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84 秘密通路の話

 リアル回です。


 さて、まだ日が高いうちに統制機構のビルを出る。

 ちなみに入り口は統合統制機構前なのだが、出口は地下通路を通って別の場所からだ。

 

 何でそうなっているのかというと、マスコミとか、怨恨で付け狙われるかもしれないとか、何かの抗議行動に巻き込まれるかもしれないとかの対策じゃない。

 「その方がカッコいいでしょ」という私情によるものだ。


 通路の先は、近くの公園のトイレの個室とか、付近のアミューズメントパークの柱とか、ちょっと離れた駅のトイレの個室とか。


 なんかのスパイ映画じゃねーっつーの。トイレ多すぎだろ。

 誰が考えたか丸わかりだ。絶対うちの母親に違いない。

 すぐゲームやら漫画やらアニメやら特撮やらの秘密基地に影響されるからなあ。付き合う方の身は考えて……くれないんだろうな。


 一時期家を出るときに積層住宅のエレベーターが地下まで続いていて、エレベーターを降りたらベンチがあって、それに座ると家から50m離れた公園のベンチと入れ替わる。というようになっていた。


 ベンチが3人までしか座れなかったために、4人以上だと後続が少し待たねばならず。

 何より普通にエレベーターで下に降りて歩いて行った方が早い、というのが判明してから急速に使われなくなったモノである。

 たぶん、まだ動くだろうが。



 今回俺が使ったのはアミューズメントパークの柱である。

 出られる場所は、関係者以外立ち入り禁止区域となっている連絡通路だ。統制機構の通行証を持っていれば関係者とみなされるものなので、一々(とが)められたりはしない。


 連絡通路に繋がる耐爆仕様の隔壁を抜ければ、家族連れで賑わうアミューズメントパークに出る。

 ここのアミューズメントパークは、室内室外両方で楽しめる全天候型の遊園地だ。

 正式名は朱鷺城(ときしろ)遊園地という。入場料は無料なので、内部から入園しても大丈夫だ。


 頭上にはフライングボール、通称お手玉と言われる遊具が右に左にと飛び交っている。

 あれは軸によって引っ掛けられる円形の4人乗りカーゴを、専用のアームの付いた柱の間で投げ合うというスリル満点の人気な奴だ。


 というか「スリル満点」ってレベルじゃねえだろうが。誰だあんなもん考えたのは。

 小さい頃に家族一同で来て皆が嬉々として乗ってる中、俺だけ恐ろしくて乗れなかった覚えがある。


 柱は遊園地内に8本点在し、通路に沿ってお客の頭上をジグザグに飛び交うという仕様だ。

 いまのところ事故が起きたことはないらしい。


 あのカーゴって時々糸かなんかで吊り下げられてるような気がするんだよな。

 気のせいだと思うけど。



 今回の目的地は家よりこっちの方が近いので、俺は入場口に向かう。

 目的地というかバイトの撮影場所だ。夕方から夜にかけて海岸でやると言ってたからなあ。往々にしてその場合びしょ濡れになる可能性が高いから、帰りが撮影クルーと一緒に銭湯に寄ることになるだろう。


 途中で後ろから来た翠に「兄さん!」と声を掛けられた。


「おー、どうした?」

「兄さんが宿屋に向かうのが見えたので、一緒にログアウトして来ました」


「ふーん。クランの方は良かったのか。ベアーガには行ったんだろ」

「兄さんからの情報で街道沿いが大混雑ですよ。今は他にコインを貯めたら何が貰えるのか検証中です」


「大丈夫かそれ。1度発生したら2度と出来ないクエストとかあるんだろうに」

「冒険者ギルドのクエストで、何回でもオッケーというのがあるので大丈夫ですよ。手順が面倒なのですが」


 溜め息とともに額にシワが寄るところをみるに、相当面倒事らしい。あんなコイン貯めて何ができるんだろう?


「北の国の関所を通る証明になるんだから、ベアーガのお偉いさんと面会できる、とか?」


 思い付きで言ってみたら、翠はポンと手を叩いて晴れ晴れとした顔になった。


「そっか信用証明書みたいなものですから、そういった紹介書みたいに使える可能性もある訳ですね! 明日ログインしたら皆に話してみます」


 でもそれが可能ということは、ノースウェン国の権力がトードー国の衛星都市まで及んでいるということかね。権力闘争に巻き込まれるのはヤダなあ……。


「あ! 兄さん今日、城使いましたか? 5人組のプレイヤーに聞かれたんですが」

「ああ、使った。消える直前に遭遇した奴らがいてなー。そいつらが行ったんだな。迷惑かけてすまないな」


「いえ、適当に誤魔化しておきましたから大丈夫ですよ。デネボラなんて偽るのを面白がってましたから」


 あー、デネボラさんなら「フフフ」とか言って、ニヤリとした笑顔と無言の目線で含みを持たせそう。

 でもプレイヤーの前で使っちゃったから一応擬装は解いた方がいいな。


「翠、次からは聞かれたら俺が使えるって言っちゃっていいぞ」

「え!? 隠しておくんじゃないんですか」


「今日、PKに襲われてな。そいつら倒すのに使ったんだ。そっから漏れる可能性もあるから、気にすんな。しかし俺の攻撃は決定打に難があ……」

「PKですってええっ!?」


 いきなりすっとんきょうな声を出すな。周囲の家族連れの方々がびっくりしてるだろーが。


「兄さんをPKするなんて許すまじです! こうしちゃいられません!」


 Uターンして走り出そうとするのを捕まえる。


「マテマテ何処へ行く気だ!」

「何処って兄さんをPKした犯人を捕まえて、生まれたことを後悔させてやるんです!」


「いやだからPKはされてないって、倒したと言っただろーが!」


 俺の言葉に安堵した翠だったが、にっこりと微笑むと「それなら良かったです。でもそれはそれ、これはこれです」と闇黒星雲をバックに凄味を効かせて、来た道を戻っていった。


 ……PKのプレイヤー、ちゃんとログアウト出来るんだろーかなあ。

 精神が死なないといいけど。


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