189 ラーメンが好きな二人
朝倉蒼汰です。
カフェから出て、俺と朱里さんは、原宿に行くという弟と和音ちゃんを見送った。
「さて、朱里さん、こうなったら、今日はもう一軒行きましょう!
ラーメンマニアが二人揃ったら行くしかないですよね?
俺と朱里さんが前から目を付けていたあの店に行きませんか?」
すると、朱里さんの目が光った。まさにラーメン・マニアの目だ。
このままじゃ帰れないという気持ちは彼女も強かったのだろう。
「私も、そろそろあの店に行きたいなって思ってました。
変わり種の、トマトラーメンで有名なあの店ですよね?」
「そうです。ちょっとイタリアンっぽいあの店なら、ラーメン食べて、パフェ食べたあとにいいんじゃないかって思ったんです。
でも、ちょっと時間を置きますか?もう、昼の部は終わりでしょうから、夕方の部に行きましょう。
それまではどうやって、時間つぶします?」
「そうですね・・・。
あの、・・・・そうだ!
ずうずうしいんですけど、蒼汰さんの住んでるアパートってその店から近いですよね?
大変失礼ですけど、蒼汰さんのお宅を訪問しちゃだめですか?
あっ、もしかして、彼女がいたりして・・・」
「ええっ?いきなりですね。
うーん、いいですけど・・・
でも、全然、掃除も片づけもしてないですよ。
ちょっと恥ずかしいなあ。
・・・まっ、いいか。
汚いところですけど、それでもいいなら。
そうだ、朱里さんこそ、彼氏はいないんですか?」
「私ですか?
いないんですよ。
恥ずかしいんですけど、フリーです。
だから、独身男性の一人暮らしってすごく興味あります。
私も、田舎から出てきて一人暮らししてますので、どう違うか見てみたい。
掃除、片付けなら手伝いますよ。
ほら、私、今日は、ラーメン用の汚れてもいいかっこだから、全然平気。
オシャレなかっこしてたら行かないけど。
あ、エッチなビデオとかあったりして困りますか?」
「ええっ?エッチなビデオはないですよ。ひどいなー。
その代わり、ラーメン本はいっぱいそろってますよ。
朱里さんも持ってるでしょうけど。
そうだ、おとといに出たばかりの、ラーメン評論家が書いた『ラーメン野郎の哲学』を買ったんだ。
ご存知ですか?」
「わっ、それ興味あったんです。ぜひ見せてください!」
「じゃ、俺んちに来てください。女の子入れるのは初めてです。
ただし、汚くても文句言わないでくださいよ。」
「ええ、大丈夫です。
ワクワクします。
汚かったら掃除しますから。
あ、洗濯もたまってたら手伝いますよ。」
「ははは、じゃ、頼んじゃおうかな。」
俺は、朱里さんのことを他人と思えなかった。
ラーメン・ブログを通じたネットでの付き合いがベースにあったからだ。
しかも、弟たちの先生だし。人格的に不安はない。
そして・・・
ノーメイクで、Tシャツにダボっとしたパンツにスニーカーで、すごく親しみやすい。
今まで完璧メイクのオシャレ女子には気を使って大変だったけど、朱里さんはその必要がない。
ほぼ素だと思う。
俺もラーメンオタクまる出しの素が出せる。
気取ることなんてない。
うん、楽しいぞ。
こんな出会いもあるんだな。ラーメンの神様の紹介かな?
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小山朱里です。
ラーメンを食べて、スイーツを平らげたあと、朝倉良太君のお兄さんと二人きりになってしまいました。
そして、夕方のラーメンも一緒に行く約束もしてしまいました。
ラーメンを一緒に食べに行ってくれる人がいるなんて!超嬉しい。
それも、イケメン!
らーめん!ツケメン!~イケメン!っていうギャグがあったけど、そんな展開になっちゃった。
そして、私、勢いで、お兄さん・・・蒼汰さんの住まいを訪問したいって言っちゃった。
自分でも信じられない発言!
図々しいかったかも。
変な女だと思われてないかな?
はしたない女なんて思われていないかな?
だって、彼女でもないのに、一人暮らしの若い男性の部屋に入ったら、問題だよね。
初対面だし…
でも、こんなイケメンが変な事するわけないし…
いや・・・変な心配は不要・・・かな?
いろいろ考えるのはよそう!
私は自分の暴走について納得する理屈をつけます。
言ってしまったことはしょうがないし、勢いとかその場の流れってあるしね。
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そして、結局、蒼汰さんとラーメンを食べる前に、蒼汰さんのアパートを訪問してしまいます。
「ここです。古い建物で汚いですけど、遠慮しないで入ってください。」
「汚くなんかないですよ。キレイに整頓してるじゃないですか。」
蒼汰さんのアパートは駅のそばで便利な場所でした。
こんな場所なら、古いアパートでもしょうがないなあという感じです。
勤務先が家賃の補助をしてくれると言っても、そんな高い物件借りられるわけないですからね。
古いアパートですが、その代わり2DKというのもポイント高い!
これなら、誰か来ても泊まれます。
こんな便利な場所なら泊まりたいよね。
私も・・・泊まったりして・・・
ええっ?私なんて言う事考えてるんだろう。はしたないなー。
知り合ったばかりの男の人の部屋に来て、何考えてるんだろう?
付き合ってるわけでもないのに。
うーん、赤面しちゃう。
そうだ、さっそく、洗濯機を覗いてみよう。
どれどれ・・・
おっ、やっぱり洗濯ものたまってる。
よし、洗うぞ!
「蒼汰さん、洗濯物見つけましたよ。洗っていいですか?」
「ええっ?本当に洗うんですか?
じゃあ、そこに液体洗剤と柔軟剤あるんで、使ってください。」
「了解!」
それから、洗濯機が回っている間、私は蒼汰さんのラーメン本コレクションを片っ端から見せてもらいます。
「うわっ、すごい、こんなにあるんだ。これとこれ、今日、借りて行っていいですか?
このマニア向けの歴史本はためになりそう。
この素材に注目した料理本も面白そう。
私、今までガイドブックしか買ってなかったらから、すごく新鮮です。」
「ははは、オタクまる出しで恥ずかしいんですけど、興味を持っていただき、うれしいです。
実はラーメンを自分で作ってみたいという野望があるんです。」
「もしかして、ラーメン屋さんになりたいとか?」
「それは、ありません。今の仕事に満足してますから。
でも、ラーメンという趣味を追求したいと思ってるんです。」
「素敵!!
私もお供したい!」
もし、誰かが私の表情を見てたならば、目にハートマークが浮かんでると思ったかもしれません。
幸いなことに、蒼汰さんは冷静で、
「ラーメンの話で盛り上がれるのはいいですね。
ラーメンオタクを隠さないでいいって楽です。
助かります。」
と、恐縮してて、同い年にも関わらず大人っぽい反応をしてくれました。
そこに、ますます素敵だと思う私です。




