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78 県大会突破

葵です。

11月中旬、高等学校演劇大会の県大会が開催されました。


何と、私たち桃花高校は、泉蘭高校とともに県代表に選ばれました。

惜しくも、桃花女子高校は落選。同じ学校法人の学校が男女そろって県大会突破とはいきませんでした。

祐希は悔しがってましたが、私には

「女子校の分まで、がんばってよ!!全国めざして!」なんて言われちゃいました。


大会が終わって、表彰式が終わると、私は、ライバル校である泉蘭高校の女子部員に声をかけられます。

すっごい美人です!

テレビに出てきそう!


ヒロインを演じていた背が高くて細いモデルのような女の子でした。

ずばり、主役で、目立った演技をしていたような気がします。

目力が強くて、私は目を射抜かれる感じがしました。


「はじめまして。

私、泉蘭高校の神谷明里かみやあかり

あなたが、今年の『姫』の小出さんね。

すごい!普通に女の子に見える。

まったく男子のかけらもないわね。

小柄で華奢で、まさにうってつけの素材ってとこかしら。

ただ本物の普通の女の子に見えるってだけね。

今年の姫はヒロインというよりも、男性主人公を際立たせるための存在って感じだから、ちょうどいいのかな?

次は、地方ブロック大会で勝負よ。

ブロック大会では、1校しか選ばれないから、絶対うちが勝つから。

忘れないでね。」


何という勝気な女の子なんでしょう!

失礼なことを平気でいうメンタルの強さには呆気にとられます。

私をライバルとは思ってなさそうな感じだけど、それなら、わざわざ私に言いに来なくていいのに。

どうせなら、主役で、がんばっている板谷君に宣言すればいいのに!


私は、ちょっと頭に来て、言ってしまいます。

「うちの主役は板谷君だよ。

神谷さん、そういうことは、板谷君に宣言すればいいのに。」


そこで、神谷さんは、急に恥ずかしそうな顔になります。


「私、他校の男子とはとても話せないから・・・

板谷君はすごいと思う。

高校から演技を始めたんでしょ?

才能あるよ・・・」

とちょっと恋する乙女のような顔になっちゃいました。


どういうこと?


「あの、板谷君には、よろしく言っといてね。

お互いがんばりましょうって!

じゃあね。」


神谷さんは、あっという間にその場を去りました。


まさか、板谷君に惚れたの?

やだ、板谷君は渡さないからね!

いや、私のものではないけど・・・。



大会終了後、部室に戻った私たちに、山野先生が集合をかけます。


「みんな、ついに、県大会突破したね。

こうなったら、目標はブロック大会じゃないよ。

来年の全国大会が目標。

ブロックで一位をとる。ブロックは通過点と思って。

ただ、今の劇の内容だと、まだ物足りない。

いろいろ手直しをするから。


まずは、板谷君。主役として堂々としてきたのは素晴らしいと思う。

劇がしまってきた。

でもね、全国大会に出るなら、観客を感動させる演技をしないと。

台本を手直しするけど、貴方も観客を泣かせる演技が必要。

今回、エキセントリックな変人を演じてもらっているけど、

そこからもう一歩ステップアップしたい。」


「わ、わかりました。

ここまで来たら、何でもやります。

中途半端は嫌です。」


「それから、葵ちゃん。

情けない女の子の役、板についてきたね。

演技上達したよ。

でも、普通。

板谷君の際立たせるのには役立っているけど、普通すぎる。

もっと、メンタルが崩れて、観客が助けてあげたくなる感じまで、自分を落として。

徹底的に情けない女の子になれた時に、劇の最後のほうでの復活が生きてくる。

ダメ女子の演技をもっと身に付けて。」


「確かに、私の演技は普通すぎたかもですね。

全国目指すなら、もっと振り切った演技が必要ですよね。

が、がんばります。」


「それから、尾崎君。もう、3年生に新しいことは頼めないから、台本の手直しを私と協力してやってくれるかな?」


「はい、もちろん。

全国かあ~。

夢みたいな話ですね。」


山野先生はそのあとも、各部員に適切な指示を与え続けて行きます。


うわっ、ゾーンに入ったみたい。まるで別人だ。

先生の頭の中で、全国大会で勝つシミュレーションが出来つつあるんだ。

そのためには、どうするかというプロセスも頭のなかでものすごい勢いで作られているのかも。

先生、頼もしい。

でも、私たちがその指示を実行できなければ、何にもならないんだ。

私たちも、ゾーンに入って、別人にならないといけないかも。



ミーティング後、私は、先生に呼ばれ、生徒相談室で二人きりになりました。


「先生、何ですか?演技のこと?」


「演技のことは、さっき指示したとおり。

ここに呼んだのは、あなたの体のことよ。

ホルモン治療効果が出てきて、いろいろ副作用があると思うから、

心配してるの。

精神状態、大丈夫?

鬱な気分にならない?」


「そうだったんですね。

鬱状態にはなりませんが、いままでにない身体の感覚によく戸惑います。

おっぱい、まだ小さいけど、走ったりすると揺れて、邪魔だなアって思ったりします。

お尻も大きくなって、やっぱり走ったりするとき、太ったような気分になります。」


「そっか。

肥満には注意してね。

太っちゃうと、今の役が合わなくなっちゃうから。

おっぱいとお尻の感覚は私も体験したから、慣れるしかないわね。」


「あ、そういえば、すぐ泣くようになりました。

ちょっと悲しいと、すぐ泣いちゃいます。

これって、ホルモン効果でしょうか?」


「感情の起伏が激しくなりやすいかもね。

男子より女子の方が泣くものよ。

でも、泣いた後さっぱりするでしょう?

泣くのは心のデトックスっていうから、いいかも。」


「あと、言いにくいんですけど・・・

身体が女の子っぽくなってきたら、男子が恋愛対象になってきた感じがしてきました。

とても、うちの学校の生徒には言いたくないんですけど。」


「ふふふ、あなたは性同一性障害ってことで、女性になろうとしているんだから、

そのセリフはここだけにしといてね。

身体が女性化するば、男子を好きになるのは当たり前のことだから、いいんじゃない。

でも、あなたは性転換手術をちゃんと受けるんだから、ちゃんとした恋愛はその後でも

いいと思う。人を愛するのはいいけど、恋愛の時期はタイミングをみてね。

私も、そうしたから。」


「はい、ありがとうございます。」


人生の先輩が身近にいてよかった。


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