269 ヘイズダンジョンの話5
5階層へ行く前に中央の柱の所で休憩を入れることにした。
何でもこの周辺だけセーフエリアになってるらしい。魔法陣やエレベーターを出た瞬間に、敵とこんにちはしたんじゃ大変だからか。
これはダンジョンマスターなりの配慮でいいんだろーか?
何だか嵐絶側が凄い疲れた様子でぐったりしている。そんなに過酷な連戦ではなかったよな?
「お前のやりように呆れ果ててんだよ!!」
「は?」
「こんな矢継ぎ早に新情報が出てくるなんて、思ってもみませんでしたよ! ナナシさんは表に出てないだけでもっと沢山情報を秘匿しているのではないですか!?」
マイスさんの目が据わっている。穴が開くほど見詰められても、今のところドロップ品2個の情報しかないじゃん。何かオカシイのだろうか?
頭にクエスチョンマークを浮かべていると、「まあまあ」とレンブンが間に入ってきた。
「マイスさんはナナシさんのことをよーく知らないと思いますから、補足しましょう。恐らくナナシさんの中ではドロップ品2つ、それに関係するドール作成の構築、鑑定を弾くドロップ品の確定方法。当たり前すぎて取るに足らない話扱いとなっておりますね」
「……え、ええ……」
「参考までにナナシさん。貴方がこの中で情報だと思っていたのは何ですか?」
「え、ああ。ドロップ品2つだけだな。レアドロップだけど、何度もブッ倒せばそのうち出るh……「「「ええええええええええええっ!!?」」」、ず?」
驚愕の絶叫と共に崩れ落ちる嵐絶の面々。ジョンさんなんか疲労困憊とばかりに、大剣を支えに座り込んでいる。
「うーん。予想の斜め上より、考えが甘かったですね。だいぶ下方修正が必要でしたか……」
「情報を情報と認識してないんじゃあ、何を請求しても無駄なんじゃねえの。流石ナナシ」
「よし。ディスられてるのは分かった。ぶん殴ってやるから表へ出ろ」
「確実に死ぬわっ!?」
オールオールは抗議と同時にレンブンの後ろへ隠れる。レンブンはその様子に苦笑いだ。
「しかし【鑑定】を弾く?」
「先程の大剣は、【鑑定】スキルでは名前くらいしか分かりませんでしたので」
「ナナシの方はああいったものをどーやって識別してるんだよ?」
「俺は俺で別のスキルを使ってるけど。詳細は有料コンテンツになってるぞ」
「ここまで言いかけて金を取るんかーい!」
「いや、マイスさんとルビーさんがそうしろと言うからだが」
ただ単にイビスの図書館に行って、蔵書を10冊程読み込めばいいだけなんだが。情報料だって1万Gだけだし。
俺の発言に思い当たったのか、マイスさんも「ああ、あの」と呟いていた。覚えていてくれて何よりですよ。
そこへシラヒメが、焦った様子で声を掛けてきた。
「おトウサま、タイヘんデス!」
ぶるぶるぶるぶる
足元にすり寄ってきたアレキサンダーも、小刻みに震えて何かを訴えてきている。
「何だ、どうした?」
「アグリガ……」
「アグリが?」
心配そうな声を漏らすシラヒメに促されて後ろを振り返ると、グリースとツイナに挟まれたアグリの手から獄卒の棍棒が落ちた。掴んでいた手指ごと。
「アグリ!?」
慌てて駆け寄ったが、アグリの鎧の色があっという間に真っ白となり、全身にヒビが入った後に粉々になって崩れ落ちた。
細かい鉄屑となった鎧の欠片の中から、ドールコアだけがころころと転がり出てくる。
「コ、コケ」
「ちー……」
「ぴゃぁ……」
「ぐるぅ」「メェェ」
ふるふるふる
「おトウサま、アグリは……」
「……アグリ」
「あー、ちょっといいか、ナナシ? 悲しむ必要はないと思うぜ」
「え?」
ペットたちと悲しみに暮れていたら、鎧の欠片を拾ったオールオールがそれを観察しながら、呆れたように呟く。
「これは鎧の耐久度が限界を越えたから、自壊したんだろうよ」
「……はぁ!?」
「そういえばアグリさんは攻撃一辺倒で、回避も防御もしてませんでしたね。確かに敵の攻撃に常に身を晒し続けていれば、どんな強固な鎧だとしてもいずれ壊れていたんじゃないでしょうか?」
レンブンの意見に成る程と頷いた。
攻撃スキルしか貸与してなかったから、ダメージを受け続けるしかなかったのか。そりゃ壊れる訳だわ。
とは言え、俺は回避スキルなんか持ってないし、防御もほぼ称号の効果でしかないからなー。SPに余剰もないから取得する訳にもいかねーな。どうするべ?
「これなら交換可能なボディを幾つか作っといて、壊れる度に乗り替えて行きゃいいんじゃないか?」
「おお! 成る程! 流石オールオール! 生産職なだけある!」
「悪かったな! 戦闘の役に立たなくって!」
「いえ、この場合は戦闘の役に立つ助言ではないでしょうか」
「言葉遊びはいいんだよ。問題は鎧の入手先だろ。ナナシは親しい鍛冶職のプレイヤーとか居んのか?」
「うーん。居なくもないが、今は何処に居るのかも分からないな。インフィニティハートの生産職なら手を貸してくれるかもしれないが、クランを作ってしまった今ではあんまり期待出来ん」
「親しいのは前に紹介したゲンドウでしょうか? 多分今は砂漠のオアシスに居るとは思いますね」
砂漠となると、また来た道を戻らないと駄目だな。
それにあそこは試験的襲撃予定地だから、頻繁に顔を合わせる奴がいるとやり辛くなる。
「鍛冶はともかく、硬い材料なら心当たりがある。鎧なんぞ自作すれば良いだけだしな」
「鍛冶が出来なくても自作は出来る? 何する気だ?」
「とりあえず作ってみないことにはどうしようもない。出来上がったら報告する。それよりもオールオールの方はどうだ? 本職はどうにかなりそうか?」
ここから先はクラン会話に切り替える。
【聞き耳】スキルを持ってる人が嵐絶側に居ないとも限らないしな。
「そっちはもう確認済みだ。ここのダンジョンにマスターは居ねえ」
「入ってもいないのによく分かりますね。ダンジョンマスター的なコツってやつでしょうか?」
「ならどうする? 適当な目眩ましを装って、死に戻った風に演出するか?」
「いや、ナナシが居ながら俺1人を守れなかったというのは醜聞になりかねん。嵐絶もいるから人の目が多い。また後日に塔の外壁にでも連れてきて貰えれば潜り込むさ」
「なら話はまた後だな」
「ええ、そうしましょう。それに5階層はそれなりに厳しいですが、ナナシさんがいればどうにでもなると思いますね。すぐ終わらせて今後の予定を練りましょう」
レンブンが早口で話を終わりにする。
ジョンさんが「おーい、ナナシ一行そろそろ行くぞー!」と声を掛けてきたからだ。
「そういやーお前んトコのクラン何て名前なんだ?」
「リンクした時に確認しませんでしたか?」
「そんなとこまで見てねーよ。ビギナーさんがクラン作ったってだけで大事件だぞ大事件!」
「何で大事件なんだよ……。いえ、分かりました。衝撃過ぎてそこまで見なかった、と?」
「おうよ!」
胸を張って自慢気なジョンさんである。
「ちゃんと見て確認してください」とそっけない態度であしらったのだが、後々でマイスさんに耳打ちされて「ぶはっ!?」と吹き出していた。
笑うところだったんだろうか?
5階層の中ボスはリッチ率いるスケルトンの軍隊だそうで、階層のセーフエリア前にずらりと並んで臨戦態勢であった。
レンブンの話によるとスケルトンの兵士は300体程いて、壊される端からリッチがどんどん召喚するからキリがないらしい。
ただ、
「アグリの弔い合戦だー! 者共存分にやれーっ!」と鼓舞したところ、怒り狂ったペットたちによってあっという間に駆逐された。
腐蝕の風、ハリケーン、高波、轟雷撃、火災旋風、剣山に埋め尽くされる視界、エトセトラ、エトセトラ……。
焼け野原となった5階層を呆然と見詰める嵐絶の面々が印象的だった。
「アグリは別に亡くなった訳ではない筈ですが……」
「勢いって大事だよなあ」
「俺もまさかこんなんなるとは思わなかった。魔法すげー」
「何でペットの主人が感心してんだよ。おかしいだろーが」
「しかしアレキサンダーたちでクリア出来るのに、プレイヤーがクリア出来なかったのはなんでだろうな?」
「目をかっぽじってあの惨状をよく見ろ! お前のペット集団が他のプレイヤーと同一だと言えんのか!? 見ての通り火力が違いすぎるわ!」
「と言いますか、使っている魔法が同じ魔法と思えないのですけれど? ツイナさんの使用した【雷魔法】は全然真似できません。一体レベルが幾つになればあれが使えるのやら……」
レンブンが考え込んでしまった。
レベル幾つとか、ペットたちのスキルには表示されてないからなあ。俺からは何とも言えんなー。
アグリにしても俺の性格の何をコピーしているのか、イマイチ分かっていない。ふわっとした「大雑把」「適当」などを模倣してるにしては、戦闘中の取捨択一行動がズバ抜けているから性格だけとは思えない。
戦闘パターンを模倣していると言われた方がしっくり来る。
ドロップ品の分配が終わった後、ジョンさんたち嵐絶は6階層に進んでみるそうだ。
なので今回はここで解散となる。
「お前らも来てくれると攻略が楽になると思ったんだが、元々は5階層までという話だったからな。無理強いは止めておこう」
「ありがとうございます。それはそれとして、俺たちもそれに乗っかった別の目的がありましてね。詳細は話せませんが」
「ナナシは秘匿事項多すぎだろ。ったく、また次の機会があれば付き合ってくれ」
「はい。その時はパワーアップしたアグリを連れてきますよ」
「「「まだ強くなるのかよっ!?」」」
全員に突っ込みを入れられた。その後に爆笑してたけど。
別れが笑顔になるのはいいことだよな。
嵐絶が魔法陣に消えると、この階層にいるのが俺たちだけになる。
リッチがリポップしないと敵になる者がいないのかは分からないが、この近辺は静かなものだ。
「よし、この機会にオールオールはダンジョンを掌握するんだ!」
「いえ、何か不測の事態があって嵐絶さんたちが戻ってこないとも限りません。念のため、2階層までは降りておきましょう」
「おおう、成る程。レンブンの言うことも一理あるな。そうするか」
2階層に降りるとオールオールは「じゃ、ちょっと行って来るぜ」と、中央の柱の裏側をパカッと開いた。
「そんなとこに入り口があったんかい……」
「盲点ですよねえ」
「盲点かな? ああちょっと待てオールオール!」
「なんだ?」
扉の中に消えようとしていたオールオールを呼び止めて、インベントリから取り出した金袋を渡す。
中身は一枚10万Gに相当する白金貨が50枚。つまりは500万Gである。
ついでに同じ金額をレンブンにも譲渡する。
「ええと、これは……?」
「何でいきなりこんな高額を渡して来るんだ!?」
レンブンは困惑で、オールオールはビビっている。
給料とかそういう理由で渡した訳じゃないんだが、必要経費のつもりだ。
「クランハウスのマイルームに必要最低限の家具もないからな。それで適当に揃えてくれ。ルレイに言っておけば家具屋や小物屋なりを呼んでもらえると思う」
「ああ、そういった用途に使えということですね。分かりました」
「いきなり見たこともない金額を渡されると焦るしかないんだが。全部使っちまって良いのか?」
「足りなかったら言ってくれれば、追加でもう500万くらい出すぞ」
「家具ってそんな高いのかっ!? 滅茶苦茶怖いぞ……」
「ただ単にあの街の相場が分からないんだよな。シェルバサルバに言えば色々融通してくれるとは思うんだが。2人共まだ面通しはしてないから、そのうち機会を設けるべきだよな」
「しぇ、……しるばっさ? 誰だよ?」
「シェルバサルバ。しいて言うなら俺の上司か」
「上司っ!? お前、一体全体何の組織に所属してるんだ?」
「一体どのような関係なのかよく分かりませんが、詳細はその時に説明して頂けるんでしょうか?」
「ああ、まあ詳細も話していいものか、お伺いを立ててからだけどな。今度聞いておこう」
お読み頂きありがとうございます。
会話だらけですが、会話をするという文章が一番頭を使うと思います。




