134 査定の話
これ書くのに時間かかってストック切れ……。
結局余人を交えぬ話し合いがしたいということで、宿に皆を呼ぶことになった。
アレキサンダーたちを部屋に残して客を迎えに行ったのだが、そこには最初の想定とは全く違う面子が集まっていたのである。
まず、エトワールからツィーとアルヘナ。
嵐絶のジョンとマイスさん。
そしてインフィニティハートからはアサギリとハイローだ。
なんじゃいこのメンバーは?
「あっはっはっは! 当事者のくせに鳩が豆鉄砲くらったような顔してんなよ!」
「ナナシさんがまた面白そうなクエストを発見したと聞きまして」
人の肩をバンバン叩きながら愉快そうなジョンと、にこやかながらマイスさんの瞳には好奇心がキラキラと輝いている。
「悪いね。攻略組ばかりになっちゃって。こういったものを決めるのに嵐絶は最適だしね」
「全く、兄さんはクエストの重要性を理解してないから」
ツィーはウインクをしながら小さく舌を出して笑う。
その後ろでアルヘナは肩を落として溜息を吐いていた。
「ナナシの人となりを理解した奴じゃないと、引っ張ってきても萎縮するだけだしな」
「すっかりカオス枠に入ってるぞ、お前」
うんうんと1人勝手に納得しているアサギリに、半目で責めるような顔のハイロー。
俺がなにをしたというんだ……。
皆を部屋に招き入れるとアレキサンダーたちは部屋の端に寄って、俺たちの邪魔にならないよう静かにしている。
時折「ぴいぴい」ぷるぷる「シッ。グリース、たイクツナノハ分リマスガ、シズカニ!」「ぐる」「メェ」とか聞こえてくるため、マイスさんやツィーの肩が震えていた。
触ってもいいんだぜ。
別に端っこに固まっていないで、自由にしてて構わないんだが。
この前の修行中にアナイスさんになにか言われたらしく、俺の都合に合わせる癖がついたみたいだ。
「いやー、さすがは開祖殿。テイマーの手法だけでなく魔女に関するスキルまで見つけてしまうなんてなー。いつもなにやってんのナナシ?」
軽口から途中で真顔になるアサギリ。
微妙に凄みを混ぜないで欲しいんだが。
「ふつーに気のむくまま遊んでるだけなんだが……」
「お前のふつーはどうなってんだよ?」
「アサギリさん、兄さんの「ふつー」は常人とは色々違いますから。犬かと思ったら戦車だったくらいの誤差があります」
「大山鳴動して大爆発に発展するからな。ナナシの「ふつー」はハードルを8段くらい上げて考えとけ」
暴力的な煽りも入ったアルヘナとハイローの援護射撃ならぬ事実否定に涙がこぼれそうだ。
ひどい。
「んで、その成果がこれか」
「まあ、ぬいぐるみですよねー」
輪になって座る俺たちの前にはもちゃもちゃと動くベウンがいる。
片足で立ってくるくる回ったり。
手を上げてぴょんぴょん跳ねたり。
体を大きく回して、後ろにコロンとひっくり返ったり。
ベウンの基本動作は、中核となる魔石を作った術者の身体能力によるものらしい。
歩く、走る、拾う、体を使うバランス感覚は術者からコピーされると、アナイスさんは言っていた。
頭が重いぶん多少の狂いは出るだろうが、術者との繋りを利用してそういった動作をどんどん学んでいくようだ。
今の動きだって俺は「ちょっと動いてくれ」としか言ってないしな。
「この前も聞いたけれど、もう一度その称号を得るまでの経緯を聞いてもいいかな?」
全員を代表してかツィーが尋ねてくる。
どこまで喋っていいのやら。
長期化するクエストだとは思うんだがなあ。
「まずはある人物を探しだして交流し、好感度を高める」
「げっ!? そこ言っちまっていいのかよ!」
「全体的に時間がかかるんだから、そこに至るまでの経緯は必要だろう」
「そりゃそうだがよ」
ジョンは苦虫を噛み潰したような顔で頷く。
「そしたら向こうから誘いがあると思う。そこら辺は検証する間もなく強制されたんだが」
「好感度次第ってことだね?」
「たぶんな」
「そこから先の習得は人によるなあ」
「人?」
「俺の場合は先生が感覚的な人でな「サッとしてドン」なんて説明で理解できるのが何人いることやら」
「「「あ~あ~あ~」」」
マイスさんとツィーとアルヘナが「あるある」みたいな感じで同意していた。
「そこで得られるスキルが魔法系統7つ、技術系統1つ。こっちの技術は元々持ってたやつが変化したんで、無いやつは苦労するんじゃないか。ちなみにビギナー職は魔法系統のスキル取得にSP12かかるからな」
「「高っ!?」」
ほぼ全員が目を丸くしていた。
「聞くのは2度目だけど信じられない数値だよね」
「それだけかかるビギナー職を変えないナナシに頭が下がるわ」
これだけ聞けばビギナーを選ぶやつなんて皆無だということがよくわかる基準である。
世捨人という職業がないから悪いんだ。
「おい、ナナシはそれを習得すんのにどんだけかかったんだよ?」
「リアル1週間くらい。ゲーム日数で20日間くらいはそれにかかりっきりだね」
「途中で席を外したりは?」
「それ以外の行動は認められませんってくらいに先生が鬼だったよ」
正確にいうとアナイスさん宅から出られなかったんだけどな。
クランで魔法使い系が抜けるとつらいのか、ジョンとマイスさんが小声で相談をし始める。
「その習得って必要な物は何もないのかい?」
「あちらで用意はしてもらえるけど、魔石は持ってった方がいいな。5~60個もあれば困らないと思う」
「ええええっ!?」
エトワール側が難色を示す。
聖女がいるんだからゾンビは楽だろうよ。コボルトでも落とすけど。
魔石の合成がなかなかめんどくさいんだよな。時間かかるし。
「こりゃ魔石が高騰するな」
「今のうちにクランでゾンビ狩りに行っとくか」
「ピラミッドダンジョンのマミーも落とすぜ」
「あとはコボルトだね」
「ホースロドのリザードマンも持ってるな」
「ありゃあ群れで動いてるから、結構ムズいぜ」
魔石を落とすモンスターって他にもいるんだな。
雑談が数分続いたが、そろそろ結論が欲しい。
「んで、これ幾らで販売すりゃいいんだ?」
「あ、ああ。すまんすまん」
「なかなか難しいね」
「100万突破は確実だろ」
「デメリットがネックだな」
「ソロならいいが、クランから魔法使いがごっそり抜けられるとマズイ」
「俺としちゃあ別に最低価格でもいいんだけど」
「「「えっ!?」」」
「そこから派生するアイテムがあるから、ある程度は広まった方がいいだろ」
皆の前に取り出すのは例のマズイMP回復ポーション。
「「「MPッ!?」」」
それぞれが鑑定して目を丸くする。
小さなカップに分けて皆の前に並べれば、ハイローとアサギリがぐいっといって「ブフオォッ!?」と吹き出した。
じったんばったんと口を押さえてもがいている。
苦味しかないからな。人体実験は完了と。
他に手をだそうとしていた者はその結果を見て硬直する。
俺が作ったものだからか、味覚再現75%になっている可能性があるな。
結局スキルの派生もあって200万という値段となった。
「安い」他全員「高い」俺。で散々揉めたけど。
あまりにも安いと他にスキル情報を売ってる人に迷惑がかかるというので、俺が引き下がった。
そしてあるブイ公式ホームページ交流サイトに、スキルや称号取得に対しての情報提供板があるので、流せそうな情報はそっちに書き込んでくれと言われた。
「これ情報提供者のトコは名前入れときゃいいのか?」
「開祖かビギナーでいいんじゃね?」
「兄さんはそっちを書かないと誰も訪ねてきてくれませんよ」
「酷い世の中になったもんだ」
「「「「「「自業自得だろ(でしょ)(だ)!」」」」」」
鑑定スキルで表示されるのはこう。
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■MP回復ポーション(製作者:ナナシ)
使用者のMPを20%ほど回復させるアイテム。
レア度:5
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レア度は10段階評価。




