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158 情報拡散の話

 おかしい、森の中に入れなかった……。

 ホースロドから魔の森へ入るには北門からか、東門を出て街道沿いの森に踏み込むかだという。

 一応南と西にも門はあるが、常時開けてられるほど兵に余裕はないそうだ。

 それだけ舐めてはいけない危険な場所だということだろう。

 あと冒険者でも、10人に1人は戻ってこないことがあるという。

 プレイヤーならともかく、住民は形見でも見付けられれば幸いらしい。


 ここまで北門にいた門番からの情報だ。

 俺の後ろに続くペットたちにギョッとしていたが、新顔だと知ると「気をつけていけよ」と色々教えてくれた。


 でだ。

 門の外にはこれから魔の森に踏み込もうというPTが、幾組かたむろっている。

 俺から目を反らすのはプレイヤーだとしても。


 その一角に30人くらいのプレイヤー集団が固まっていた。

 俺が近づく前からこっちに気付き、何人かは手を振って挨拶を飛ばしたりしてくる。

 そのうちに中から団長と副団長が顔を出してきた。

「おはようございます。ジョンさん、マイスさん」

「よう、ナナシ」

「こんにちは、ナナシさん」

 山賊の頭領みたいな大柄な男性が、ジョン・ドゥという嵐絶の団長。

 凛々しい女性騎士風な人が副団長のマイスさんだ。


 そして1拍遅れて飛び出してきたのは、ぽやんとした瞳の水色の髪のルビーさんである。

 嵐絶の書記という名の記録係兼会計らしい。

「お待ちしておりましたナナシさん!」

 何か約束ごとがあったかと記憶を遡っていると、ウィンドウの譲渡画面が開き随分な額のお金が乗せられた。

「あれ? 何か売りましたっけ」

「おいおい。お前から売ってもらった情報のお裾分けってヤツだよ。情報料の1割で妥当だろ」

 俺が疑問符を浮かべていると、ジョンさんが笑いながら理由を教えてくれた。

「ああ、水中戦の……」

「纏めて漁協の人たちに高く売れましたから。槍はまだ手に入れてないようですが」

 マイスさんがジョンさんの話を補足するように、付け加えた。

 漁協ってのは貴広が言っていた養殖に着手したというクランか?

 ルビーさんは目をキラキラさせながら「新しい情報があったりしますか?」と聞いてくる。


「新しい情報ねえ……」

 俺はインベントリから商業ギルドでもらった不足資材一覧表の紙を取り出して、ジョンさんたちの前で広げてみせた。

「……おいナナシ。なんだこれは?」

「商業ギルドで貰ってきた不足している資材一覧かな」

「わ、わあ! 聞いたことないモンスターの名前が載っていますねえ!」

「攻撃方法や生態も書いてありますね……」

 覗き込んだジョンさんが黙り、ルビーさんが飛び上がらんばかりに喜んでいる。

 マイスさんは難しい顔で頷くばかりだ。


 しばらくそれを眺めていた3人は顔を見合わせて頷くと、ジョンさんが代表して俺の肩をポンと叩いた。

「お前、値段交渉もなしにこんなんポンポン広げんじゃねー!」

「あだだだだっ!?」

 怒鳴りながらコメカミをグリグリと抉ってきた。痛いって!

 団員の人たちも笑ってないで助けてくれ!


「どうしますかね?」

「ちょっと扱いに困るわね」

「あーヤメヤメ! 悩むだけ無駄だ。放出してしまえ、今すぐに!」

 一方的な俺への制裁が終わると、情報の扱いについてはジョンさんの鶴の一声で決まったようだ。

「放出?」

 なんでも、魔の森にはただでさえプレイヤーが集まっているから、魔物に対する情報を隠していても誰かが得てしまえば、金にはならないそうだ。


「ナナシさん。今からこの情報を掲示板に出してしまいますが、よろしいですか」

「それはまあ、構いませんが。ただ住民に資材を回せとは書いといてください」

「それはソースがナナシだって言っとけば問題ないだろ」

 マイスさんとルビーさんが画面を開いて、物凄いスピードで資材の情報を打ち込んでいる。

 ニヤニヤしたジョンさんがやけに自信ありげだ。

 いつの間にか俺のアダ名がトンでもない強権になってやがる。


 おっと嵐絶が情報を扱ってるんなら、例のプレイヤーについて知ってるかもしれないな。

「ルビーさん」

「なんですか~?」

 物凄いキータッチを続けながら、ルビーさんは顔をあげる。

 ブラインドタッチでも問題ないんかい、そのスピード維持で。

「名前しか分からないプレイヤーを探してるんですが」

「ナナシさんにしては珍しい依頼ですねえ。情報料未払いかなにかですかぁ?」

 食い逃げならぬ、情報聞き逃げ犯と思われたようだ。

 今のところ、そういった姑息なプレイヤーにお目にかかったことはないが。

 例が出るくらいだからいるんだろうな。

「いえ、ぶっ飛ばす予定で……」

「「「「「は!?」」」」」

 その場で話を聞いていただけの嵐絶の人たちが、目を見開いて固まった。

 マイスさんもこっちを向いて唖然としてる。

 ルビーさんなんか真っ青になってあわあわしてるんだが。

 うむ、言い方が乱暴だったか?

「つまりそのプレイヤーを見つけ出して、ボコボコのメタメタのベショベショにしようかと……」

「「「「「言い直しても擬音が怖いっ!?!?」」」」」

 ぜ、全員に怯えられているだと?

 嵐絶を相手にする訳じゃないんだけどな。


「まあ待て」

 とジョンさんが嵐絶メンバーを落ち着かせ、こっちに振り向いた。

「尋ね人なら俺らより、プレイヤーに聞いた方がよっぽど早いぜ」

「え、でも掲示板じゃあ、特定のプレイヤー名を出すのはご法度なんだろう?」

「そんなの、噂に乗せちまえば、あってもなくても同じさ。とりあえず探す理由だけ聞かせろ」

「ああ、うん。さっき商業ギルドで……」

 俺はジョンさんに住民たちから聞いた一件を、包み隠さずうち明けた。


「ほう、なるほど」

「……なんで虎穴に入って虎の尾を踏むような真似をするのですか。馬鹿なのですか、その人は……」

「踏んだのは虎の尾じゃない気がしますけどねぇ~」

 ジョンさんは楽しそうな顔で頷いた。面白い説明だったか?

 俺とジョンさんを遠巻きにして近寄ってこない、マイスさんとルビーさんの呆然とした声が聞こえる。

「ナナシ。お前、金は100万とか出せんだろ?」

「ああ、うん。情報料で儲かっている」

「ならちょっと待ってろ」

 よく分からない確認と共に、ジョンさんは北門前に集まっているプレイヤーたちの方へ体を向けた。

 マイスさんたちは何かを察したように耳を塞いだ。

 ルビーさんにちょいちょいと身振り手振りで促され、俺も同じように耳を塞ぐ。


「プレイヤーの諸君!」


 隣で大音声を出したジョンさんに頭がぐわんと揺さぶられる。

 後で聞いたら、敵のヘイトを自分に集める【咆哮】というスキルだそうな。

 集まっていたプレイヤーたちは、目を丸くしてジョンさんを凝視している。


「ビギナーさんがあるプレイヤーを指名手配するそうだ!」


 こっちを凝視していた全部の視線が、ジョンさんから横につーと移動して、俺に集まった。


「そいつに掛けられた金額は100万!」


 プレイヤー全員の瞳にギラーンと「¥」の模様が浮かぶ。

 スロットか何かか、オマエラ……。


「ビギナーさんの前に連れてくれば、大金が手に入るぞ! 標的の名はフェツェルだ! 稼ぎ時だぜ野郎ども‼」

『『『おおおおおおおおおおっ!!』』』


 ジョンさんが大剣を掲げた号令で、その場のプレイヤー全員から地を揺るがすほどの咆哮が響き渡った。

 あっちはスキルじゃないな。うん。

 そして今来た道を駆け戻り、ホースロドの街中へ消えていくプレイヤーたち。

 後に残ったのは嵐絶の集団と俺たちだけである。


「はあっはっはっはっ! これで今日は俺らとナナシで狩り放題だな!」

「……なんという【扇動】スキルか」

 ポカーンと誰もいなくなった北門前を見渡す。

 状況についていけてない門番の人たちも、呆気に取られて入場チェックを忘れていたようだ。

「あ? そんなん持ってねえ……、お? おおっ!?」

 ニヤニヤしていたジョンさんだったが、途中で何かに気付いたようにステータス画面を広げ破顔した。

「どうしました、団長?」

「ああ、ナナシに言われたら【扇動】スキルが生えたな」

「ぶっ!?」

「あら、おめでとうございます団長」

「あ~、おめでとう~」

「「「「「おめでとうございます団長!!」」」」」

「おう!」

 予め練習したように声が揃う。この辺軍みたいだよな。

 ジョンさんは嬉しそうに俺の肩をバシバシ叩きながら「よっしナナシ! 俺に合いそうなスキルをばんばん言ってみてくれ!」とはしゃいでいる。

「そんなんすぐに浮かぶかあっ!?」

 ついつい怒鳴り返してしまったが、嵐絶全員に大爆笑されるという結果に終わった。

 別れ際に「敬語なんか気持ちわりぃから次は使うなよ」とジョンさんに言われた。


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