、ちょっとしたスペースに出て、説明を始めました。
「こんにちは、男子校女形の小出葵です。
女子校のみなさん、ブロック大会のときは応援ありがとうございました。
おかげさまで、全国大会が決定しました。女子校の演劇部と男子校の演劇部が切磋琢磨したから、こういう結果を生み出せることができたと思います。本当にありがとうございました。
ところで、わたくし事ですけど、皆さん、すでにお聞き及びかとは思いますが、私・・・小出葵は男子校にいる男性ですけど、実は、・・・女性になろうとしています。
つまり、性転換の治療を受けています。
今、世間で話題になっているLGBTなんです。
あの、・・・夏ごろから、女性ホルモンを体に入れて、身体の女性化を進めています。
卒業までに、あの、男性すべてについている・・・あれを取っちゃいます・・・
そして女性の体になっちゃう予定です。
そんな私ですが、これからもよろしくお願いします。」
あれを取っちゃうという説明の時、男子全体がちょっと痛そうな顔をしました。
他人のことでも、ショッキングなんでしょうね。
あれがなくなるってことはまさに男性でなくなるってことだから・・・
話終わって頭を下げると、拍手が起こりました。
そして、女子校のメンバーから
「葵!
女の子の体になったら、女子校に転校するの?」なんて声が飛びます。
「それも、考えたんですけど、最後まで、男子校で過ごします。
手術終わったら、もう3年生の半ばですから。
そこで転校すると中途半端のような気がすします。
でも・・・大学は女子として受け入れてくれるところに入学するつもりです。」
「そうなんだ!すごい!そこまで考えてるんだ!しっかりしてる!」
「うん、応援するよー!」
「勇気ある!がんばれー!」
なんて声が沸き起こりました。女子校のみなさんの声援、本当に力になるなあ。
それ以上の質問は特になく、私は元にいた場所に戻ります。
すると・・・
次々と女子が私の周りにやってきました。
「なんか、すごく可愛くなったと思ったら、女性ホルモンの力だったんだね。」
「女の子になりたいってことは、男の子が好きなんでしょ?
すると、男子校って、天国じゃない?
誰が好きなの?」
「県大会のとき体つきが何となく女の子っぽくなってるなって思ってた。
ホルモン治療ってすごいね。」
同期の1年生だけでなく、2年生の先輩からもいろいろ質問や感想が飛んできました。
女子は私の体の変化や、恋愛についての考え方について興味津々です。
ま、覚悟はしてましたので、当たり障りのない答えを返していきます。
女子校のメンバーは私の回答に満足したり、いまひとつ物足りないような顔を見せながらも、結局は盛り上がっています。
そりゃそうですよね。珍しい生き物のようなものです。
でも、私は気分を害しません。女子校のメンバーにはいろいろ助けられているし、これからも仲良くしていきたいからです。
女子校のメンバーは私との会話を終えると、満足して、今度は男子との会話に移っていきます。
今日の目的は男子との交流なんですから、当然ですね。
もしかしたら、今日、新しいカップルが誕生したりして・・・。
私の発表も話しのネタにしてもらえばいいかな?
そうなれば、ちょっと嬉しい。
そんなことを考えていると、いきなり、誰かに後ろから抱き着かれました。
背中に柔らかい感触がします。
巨乳の女の子に違いありません。
「葵、やっぱり女の子っぽくなってる。体の感触がもう女の子だよ!ここも本物なんだー。」
声で、三塚公佳さんとわかりました。
「三塚さんでしょ?
びっくりしたよ!
ぃやぁん、胸を触らないで。」
三塚さんは私の胸をモミモミと揉んでます。
「いいじゃないっ?女の子同士なんだから・・・。ねっ!」
明るい三塚さんですが、まさかセクハラの傾向があるとは思いませんでした。
でも、周りに注目されるのは不味いとおもったのか、すぐ私の体から、離れます。
「ふふふ、触っちゃった。ちゃんと膨らみ確認した。満足!
ところで、葵って、誰が好きなの?男の子好きなんでしょ?
今、先輩からの質問については、いないってごまかしてたけど、ホントはいるんじゃない?
やっぱり、板谷君?」
おおっ、お節介焼きの三塚さん、個人名挙げちゃった。困るなア。
そりゃ、板谷君は最高の仲間だけど、恋愛相手として考えることはできないよ。
今の状態じゃ・・・
「好きな人は本当にいないよ。だって、今は私・・・男でも女でもない状態だもん。
手術を終えて、身体が完全に女性化したら・・・考えるかもだけど・・・」
「ふうーん、そんなに堅く考えなくてもいいような気がするけど・・・
好きなら好きでいいじゃない。
もし、好きな男の子できたら、私に相談してね。協力するから。
葵の恋だったら、何を差し置いても実らせたい!」
「え?・・・あ、ありがとう。
ところで、三塚さんはどうなの?」
私は、安藤君のことを思い出し、逆に質問を返しました。
ところがその質問が終わらないうちに、三塚さんは、何と、安藤君のところに歩いていきます。
「安藤君!だめよ!
また男子とばかり、話してる!今日は女子と男子の交流会なんだから、女の子と話さなきゃ。」




