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174 ずんばらりんな話

 サブタイトルが思いつかなかったんです。

「なんで櫻姉さんがこんな所にいるのさ?」

「軍の施設で教導中だったのよ。そしたら緊急出動要請がでて……、」

「勘にしたがって同行したとか?」

「さすが大気。良く分かってるじゃなーい」

 満面の笑みで俺の頭をわしわしと撫でる姉さん。人の往来がある中だと、恥ずかしいので止めて頂きたい。


 こはるさんは櫻姉さんが腰に差している物を見て、目を丸くしている。

 さっき抜きかけていたからな。ただの白木の棒じゃないとわかったんだろう。

「か、かたなっ!?」

「うん。そうだけど」

 対する姉さんはあっけらかんと、肯定する。

 こはるさんは周囲を見渡し、誰もこの会話に反応しないのを確認して、目を見張った。

 うん? どした?


「じゅ、銃刀法違反じゃないですか!」

「じゅうとうほう?」

「いはん?」

 首を捻る俺たちに対して、こはるさんは再びポイの背をバシバシと叩く。

「個人が銃や刀とかの殺傷武器を持つことは法律で禁じられている筈です!」

「なにそれ。聞いたことないわねえ」

「俺だって持ってるぞ」

 取り出したのは柄だけのセイバーと、ハンドガンだ。

 ハンドガンは文庫本1冊サイズで、折り曲げて開くと長さ20cmくらいの銃身を持つ銃になる。弾が6発しかないんだが、厚さ1cmくらいの装甲なら撃ち抜くことが可能だ。

 一応、軍の支給品なので、使ったら報告書を上げる必要がある。


 櫻姉さんが柄を見て溜め息をこぼす。

「大気ねえ、エネルギー系の武器は止めておきなさいと言ったでしょ。パックの電力切れたら終わっちゃうじゃない」

「着の身着のままで戦場に突入する姉さんと比較しないでくれ! 俺にはこれで十分なの!」

 戦車を斬っても刃零れしない刀ってなんなんだよ?

 理不尽の固まりでしかないわ!


「そうそう、大気は怪しい人たちと何やら揉めてるんでしょ。そっちは大丈夫なの?」

「揉めるっていうか、こはるさんが誘拐されそうだったから割り込んだ? そっから逃げたから後は知らん」

 どうやら櫻姉さんは教導中だった軍の部隊と、ポイの通報によって現場に到着。ひっくり返っている車しか残されていなかったので、周辺にある監視カメラより現場の映像を入手したと。

 俺の大立回りを見て、部隊の方は逃走した車の追跡を開始し、櫻姉さんは俺の跡を追ってきたということだ。


「身内が巻き込まれてたから、そっちを優先することにしたの」

 櫻姉さんが一緒なら、こんな繁華街に逃げ込む必要はなくなるなあ。

「それに大気がこういうのに巻き込まれると、周囲の被害が馬鹿にならないって龍樹が嘆いてたし」

 監視ですかそーですか。わかりました、どーにでもしてください。

 ソースは龍樹姉かよ。

 人を器物破損魔人みたいな扱いにすんのを、いい加減止めてくれないかなあ。

 俺が街を破壊したんじゃないんだ。俺を追いかけてきた奴らが破壊活動に積極的だったんだよぅ。


「さて、こはるさんは何処へ連れて行ったもんかなあ?」

「この場合は行き先決まってるでしょ」

「うち、……か?」

「違うわよ。統制機構よ。うちにあんな連中を引っ張っていったら大変よ。防衛設備がフル稼働で極地的大破壊になるわ」

「なにそれ! 初耳なんだけど!?」

「あれ、母さんに聞いてないの? 大気に言ったらまずかったかしら……」

 積層形住宅の何処にそんな設備があるんじゃい。

 実は周囲の緑地公園から決戦兵器や砲塔がせり上がってきて、『全兵装全力攻撃コンバットフルオープン』とか普通にありそうだ。……ないよな?

 悪役の女幹部好きの母親だしなあ。カッコいいもの好きだし、形から入るからなあ。そんなもの揃えていそう……。

 恐る恐る姉さんの顔色を窺うと、処置なしとでも言うように首を振っていた。

 あぶねえ。家に連れていかなくてよかった……。


「最寄りの端末よりは直接本部まで連れていきましょ」

 姉さんは自分の端末にピピピピピと、何かを打ち込み始める。

「援軍要請?」

「違うわ。椿に車を回して貰うように頼んでおいたから、忙しくてもすぐ手配してくれるでしょ」

「えーと、椿さんが忙しかったら?」 

「その時は昔のあんなことやこんなことが日の目を見ることになるでしょうから、快くよく手配してくれるわ」

 ……椿さん。

 いったいどんだけ櫻姉さんに弱味を握られてんだよ。

 そのことを「脅迫じゃね?」と指摘しても「善意(情報のロックが掛かっているトリガーが外れないように監視する)の押し売り(トリガーキーを売り払わない口約束の)よ」といけしゃあしゃあと言いかねない。

 椿さん、強く生きてくれ……。


「まったく暇な人たちねえ」

 繁華街を抜けたところには、真っ黒い3台の車が道路を塞ぐように止めてあった。

 そして黒服サングラスの屈強な男たちが10人くらい、鼻息荒く待機していた。

 警備部の連中の姿が見えないところを察するに、囮の方にも充分な人員が回せる組織なのかな。

「ようやく現れてくれましたね」

 代表で口を開いたのは1人だけスーツ姿の男だった。20代後半くらいか、なんか自信満々な態度が腹立つな。


 相対は姉さんがするというので、俺はポイの背に乗るこはるさんの護衛に集中する。

 こはるさんは黒服たちを視界に入れた瞬間から、発汗が増えていて呼吸もかなり荒くなっている。

 精神的に不安定になっているな。あいつらになんかされたと考えるべきか?


「女の子1人拐うような布陣とは思えないわね。ずいぶんと用意周到じゃないかしら?」

「女の子? これはこれは。何か勘違いされているようですね。それは我が社の備品であり、私どもはそれを捜索していただけなのですよ」

「っ!?」

 人の姿をしていて、備品(もの)扱いのカテゴリーに入るのはバイオロイドだ。このこはるさんは人類ではないということになるが、それにしては色々とおかしい。

 姉さんは視線で俺に前に出るなといってから、スーツ姿の男ににこやかに対応する。


「あら、それにしては登録コードを持ってないみたいだけど。それに出荷前の商品が自我を持っているのも、規制法違反じゃないかしら?」

 バイオロイドは製造した時点で、首元と手の甲にバーコードをプリントする決まりになっている。

 見れば分かるが、こはるさんにはそういったものがいっさい見られない。

 バイオロイドはほとんどオーダーメイドの1品物が多いので、性格(・・)は客に引き渡される時にインストールされることになっている筈だ。

 自我を持っているなんて判明すれば、それはもう完全に違法製造物でしかない。

「チッ! 過ぎたる好奇心は身を滅ぼしますよ!」

 舌打ちをした男がそういうからには、全て承知の上かよ。

 黒服たちが前に出て懐に手を突っ込む。

 たぶんもう遅いと思うけど、俺が何かできるもんかね?


 くすくすと笑っている櫻姉さんにスーツ姿の男が、訝しげな目を向ける。

「何がおかしいのです?」

「よく知らないって可哀想だねって」

「な、何が?」

「私たちはね。統合統制機構の関係者なの」

 姉さんがそう言うと、スーツ姿の男のみならず、黒服たちの顔色も一気に青褪める。

「こっ殺せえっ! ここで今すぐに皆殺しにしっ……」

「それにもう全部斬っちゃったわ」

 スーツ姿の男が焦ったように喚く。

 が、姉さんが告げた途端に、並んでいた3台の車が元は細切れのパーツだったことを思い出したように、ガラガラガシャアアァァンと崩れていった。

 細切れにされた金属の切れっ端が、3つの小山を作り出す。

 ついでにぼとぼとぼとっと、黒服たちの両腕が肩から断ち切られて地面に落ちた。

「「「ひっひいいいいいぃぃぃぃーーっ!!??」」」

 それを理解した黒服たちは一斉に悲鳴を上げて走り回ったり、蹲ったり、腕を拾おうと無駄な動きを繰り返したりと忙しそうだ。

 スーツの男なんか、ダルマになってんじゃん。泡噴いてるし。

 血が出てないのもあるからなあ。

 姉さんが本気で斬ると、細胞が切られたことを認識しないから人は死なないとかなんとか。

 本当かどうかは知らんけど。

 抜く手も見えないとか、姉さん実はマジで頭に来てたんだなあ……。


 この後、大量の救護車両と共に椿さんの運転する車が到着した。

「うわあ、阿鼻叫喚の地獄絵図……」

「あら椿。用意がいいわね」

 この光景を見て呆れた表情で済ませる椿さんは、ある意味慣れてるんだろーな。

 こはるさんは気絶しているのに。

「櫻が私を呼び出すなんて相当なことでしょう。死人が出てないだけましな場面よね」

「あなたも逞しくなったわねえ」

「誰のせいだと思ってんのよ!」

 俺は椿さんの苦労を思い、そっと涙した。

  未だに編集作業中なので更新速度は亀の如く。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲームそっちのけ
[一言] 知りたすぎる好奇心は ⇒過ぎたる好奇心 知りたがりすぎるとでも可
[一言] 達人過ぎだろう櫻さん。 そして10ミリの装甲抜く折り畳み銃は凄いな。 装甲が十ミリあればアサルトライフルの徹甲弾すら止まるんですけどね。光学兵器恐るべし
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