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157 情報収集の話


「ぶっ」

 ゲーム内で目を開けたら灰色の羽毛に埋もれていた。

「コケケ」

「グリース、ちょっとどいてくれ」

 頭というか、額に乗っていたグリースを横にどける。

 ぽよよん。

「おハヨウござイマス、おトウサマ」

「がう」「メェ」

「はい、おはよう。おはよう。何か変わったことは?」


 腹の上にはアレキサンダー。

 天井にはシラヒメが張り付いていた。

 ツイナはベッドの横で寝そべっていたけど、ベッドよりデカい図体がでろーんと。

 インベントリからベウンを取り出して、上に放り投げる。

 ベウンは空中で足をバタつかせてバランスを整えると、体を捻ってからアレキサンダーに頭から着地した。

 アレキサンダーはその着地地点を凹ませて、バネのように跳ね飛ばす。ベウンは再び宙を舞い、天井で待っていたシラヒメの腕の中へ収まった。


 ベッドから抜け出した俺は、インナー姿からいつもの装備へと変わる。

 ステータス画面からの装備装着による、一瞬の早着替えだ。

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら、体を擦り付けてくるツイナの双頭を撫でてやる。

 ぽよよんふるふるぽよよん。

「ふむふむ。なるほど」

 アレキサンダーがいうには、特に変わったことはないそうだ。

 アップデートはペットに関する項目は無かったみたいだな。

 そして俺のスキルには【スライム会話】という、わけの分からんものが増えていた。

 スライムとの意思疎通を可能にするスキルだそうな。アレキサンダー以外には意味なくね?

 

 この宿での食事は、人間は食堂で。ペットや従魔は厩舎の方に用意されるとのことだ。

 大型種でも出入り可能な窓から、ツイナがグリースを乗せて飛び出していく。シラヒメはアレキサンダーを乗せて壁を歩いていった。

 横向きでも落ちないアレキサンダーも大概だよな……。


 何故か残ったベウンを引き連れて、俺は食堂へ向かう。

 ベウンはするすると俺を登り、右肩に掴まって垂れ下がる。


 食堂にはすでに大勢の人たちでいっぱいだった。

 俺を見て、肩のベウンを見て「あ!?」って顔で視線を反らすのはプレイヤーだな。

 空いている席に着いて、注文を取りに来た従業員の人に部屋の鍵を見せれば、宿泊客用の定食が運ばれて来た。

 一応1週間で取ってあるからな。場合によっては延長もあるか。


 メニューは洋風。

 薄い味付けの肉料理とパン、サラダにスープ。味付けに失敗しなければ再現可能かもしれないな。

 1つ1つ味わいながら食っていると、隣のテーブルに座っていた男2人組が話しかけてきた。

 鎧の類いは身に着けていないので、一般客か商人か。


「よう兄さんは冒険者かい?」

「おっと、そう警戒する視線を向けないでくれよ。怪しい者じゃないぜ」

 片方がそう言えば2人してギルド証を提示してきた。材質がミスリルなんで、商業ギルドか。

 冒険者ギルドの方はランクごとに材質が木から銅、鉄と変わっていくようだ。これは翠に見せてもらったものまででしかないが。

「ご同輩だな」

 俺も商業ギルド証を出して2人に提示する。

「おや、兄さんも商人なのかい?」

「その身なりでか?」

「別に商売をするばかりが商人じゃないだろ」

 利用のほとんどが金を預けるか、競売窓口としか使っていないからなあ。

 水を飲み干して食事を終了する。

「用があるなら表で聞くぜ。待たせている奴らがいるんでな」


 食事が終わったら宿の前で集合と、アレキサンダーたちには言っておいたからな。窓の外にはツイナの羽根がチラチラ見えている。

 鍵をカウンターにいた従業員に渡して割り符を貰う。これを無くすと、今晩ここには泊まれなくなる。

 表に出ると、通行人の視線を浴びまくりの4体が大人しく待っていた。


 ベウンをシラヒメに渡し、それぞれを撫でていると、後ろで「うおおっ!?」と驚く声がする。

 振り向くと先程の男2人が、出入り口で目を丸くしていた。

「キマイラを含めた4匹のペット連れ……。なるほど、アンタがあの有名な『ビギナーさん』って人物か」

「えっ!? こい……、この人がっ!」

 片方が訳知り顔で頷けば、片方はこっちを指差そうとして慌てて腕を引っ込める。

 なんだか俺の知らないところで、住民に名前が売れているようだ。住民に何かした記憶はないんだけどな。

「ぐるるる」「メエェ」

「ひえっ!?」

 ツイナが唸りながら1歩を踏み出せば、腕を引っ込めた男が悲鳴を上げた。

 アレキサンダーが前に出てふるふると体を揺らせば、ツイナはしゅんとなってシラヒメの後ろに下がっていった。

 今のは「主に恥をかかす気か。メッ!」という意味だ。分かる自分にすげえ納得がいかない……。


 とりあえず通行人の邪魔にならないように、宿の厩舎側の出入り口付近に移動する。

「それで用件はなんだ?」

「あ、ああ。実は獲ってきて欲しい資材があって、それを個人的に頼もうと思っていたんだが、貴方があの『ビギナーさん』なら諦めるよ」

「……は?」

 食事時とは違い随分と萎縮してしまっている。ツイナに唸られた方なんかは、顔が真っ青だ。

「いやいやちょっと待て! いったいなんだってそんなに怯えられてるのかがよく分からないんだが。俺は住民(あんたたち)に危害加えた覚えはないぞ」

「え?」

「だ、だが手を出されると怒り狂ったレッドカウのように、相手をボコボコにするんだろう?」

「住民に手を出された覚えもなければ、こちらからそんなことをした覚えもないっ! 誰だそんなこと言った奴ァ!」

「い、いや、し、知りあいの異方人が……」

 俺は男の肩をがっしりと掴んで笑みを向けた。笑えているはずだ、たぶん。

「その異方人の名前を教えて貰おうか?」

「は、はひっ」

 別に君に害を及ぼすワケではないので、そんなに怯えないで欲しい。

 聞き出した名前は俺の知人ではないようだ。

「フェツェルね。覚えておこう」

 見つけたら流言飛語のお礼に文字通りボッコボコにしてやる。泣いて謝っても許してやるものか!


 それはともかく彼らが俺に頼みたかったこととは、魔の森で採れる資材をなるべく多く商業ギルドに流して欲しい、というものだった。

「資材?」

「毛皮や材木だな。商業ギルドはいつも不足してるのさ」

「あんたら異方人は、毛皮とかを自分たちで使う分に回しちまって、外に出るのは数少なくてなあ」

「ああ」

 自分たちの防具に使うからだな。その弊害がこんなところに及んでいるようだ、


「こりゃあ先にギルド行って、不足してるもんの一覧表を確認してきた方がいいか」

「やってくれるのか!?」

「こちらで出来る限りでしかないぞ。俺も魔の森に入るのは初めてなんだ」

 光明を得たとばかりに破顔する男2名。

 頼られるのはいいけど、あんまり嬉しくないシチュエーションかな。

「頼む頼む」みたいな拝み方をし始めたので、慌てて移動することにした。

 これ以上ビギナー教以外で、現人神みたいな扱いを受けたくないからなあ。


「アレキサンダー。先に商業ギルドだ」

 ぽよよん。

「そレデシタラ、こッチデス」

「コケ」

「がる」「メェ」

 シラヒメが先導するように歩いていく。アレキサンダーは「了解」と言って、俺の頭の上。グリースは横に付いて、未だにしゅんとしたままのツイナは最後尾だ。

「こっち?」

「おトウサマガ、ねテイルアイダニ、まチノチリハ、しラベテオキマシタ」

「はぁ?」

 いつの間にかシラヒメが自由行動して色々やっていたようだ。主人の元を離れて行動が可能とか、充分仕様が変わってるじゃねーか。

 ペット側にその意識がなければ確かに「異常なし」とはいえるな……。


 商業ギルドでギルド証を提示して、不足している資材一覧表を出して貰う。

 手数料として1000G取られたが、資料は貰えた。

 あとはお金を預けて、猫耳を1つ競売に出してもらう。

 売却金額から手数料が引かれる旨を説明され、書類を書いて契約をしておく。

 以前にヘーロンで出した物の売却金もこちらで受け取れるというので、貯金に加えてもらった。


 それで手持ちで燻っていた毛皮や甲殻を放出することにする。

 売却カウンターにレドルフの毛皮を山にすると、担当の係員が目を丸くしていた。

 一覧表の中にもあったからな。魔の森にもレドルフいるんだな。


 高額なのはマンイータースネークという魔物の皮だ。人を飲み込むくらいには巨大な蛇らしい。

 サンダーレインディアという魔物の角と毛皮も中々に高い。

 角のデカい鹿らしく、雷撃を飛ばしてくるのだとか。

 こういう情報を事前に得られると、対処がしやすくていいな。

 木とか薬草とか花とかもあるようだから、1つ1つ探してみるのも面白そうだ。

 一番の目的は米なんだけれども。

 レドルフの毛皮もそれなりに高くなったので良かったか。



 スキル【スライム語】を【スライム会話】に変更しました。

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― 新着の感想 ―
最新話まで読んでまた頭から読み返してます。 すごく好きな作品です フェツェル、やっちまったなぁ
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