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136 夜を過ごす話


 こっちの廃村も人の気配はなし。

 ずいぶん前に人が居なくなったとみえる。

 家の中は埃がうず高く積もっていて、壁が崩れてたり屋根に穴があいてたり。


 収穫する者がいない畑には、野生化してのびにのびた野菜と、ぼうぼうに生えた雑草。

 人が行き交っていたと思われる村内にも、雑草ははびこっていた。


 村を囲んでいた柵までも蔦に覆われている。

 幾重にも重なった蔦はこんもりとした庭木のようだ。


「家はボロボロだし、寝ているうちに崩れるかもしれないから野宿にしとくか」


 村の中央部分の雑草をアレキサンダーが捕食し、ゆったりと座れる広場を作ってくれた。

 何があるか分からないのでベウンは出さないでおこう。

 人目がないので、ここらで1度ゾンビ召喚でも使ってみるか。


 MPを半分くらい消費すると、4体のゾンビが地面の下から這い出てくる。

 イビスのダンジョンにいるのと同じくボロを纏い、体もボロボロで腸を引きずってたり目玉をぶら下げてたりだ。

「あ"ー」とかいうのが精々で、動きも反応も遅い。

 この召喚で【死霊術】のレベルが上がり、スケルトンを召喚できるようになった。

 スケルトンって強いのかね?


 ゾンビは村の四方に配置し、侵入者を警戒させておく。

 相手がプレイヤーだったとしても、どうとでもなんだろう。


 広場の中央に焚き火を作る。

 薪となるものはここに来るまでに拾った小枝や枯れ木。

 ツイナが家屋の裏に積まれていた薪も引っ張ってきた。

 使う者もいないからいいよな。


 食事は以前に作って、インベントリに突っ込んだままだった野菜炒めや串焼きだ。

「腐った」なんて注釈がつかないから大丈夫だとは思うが、あんまり長期間入れっぱなしにしておくのはやめよう。


 アレキサンダーたちに断って少し横にならせてもらう。


 ぽよんぽよん。

「テキガ出タラコチラデドウニカシマスワ、おトウサマ」

「何が出るんだか分からんのだから、すぐ起こせよ?」

「ぴぃっ!」

「頼むぜホントに」

「ぐるる」「メエ~」

 少し心配になるが、まとまって動くペットたちならリングベアにも後れはとらんだろう。


 目をつぶって体の力を抜くと、暗闇に落ち込むような感覚に意識を落とす。

 が、その途中でカチンと火花が散ったような感覚に襲われ、瞬時に意識が覚醒する。

 身を起こすと、アレキサンダーたちが北の方角に体を向けて警戒していた。


 素早く戦闘可能な態勢を整え、シラヒメに尋ねると俺は2時間ほど寝ていたようだ。

 いつも思うがこのゲームは寝た気がしねーって。


 北の方から幾つもの獣の気配に俺を護る態勢で準備をしていたらしい。

「まあいい」

 風が獣とは違う何かの臭気を運んでくる。


 そちらの方に置いていたゾンビとの繋がりが途絶えていた。

 他の方角に置いたゾンビは健在のようだ。

 一応、他からもくると厄介だし、そちらの警戒もさせておこう。


 気配は2つでそれなりに大きい。

 やがて暗がりから姿を表したのは2体の亜人だった。

 2足歩行で身長は2m半ぐらいで、胴回りは大人3人分以上に太っている。

 粗末な皮鎧に人間を縦3枚に下ろせそうな斧をもっていた。

 顔はブタで「フッゴフッゴ」と唸りながら、口から涎をダラダラと垂らしている。


 名前しか分からんが、オークというらしい。

 敵対する気まんまんだなありゃ。

 見たところ皮下脂肪が厚そうで打撃が通るかあやしいな。


「片方はお前たちに任せる。撹乱するだけでもいいからな」

 ぽよよん。

「ワカリマシタ、おトウサマ」

「ぴいぴぃっ!」

「がうっ!」「メェー」


 アレキサンダーたちに声をかけておくが、全員がすでにヤル気満々だった。

 臨戦態勢になるこちらと同じく、オークたちも二手に別れてくれるようだ。

 ああいうのからだとグリースとかうまそうに見えるのかもな。

「ぴ?」

「ああ、なんでもない」

 チラッと見てたら、グリースに首を傾げられていたので手を振っておく。


「「ブゴオオオッ!」」

 俺が余所見したからなのか、2体が同時に吠えながら突進してきた。


 アレキサンダーは振り下ろされた斧を、体の表面で滑らせることで防ぐ。

 シラヒメが大きな網をオークに飛ばして、動きを鈍らせる。

 オークの持っている斧が、グリースの腐蝕の視線でじわじわと錆びていく。

 そこへ飛び上がったツイナが頭の上から炎を浴びせた。

 放っといても平気そうだな、ありゃあ。


 俺に向かってきたオークの振り下ろした斧を紙一重で避ける。

 腕が伸びきっているところへ肘を狙って全力の一撃を叩き込むと、斧を持っていた右腕を逆向きの関節へとへし折った。

 一拍遅れて「ピギイイイッ!?」と悲鳴をあげるオーク。

 皮一枚と筋だけでぶら下がる右腕は、まだ斧を持ってるからな。その重量だけで痛みが倍加されんだろう。

 俺と千切れかけた右腕を見比べながら、オークは怯えた目で後ずさりしている。


「逃がさないけどな」

 奴の腹を踏み台に駆け上がり、肩の上で体を捻って勢いをつけ、こめかみに膝蹴りを叩き込んだ。

 これは【闘気】込みの全力だ。赤く見えていた急所に入れたからな。

 オークは「ビギイッ!?」という悲鳴をあげてそのまま倒れた。

 やはり頭蓋骨が陥没すればどんな生き物もただではすまないだろう。

 オークの右側頭部は茶碗の形状のように陥没し、血やら目玉やらを垂れ流しながら絶命していた。


 少ししてオークの巨体は消え、肉と斧のドロップ品が残る。

 片方はオークの肉で、5kgの固まり。斧は柄の長い片手斧らしいが、酷使されたナマクラのようだ。


 アレキサンダーたちで倒した方は錆びた斧となっていた。

 オーク自体はというと、焼かれて、動きを封じてまた焼かれて、斧が使い物にならなくなって、そしてまた焼かれて倒されたようだ。

 うちの子たちは優秀だなあ。

 なんにせよ、2体分10kgの肉はありがたい。

 欠食児童(ペット)ばかりがバクバク食うので、困っていたところだ。


 もう一眠りしたらオークを探すのもいいかもしれん。


 誤字報告して下さった方、ありがとうございます。

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