85 あるブイの人々の話
短い。
主人公不在です。
アルヘナがログアウトした後も、数人のクラン・エトワールのメンバーは残って会話に花を咲かせていた。
場所はヘーロンでも数少ない酒場である。
ゲーム内時間は夜なので、他のプレイヤーも集まって混雑している。
あちこちから注文が飛び交い、給仕の女性が右往左往している。
その内注文を取り仕切るプレイヤーも出て来て、その辺りは直ぐに落ち着いた。
それを眺めていた彼女たちの話題としては、兄の後を追ってログアウトしていったアルヘナのことだったり。
「仲が良い」
「そうよねー。今時珍しいわよね」
「普段はそっけない癖になあ」
等とニヤニヤも含めて会話しているところへ、酒場の扉を突き破るような勢いで話題の当人がやって来たので、3人は飛び上がった。
「もしかして地獄耳?」と思った者もいるとかいないとか。
アルヘナはクランが溜まっている所までやって来ると、両手を力強くテーブルに叩きつけた。
その瞳には強い決意が宿っている。
「PK狩りに行きましょう!」
「「「「……?」」」」
「えーと……?」
「話が読めない」
「いきなり何よ?」
「前後の説明くらいしなさい!」
エニフとデネボラとツィーとアニエラが首を傾げる中、次にアルヘナが発した言葉が問題だった。
「兄さんがPKに遭ったって」
「まあ、ナナシさんが、」
『『『『『『なあああにいいいいイイイッッッッ!!!?』』』』』』
逆に震撼したのは酒場全体だった。
ほぼ全てのプレイヤーが立ち上がり、半数は憤怒の表情で怒り心頭状態だ。
「開祖様がPK被害にあっただとおおおっ!?」
「クッソ! 信者としては許しちゃおけねえ!」
「これだからPKをのさばらせておくのは嫌なんだ」
「野郎ぶっ殺してやる!」
「イビスにいる同志にも連絡しろ!」
「看破を持ってる奴をかき集めろ! 賛同しねえプレイヤーを片っ端から調べるんだ!」
この辺りは過半数がペットを連れている連中である。
何人かは注文した料理を手早く口の中に詰め込み、足早に出ていく者もいた。
他には「金を貯めてるっつー最中に、レア品持ってる奴がゲーム止めたりしたらどーすんだ。PKの連中はよお」と言いながら手勢を引き連れて出ていくプレイヤーとか。
「あの人がいないと色んなクエスト見つけてくれねーじゃん」
「初クリアは目指せないけど、探し回らなくて済むのはいいよねえ」
とか会話しながら出ていく者もいる。
後に残されたのは、数人の住民と唖然とした給仕の女性と、振り上げた怒りの鉾先を散らされて酒場の出口を見つめるしかないエトワールの面々であった。
「で、どうします?」
勢いを削がれたメンバーを振り返り、クランリーダーであるツィーが尋ねる。
「あの分だとPKが残っているか怪しい」
「私たちが行かなくても大丈夫なんじゃない?」
あんまり乗り気じゃないのが、デネボラとアニエラだ。
逆に奮起してるのはエニフとアルヘナである。
「PKなんて卑劣な行為は許せません! 今までその機会はありませんでしたが、これを機に改めて貰わなくては!」
「兄さんの仇は私が!」
これは止められないと判断したツィーは、討伐側に同行することにした。
エニフが動けばその信者も付いて回るので、彼女に危険が及ぶことはない。
心配なのは1人で何処にでもホイホイ入り込むアルヘナである。
3人が動き始めると、やれやれと頭を振りながらデネボラとアニエラも同行する。
ナナシは倒されてないのだが、それが正確に伝わってないため皆が暴走状態と化していた。
こうしてヘーロンのみならず、イビスでも大々的にプレイヤーが行動を開始した。
変装して街に入り込んだPKは悉く狩り尽くされた。
ダンジョンに潜むも、草の根を掻き分けるような勢いで進行してきたクラン・嵐絶になぶり殺しにされた。
森の中に姿を隠した連中はペットの嗅覚や超感覚に暴かれて、追い詰められていった。
その結果、PKプレイヤーの活動はどんどん縮小されていったという。
時にはPKプレイヤーが探しだして溜め込んでいた宝箱がプレイヤーの手に渡っていくことになったりと。
運営の意図した事とは予想もしない方向で今回のイベントは進行していった。
中には騎士団の人間と懇意にしてる者もいて、その筋からPKプレイヤーの捜索に協力してもらったり。
その恩恵で闇商人なども摘発されたりして、プレイヤーは住民たちに認められていくのであった。
 




