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270 パワーアップの話

 レンブンと一緒に外周の通路から出ると、辺りはすっかり真っ暗になっていた。

 塔から出るまではいいんだが、外周の通路は徒歩で戻るしかない。一瞬で戻るには【空間魔法】を成長させるしかないんだろうな。

 ゾンビには襲われなかったが、暗殺人形は数体倒した。

 新鮮な空気をすー、はーと取り込む。何だかんだいってゾンビ地帯は臭いからな。


「夜になってしまいましたね」

「宿屋は継続して取ってないからなあ。素直にクランハウスへ帰るか」

「いえ、ナナシさんという大口の契約相手が街に滞在している以上、部屋は確保されるとみて良いでしょう。飛び込みでも泊まれると思いますよ」

「そういうもんかね?」

「予測ですが、ほぼ8割は確実に。それに大半のプレイヤーは庶民勢ですから、冒険心が仕事しないとああいった高級宿には近寄らないのではないでしょうか」


 レンブンの予測に従い昨日の高級宿に行ってみると、支配人が諸手を挙げて待ち受けていた。

 すんなりと昨日も宿泊した部屋へ通される。


「こりゃヘイズの定宿になりそうだな。オールオールも引っ張って来りゃあ良かったか……」

「私まで、良かったのですか?」


 勿論レンブンも引っ張り込んだ。スイートルームでは1人増えたところで、料金に然程違いはない。


「元々は2~4人がゆったりと泊まれる部屋だからな。1人増えたら増えたで、使われるベッドも本望だろうさ」


 ダブルのベッドルームが3つもあるんだよ、ここ。リビングもくっそ広いし、様式の違う部屋が2つある。クローゼット部屋も2つあるが、インベントリのある俺たちには不用だ。


 ルームサービスで夕飯を人間2人分とペット5匹分を頼む。

 ペット分は何が出てくるのかと待っていたら、10kgの米袋くらいの大きさの肉の塊がレアっぽい焼き具合いで持ち込まれた。チップを弾んでおこう。


「うーん。アスミは小さく切り分けるとして、グリースは手持ちの穀物類を出すだろ。残った肉はアレキサンダーとツイナとシラヒメで3等分か?」


 ふるふる

「コケケ」

「ちー」

「がう」「メエ」

「え、アスミとグリースとツイナで3等分にするのか? 1対1対3くらい分け? 細かいなー」


 そういうことらしい。

 1つの肉の塊を大雑把に切り分け、グリースには皿に盛った穀物も出してやる。

 ツイナはライオン頭が豪快にガブリと、シラヒメは蜘蛛頭がチマチマとかじっている。

 アレキサンダーは一気に体内へ取り込み、アスミとグリース分は更に小さく一口分へと切り刻んだ肉をがつがつと腹に収めていく。

 人間分は肉主体のコース料理、ワイン付き。俺は未成年なのでブドウジュースになっている。


「ナナシさんの面倒見の良さが、彼らの強さの原動力の一因なのでしょうね」

「食事に関しては好き嫌いはあんま聞かないな。これが食いたいとかの希望はたまにあるが、それだって調達に時間はかからない物ばかりだ」

「肉を与えれば、どうにかなるようなものなのでしょうか?」

「アレキサンダーとシラヒメが焼いたりして適当に分けるから、喧嘩も起きたりしないがな。今回のダンジョン行脚(あんぎゃ)だって、アレキサンダーが溜め込んでる肉を皆にちょいちょい分けてたんだよ」 

「そんなことしてたんですか?」


 レンブンの視線の先でアレキサンダーがコクーリと頷いている。

 ヘイズのダンジョン内は肉をドロップする敵が居なかったから、アレキサンダーがインベントリ内の食料を皆に少しずつ提供していたのだ。

 ペットの空腹度はこっちのステータスを開けば勝手に表示報告されるから、度々チェックしていたというのもある。


 アグリのドールコアにはMPを込め、聖霊ちゃんとは【魔力制御】のスキルを使ってMPの行き来を行う。これが食事代わりでいいらしい。

 今はベアーガでの大量スケルトン召喚で借りたMPをちょっとずつ返還してる影響で、MPの最大値が下がってるからな。【城落とし】も暫くは使えん。


 ステータスを開いたついでにスキルの上昇をチェックする。

 戦闘に使ったスキルは軒並みアップ。中でも【投擲】が大幅にアップしている。大スケルトンを倒したのが効いたのかね。ビギナーも49レベルへ上昇。SPも5に増えてはいるけれど、これでは何も取得は出来ない。

【無属性魔法】も結構使ったが、相手がゾンビとグールとかだとダメなのか、全然上がらんな。もちっと格上相手に戦わないと全体の上昇値は微々たるものだ。


 アンデッドを大量に倒したことで【アンデッドスレイヤー】の称号を取得。

 後はアグリに貸していた【片手棍】も少し上昇している。これなら次は【土魔法】も貸し出して、防御に使って貰おうかなあ。


 ペットたちも2レベルずつアップ。だがグリースは1レベルだけ。アスミも1レベルアップ。やっとか。

 聖霊ちゃんはレベルがないので分からないが、ステータスに「No name」と書いてあるから、名前を付けたらまた変わるのか?

 気の毒だけれど後回しにしよう……。


 ドロップ品は魔石が大量にだ。

 大剣を嵐絶に渡したら貰いすぎだってことで、魔石の8割がこっち来たんだよな。料金も払ったんだから、半々でもよかったのに。コンロ用の魔石を残して、大半を合成魔石に変える。

 レンブンは俺の手元に目をやって、表情が固まっていた。


「ええと、それは……?」

「ざっくばらんに言うと魔女のスキルかな。これが出来ないと使い魔が作れん」

「な、成る程。……そういうものなのですね」


 ちょっと思い付いてアグリのドールコアにも合体出来ないか、【魔力制御】スキルに集中してやってみる。

 やや時間が掛かったが、合成魔石を3つ程合体させたところで限界だということが分かった。ゴルフボール位だったドールコアは、ソフトボール位に大きくなった。これ以上は魔女のスキルアップが必要だな。


「何だか倍以上に大きくなりましたね……」

「これでちょっとはアグリもパワーアップしたろ。体を作ったらウォーミングアップがてら、何かと1人で戦わしてみるか」

「虐殺にならないといいのですが……」


 レンブンが心配そうに呟く。アグリもそこまで凶暴じゃないから、大丈夫じゃないかな。

 いや、俺の性格をコピーしてるから、闘争心は大いにあるだろう。暴力に傾かないとは言えないか?


「コケッケ」

「ん、どうしたグリース?」


 グリースが袖を突ついて俺の視線をずらし、「ん!」とばかりに胸を差し出してきた。

 正確には首にぶら下がる卵の刺繍が付いた小袋をだが。こんもりと膨れ上がっているところから察するに、この前入れたトレントの種が卵になったのか?

 早くね?

 もしかしてグリースのレベルアップが1だけなのは、小袋に経験値を譲渡していたからなのか?


 中から野球ボール玉サイズの卵を取り出すと、レンブンの目が丸くなる。


「そ、それは?」

「卵だ」

「……ええと、好奇心で聞きますが、何の卵かお尋ねしても大丈夫ですか?」

「秘密ということで頼むわ」

「分かりました。ここだけの秘密ということで」


 言っちゃっても構わないんだが、ギャアギャア騒ぐ卵クレクレ連中に(たか)られるのも面倒だからな。


「トレントの卵だ。実際のところは孵してみないと分からないが。ほぼ確実に」

「はぁっ!?」


 レンブンがすっとんきょうな声を上げて驚く様は初めて見た。

 しかし、孵るまでのカウントが五分もないんだよ。そんなに生まれたかったのか?

 レンブンと一緒に固唾(かたず)を呑んで見守っていると、ゆらゆら揺れた後にビシッと卵に亀裂が入った。


「おー」

「ええっ!? こんな唐突なんですか」


 俺とレンブンの目の前で、瞬時に卵の殻が砕け散る。同時に中から小枝のような小さな木がストンと出現した。

 一見すると「人」という先端を上に伸ばし、先っぽに葉っぱが1枚だけ付いているような形状である。

 胴体の中央にゴマ粒のような3つの点があり、上2つが目で下1つが口のようだ。

 脚と言っていいのか分からないが、うねうねと動く根っこが2本。全体的に特殊な形状だな。

 これがあの時の様な、大きなトレントになるのかねえ。

 すすすすと寄ってきたアレキサンダーが、生まれたばかりのトレントをひょいと頭の上へ乗せる。


「ぽー」

「鳴いた!?」

「ちー?」

「ぴゃあ?」

 ふるふる

「ぐる」「メェ」

「あタラシいカゾくデスね」

「コケケ」


 アレキサンダーの回りにペットたちが集まり、嬉しそうに挨拶を交わす。しかし、鳴き声が「ぽー」ってどうなんだろう?


 レンブンは「成る程、この様に生まれるのですね」と興味深そうにトレントを凝視している。小袋産だからアスミの弟か妹に当たる訳だが、木に性別はあるんかね。イチョウみたいに雄形、雌形とか明確な違いがあるなら分かるものだろう。

 というのもさっきから目前にウインドウが開いて『トレントをテイムしました。名前を付けてください』と表示されているからだ。

 ま、またネーミングかー!

 レンブンもいるから迂闊に安直な名前など付けられん。どどどどーするべー!


 考えに考えて1時間以上考えまくって捻り出した結果、トレントの名前は「ヤトノ」となった。所持スキルは「植物魔法」のみである。

 そしてこちらのスキルに【並列思考】というものが生えていた。

 ……苦悩すると生えるのかな?



 主人公のこれまでのステータス


 名前:ナナシ

 種族:稀人

 職業:ビギナーLv.49

 SP:5


 所有スキル:

 【拳豪Lv.28】【投擲Lv.51】

 【蹴撃Lv.47】【片手棍Lv.21】

 【致命攻撃】【反射】【闘気】

 【体術】【見切り】【威圧】【畏怖】

 【腕力強化】【知力強化】【脚力強化Ⅱ】

 【魔力強化】【MP増加】【魔法強化】

 【水属性強化】【防御力強化】

 【死霊術Lv.40】【暗黒術Lv.7】【幻魔法Lv.12】

 【水魔法Lv.14】【土魔法Lv.20】

 【無属性魔法Lv.15】【空間魔法Lv.1】

 【生活魔法】【大地魔術】【聖霊魔法・水】

 【看破Lv.43】【気配察知Lv.62】

 【忍び足Lv.16】【軽業Lv.80】【隠れるLv.28】

 【水泳】【潜水】【登攀】

 【追跡】【鷹目】【牧畜】

 【魔力視】【魔力感知】【魔力付与】 

 【魔力操作】【魔力制御】

 【裁縫術】【厨師Lv.2】

 【調合Lv.46】【大工Lv.32】【詩吟】

 【植物知識】【鉱物知識】【アイテム知識】

 【スライム会話】【並列思考】←new

 【劇毒耐性】【苦痛耐性】【睡眠耐性】

 【環境耐性】【麻痺耐性】【忍耐】

 【闇耐性】【魔耐性】【精神耐性】

 【暗視】【解体】

 ユニークスキル:【城落としLv.10】【幸運Ⅱ】


 称号:

 【後先考えぬ者】【死を垣間見た者】

 【草を食む者】【闇を統べる者】

 【強奪者】【殲滅者】【魔王軍四天王】

 【スライムの友】【アラクネの友】

 【料理人☆】【半魚人】【主夫】

 【ネッツアーの加護】【マルクトの祝福】【イェソドの加護】

 【ゲヴラーの祝福+】【ティーフェレースの加護】

 【聖霊の加護】

 【魔女見習い☆3】 【スフィンクスに認められし者】【魔王の話し相手】

 【ミノタウロススレイヤー】【甲殻スレイヤー】

 【プラントスレイヤー】【マリンスレイヤー】

 【アンデッドスレイヤー】


 ペット

 名前:アレキサンダー

 種族:エルダーレッドスライムLv.33

 所有スキル:【物理攻撃無効】【炎無効】【炎魔法】【形態変化】

       【インベントリ】【溶解】【罠発見】


 名前:シラヒメ

 種族:アラクネLv.33

 所有スキル:【糸精製】【糸射出】【かみつき】

       【空間機動】【裁縫師】【劇毒】


 名前:グリース

 種族:コカトリスLv.25

 所有スキル:【腐蝕の視線】【腐蝕毒】【腐蝕無効】

       【貫通攻撃】【格闘】


 名前:ツイナ

 種族:キマイラLv.33

 所有スキル:【雷魔法】【風魔法】【火魔法】【水魔法】【土魔法】【死霊術】

       【かみつき】【飛行】


 名前:アスミ

 種族:ケツァルコアトルLv.7

 所有スキル:【飛行】【水魔法】【風魔法】


 名前:ルレイ

 種族:シルキーLv.5

 所有スキル:【管理】【料理】【掃除】


 名前:ヤトノ

 種族:トレントLv.1

 所有スキル:【植物魔法】


 使い魔

 名前:ベウン

 種族:クマのぬいぐるみ

 所有スキル:【大工】【軽業】【料理】


 名前:ボウ

 種族:牛のぬいぐるみ

 所有スキル:【登攀】【調合】【植物知識】


 名前:ブラウ

 種族:羊のぬいぐるみ

 所有スキル:【植物知識】【料理】【牧畜】


 名前:バター

 種族:パンダのぬいぐるみ

 所有スキル:【登攀】【隠れる】【忍び足】


 名前:聖霊ちゃん(No name)

 種族:水の聖霊

 所有スキル:不明


 名前:アグリ

 種族:戦闘用ドール

 所有スキル:【片手混】(貸与)

 お読み頂きありがとうございます。

 「ヤトノ」の語源は「木=」から。

 ステータスについては手持ちのデータが古かったので再構成しました。

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― 新着の感想 ―
騒がれるやーつw
まさか神樹に進化してヤトノカミになるとか
名づけが一番の敵にみえてきたw
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