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137 さまよう話


 朝まで襲撃はなかった。

 残念だ。


 朝から野菜の肉巻きなどと、少しだけ手間がかかるものを作ってみた。

 肉を薄くスライスするのはシラヒメがやってくれるし、野菜を切って肉で巻くのはベウンがやってくれる。

 手伝いがあるっていいねえ。

 俺は塩コショウを振ってフライパンで炒めるだけで済む。


 作った端からバクバク食われてなくなるんだけどな。

 肉切り包丁とか探してみるかなあ。


 ゾンビは朝になったら消えていた。

 召喚は6時間までが限度らしい。

 倒されない限り存在している訳ではないようだ。


 故意にプレイヤーにぶつけたら、術者がPKになるのか?

 やる気はないが、今さらゾンビに倒されるプレイヤーもいないだろう。 


 朝食を終えたら廃村から外に向かう道を探す。

 ほどなくして北東側へ続く道をみつけた。


「しかしここまで人がいた痕跡はあったが人自体がいない」

「おトウサマ、ツイナヲ高クトバシタラ、いカガデスカ?」

「ツイナを? うーん。飛んでる魔物とかに襲われないかね?」


 シラヒメにそう提案されてツイナを見ると、羽根を大きく広げて目を輝かせていた。

 自分でいっといてなんだが、飛んでる敵ってフクロウと蝶とコウモリ以外に見かけた覚えはないな。

 頭上を見上げてみるも、木立の隙間から見える青空に何かが飛んでいるようには見えない。


「気を付けろよ」

「がうっ!」「メエ~」


 俺が声をかけると、ツイナは少しの助走で大空へ駆け上がって行った。

 そのまま下から見て豆粒くらいの大きさで上空をくるくると2周し、すぐ戻ってくる。


「がうがうっ」「メエェ~」

 何を言ってるんだかわからんが、アレキサンダーとシラヒメはツイナの鳴き声に何度か頷いていた。


「コノサキニ、かベニカコマレタ、大キナマチガミエタソウデス」

「おー。でかした!」

 ツイナの頭を2つともわしゃわしゃと撫でて(ねぎら)っておく。

 物欲しそうな目をしていたシラヒメとアレキサンダーと、ついでにグリースもぐりぐりと撫でつけとこう。

 それだけでご機嫌になるから、モチベーションを保つのにはぐりぐりするのが効果的だな。

 過去に道だったところを、再び薬草や毒草を採取しながら進む。


 途中でレドルフという名の赤い狼が3匹襲ってきた。

 リンルフより硬くて速かったが、急所が見えるんで回避しながら狙えば楽勝である。


 飛びかかってきた奴を回避しつつ脇をすり抜け、尻尾をつかんで振り回す。

 他の個体にぶつけたり、木に叩きつけたり、地面で殴打したりだ。

 ぐったりしたところで首をバキッとへし折れば終了である。


 アレキサンダーは襲いかかってきたレドルフを、ぶわっと広がって迎え撃つ。

 頭部を体内に取り込んで、いつも通りの窒息絞めだ。

 死ぬまで滅茶苦茶に暴れまくるが、アレキサンダーは涼しい顔である。

 うちの防御特化だしな。


 もう1匹はグリースの尻尾蛇から飛んだ腐蝕毒を顔面で受け、「ギャイイィッ!?」と悲鳴をあげる。

 次にシラヒメから飛んだ網で動きを封じられ、ツイナから水の矢・雷の矢・火の矢とたて続けに食らう。

 最後にシラヒメの8本脚をぶすぶすぶすと突き立てられて息絶えた。

 お前も攻撃が多彩になって来たな……。


 ドロップ品は赤い毛皮とレドルフの肉。リンルフと変わらねえわ。

 シラヒメに毛皮を渡したら、リンルフより数段上の素材だと言われた。

 幾つかためて誰かに防具を作ってもらうかー。


 その後に何匹かのレドルフとオークを倒すが、いっこうに森が途切れない。

 しかしオーク肉はありがたい。もっと出ないかな。


 おかしいな、と思ってツイナにベウンを乗せて空に上がってもらい、視覚を同調させてみた。

 たしかに高い壁に囲まれた街らしきものが見えるが、親指と人差指でこれくらいと表現できる小ささだ。

 とても今日中に辿り着けるとは思えん。


 夕方になる前にシラヒメに木上に巣を作ってもらう。

 夜だと何がでるんだろうな、ここ。

 幾重にも重ねて全員の重さに耐えられるようにした床側には、以前に材木屋で購入した板を張り付ける。

 下から何か突っ込んで来ても、1発だけなら耐えられんだろ。 

 屋根側には近辺の木々から失敬してきた枝葉を張り付けてカモフラージュにする。

 視覚だけは誤魔化せるな。

 料理したら匂いは無理そうだけど。


 大量の糸を消費したシラヒメには、アレキサンダーの体内で蒸し焼き(ロースト)したオーク肉の塊を与えた。

 内側にレア部分が残ったので、もうちょっと調整が必要だろう。


 横になって寛いでいると、ハイローとアルヘナから音声チャットの申請が来ていた。

「今度はなんだいったい?」


 ハイロー『お い こ ら ー !!』

 頭の中で反響するほどの怒鳴り声に、つい音声をぶったぎってしまった。

 しばらくしてから繋ぎ直す。


 アルヘナ『ちょっと兄さん! いきなり切るとかひどいじゃないですか!』

  ナナシ『あんなデカイ声に対応できるかバカ者!』

 ハイロー『そんなのはどーでもいい! クエストの伝道師が行方不明とかどういう了見だコラ!』

  ナナシ『はぁ? うちの信者が行方を把握してるって聞いたぞ』

 ハイロー『所在は存じておりませんっつーてたぞ』

  ナナシ『ええええ……』


 これはまたあれか。

 坑道の壁は1PTごとの通過処理で、ストーカーさんたちには消えたようにみえたのか?


 ハイロー『とりあえず今どこにいるんだよ?』

  ナナシ『坑道の先だ』

 ハイロー『どこだよ?』

  ナナシ『坑道の先だよ先』

 アルヘナ『ちょっと意味が分からないですよ、兄さん』

  ナナシ『坑道の突き当たりの壁を崩して、ベアーガの北の山の向こうだ。デネボラが知ってる』

 アルヘナ『えええーーっ!?』

 ハイロー『お前はまたか! また新エリアなんぞ見つけやがってこのドアホウ!』

  ナナシ『切って着信拒否にするが、いいか?』

 ハイロー『ごめん。もうちょっと情報くれ』

 アルヘナ『デネボラちゃんそんなのひと言も言ってなかったよぅ』


 あれ、デネボラからエトワールに漏れてるもんだと思ったけど、言わなかったのか。


 ハイロー『なんか変わった敵は出るか?』

  ナナシ『斧持ちのオークと赤い狼のレドルフくらいしか出会ってないぞ。あとゾンビメーカーっていう花だ』

 アルヘナ『なにそれ?』

  ナナシ『ゾンビを産み出してくる花だ。燃やせば簡単だから』

 ハイロー『お前の簡単はあてにならんぞ』

  ナナシ『その時はそっちでどうにかしてくれ。夜になるから警戒せにゃならんので切るぞ』

 ハイロー『おう、サンキューな』

 アルヘナ『兄さん、また後でです』


 後でって後を追ってくる気か?

 あいつらでオークの相手は……、たぶん大丈夫か。

 PTという数の暴力でなんとかすんだろう。

 

 今年の花粉はくしゃみが酷い。

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なんでこんな情緒不安定で一々口が悪いんだ?
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