175 窮屈な話
編集の方はめどがついたので再開します。
未だリアル回続行中です。
その後に警備部が到着し、現場を片付けるのを手伝った。
黒服たちを救護車両に叩き込んだりしていたら夕方になってしまったので、こはるさんを櫻姉さんと椿さんに任せて家に帰った。
夕食の当番じゃない日でよかったなあ。
家に帰ったら珍しく母親が料理をしていた。その後ろでハラハラしながら見守る翠の姿がある。
「なにやってんだ?」
「あ、兄さんお帰り。母さんが料理してると、心配で心配で」
小さい体をフルに使って動き回っているからなあ。その心配は分からんでもないが……。
「俺たちより旨いもの作るから大丈夫だろ」
「それはそうなんだけど……」
歯切れの悪い翠はその場に残す。存分に心配してくれ。
「あれえ?」
「おう、お帰り」
リビングには上着を脱いでネクタイを緩めた牙兄貴が、酒をちびりちびりと飲んでいた。
「ああ、なんかあったのか」
母親が飯の支度をしている時点でおかしいと思った。牙兄貴が酒飲んでるところから察するに、ずいぶんと早いうち帰ってきてたようだ。
たぶん、俺がランニングに行くのと入れ替わりに。
「おう。不正アクセスの報告があってな。ゲームの方は一旦停止させて、回線の方を徹底的に洗ってる」
「責任者が離れてていーのか?」
「回線関係は邦黎ジジイの担当だ。今頃あっちの部署は戦場だろーよ」
「叔父さんまで参加してたのかーい!」
邦黎叔父は母親の血縁らしいんだが、それが上なのか下なのか当人にもはっきりしないらしい。なんぞそれ。
一応本人から叔父呼びでいいと言われているので、俺や翠はそう呼んでいる。
16歳以下に間違えられる母親より、見た目50代のハゲかけたおっさんが年下って、どういうことなの?
よく「閑職だから暇なもんさ」と笑いながら、なんでもないように言ってたんで気にしてなかったが。ゲームのプロジェクトチームに入れられてたんか。
暇ならといって、押し付けられたんじゃないかなあ。誰の采配だよ。
道理で最近姿を見ないと思った。
「どうしたの?」と翠がサラダを盛った皿を運んできたところで、会話を中断させる。
そこからキッチンとリビングを行き来して、料理の皿を運ぶ。
夕食が始まってからは、舌を唸らせる料理に集中した。母親の料理は同じ工程でも、ゲームみたいに旨味50%くらい加算されていると思う。
「は、え? 帰りが遅かったって? 別に遠いところを回って来たわけじゃないんだけど。トラブルに巻き込まれてなあ」
夕食後の片付けを終えてまったりしていると、遅くなったことを母親に指摘された。
まあ、口止めはされてないんで喋っても大丈夫か。
かくかくしかじかと、ランニング中にあったことを話す。
翠に「またですか」みたいな呆れた顔をされた。
「なんだよう。今回は俺が発端じゃないぞ。黒服連中が悪いんだ」
翠に弁解してみるが、「へー。ふーん。そーですかー」と取り合ってくれん。
えーと。まず誘拐犯だと思って、それを妨害するために車を蹴り飛ばし。ポイがレーザー撃って、俺が1人を無力化したくらいだよなあ。
その後は、櫻姉さんがバラバラにしたくらいだから、俺は関与してねえ。
「櫻がマジ切れするとか尋常じゃないな。そいつら細切れにされていても文句は言えないぞ」
牙兄貴は笑いごとじゃねーって。車は細切れにされてたけどな。
母親は何かを考えていて、端末から何処かへ連絡をして頷いていた。
「え、母さん今から出掛けるの? 本部に行くって?」
会話を終わらせた母親は、立ち上がって一旦部屋に引っ込んだ。戻ってきたらスーツ姿に着替えている。今から本部に行くらしい。
うちは本部と言ってるが、正しくは統合統制機構の本部ビルのことだ。
みんなで外まで見送りにいくと、積層形住宅の前にスーとながーい黒塗りの車が滑り込む。
「行ってらっしゃい。母さん気を付けてね」
「おー、いってら」
「行ってらっしゃい」
母さんが行くとなると、椿さんも駆り出されるのかなあ。
車のドアが閉まる直前に、俺の端末へ櫻姉さんから連絡があった。
「え? 俺も必要なの?」
『こはるさんのことでね。とりあえず顔見知りの範疇内じゃない、大気は』
「へーい。了解」
という訳で急遽、俺も母親と一緒に行くことになった。
「兄さんも行くんですか……。明日になったら本部が半壊してるかもしれませんね」
「しみじみと語るな!」
酷い言われようだ。例え義妹と言えど、冤罪で訴えるぞ。
本部に着くまでの車内は静かだった。本当に走っているのかこの車? 静音過ぎてリニアカーみたいだぞ。
母親は端末から透過ウィンドウを幾つも開いて、何かをやっている。
横から覗き込んでも怒られなかったけど、全画面が物凄いスピードで文字が流れているので、何をやっているのか全然分からん。
母親と目が合うと、にっこり笑って俺の頭を撫でてからまた作業に戻ってしまった。
いや、「ちょっと難しいかな」じゃないでしょ。ちょっとどころのレベルじゃないって!
本部に着くと正門前に櫻姉さんと椿さんが待っていた。姉さんは平然とした様子だけど、椿さんは肩で息してて髪はボロボロな状態だった。
なにしてたのさ?
「や、母さん、大気、こんばんは」
「お疲れ様です、大気くん。総帥、夜遅くご足労をおかけします」
母親は車から降りて、椿さんの腰をポンポンと叩くとビルの中へ颯爽と入っていった。慌ててその後を追う椿さん。
「あれで秘書じゃないっていってるんだから、世の中は分からない……」
「椿の場合は母さんが気に入って、無理矢理引っ張って来ちゃったからねえ。色々あるのよ」
2人の背を見送って呟くと、姉さんが意味深なことを返してきた。それって椿さんはここに就職したわけじゃねーのか。
「じゃあ大気はこっちね」
と言われて連れていかれたのは研究部だった。隔壁を二つくらい通った先の。
途中で合流した研究員の人に通された部屋では、ベッドに座って退屈そうなこはるさんがいた。
「こんばんは~」
「あっ、君はさっきの!」
人を指差してはいけないと親に教わらなかったのか?
「どうですか。少しは落ち着きましたか?」
「ここが何処だか分からないのに落ち着ける訳ないじゃない! それにここに来てから「検体」としか呼ばれないのよ! そんなんで落ち着いていられますか!」
こはるさんは無茶苦茶機嫌が悪かった。
横で聞いていた櫻姉さんを見ると、くすくすと笑っている。
「さっきからずーっとこの調子なのよねえ。よくエナジーが持つと思うわ」
「つーか、バイオロイドだったのか?」
「そーみたいよ。ほら」
壁の機器に張り付いていた研究員に姉さんが促すと、俺の前に透過ウィンドウが飛んでくる。
そこにはこはるさんボディの骨格分析や、常人との筋肉量の比較データがならんでいた。
一見12歳児のように見えるが、パワーだけなら大人2人分くらいあるという証明だ。
握力80以上とか絶対に子供じゃない。
「こはるさんには窮屈だと思うけど、登録されてないバイオロイドが単体で外を歩くとか、処分案件ですよ」
「さっきから聞いてるけど、そのバイオロイドってなんなのよっ!」
バイオロイドが自分を知らない方が問題あるんだが。
それとも人格形成時に、基礎知識にバグ入ってたとかか?
「あー、と。大気、ちょっといい?」
「はい」
櫻姉さんは俺の腕を引いて部屋の隅へと促した。
「よく聞いてね。各種の診断や精神鑑定の結果なんだけど。彼女はバイオロイドの体に、人の意識が入ったものらしいわ」
「Why?」
なんだそれは。
違法どころの話じゃないだろう。禁忌の分類になる研究じゃねえか。
あの黒服たちの雇い主、やらかしたな。
「そっちはもう龍樹ちゃんのチームがぶっ飛ばしに行ったわね」
あ、そうですか。
龍樹姉のチームが動くとか、滅茶苦茶大事じゃないですかね。テロ組織壊滅以来じゃないかなあ。
ビルが倒壊してるかもしれないこと確定ですか。その会社終わったな。
カクヨムの方でまたちょこちょこ始めました。
こちらもノンビリ更新です。




