弐 巨人襲来
轟音で目を覚ます。
窓から外を見ると、暗闇のなか巨体の怪物がいるのが見えた。大雑把に分類するならオークとかギガンテスとかいう奴だろう。
あそこは確か大きな川があった筈だ。
轟音の原因は奴だろうか。と考えていると
「ヴォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!」
なんて恐ろしい大声だ!!2,3kmは離れているのに耳を塞がなくてはいけないなんて!!!!
------ようやく落ち着いた。しかしまたあれが来ては困る。
そうだ、こういう時こそ騎士団の出番だろう、そう思っているが一向に出撃の気配が無い。痺れを切らし下へ見に行く。確か宿舎から騎士団本部はそう遠くない---
「えっ?」
思わず変な声が出る。
偶然途中であったニーナに話を聞くと、騎士団は先程別の巨大な転生者の大討伐隊を組み出陣、残されていた戦力も既に奴を倒すため出陣したと。
あの声を至近距離で聞いたらそれこそ...
そう思うのはニーナも同じようだ。
救援要請を出したと言うがその顔は余りに青ざめている。
自分も顔から血の気が引いていくのがハッキリわかる。そんな時、自分の右手の甲に視線が落ちる。
(そうだ、戦う力なら俺にもあるかもしれないじゃないか。)
(でもそれで奴に歯が立つのか?何故奴を倒せると断言できるんだ?)
(騎士団は全滅はしていないかもしれない。それにあんな奴を何回も倒してきたかもしれないじゃないか。)
(そうだ、俺が行くことはない、死にに行くことは----)
そんな考えが頭の中を回る。
結局死にたくない、自分は行くことはない、そう思っていたが---
---さあ行け、貴様の力は最強だ 負けるはずがない---
そんな声が、した気がした。
「グウッ・・・ガハッ」
駄目だ。騎士団は2回の咆哮で完全に沈黙してしまった。
平衡感覚がやられたらしい。皆立ち上がれない。死屍累々という言葉がこれほど似合う光景に立ち会えるとは思わなかった。まだ皆生きてはいるがどうせもう助からないのだ。一緒であろう。救援が来るのにも時間がかかりぎる。
ああ、もう何も聞こえ---
何だ、倒れた体が振動を感じる。
後ろからか。まさかもう救援か?
そう思っていたら、巨人の前に立ちはだかったのは質素な部屋着を身につけた、なんの取り柄もなさそうな青年であった。
信じられない。あり得ないほどの早さでここまでこれた。
辺りには騎士団と思われる鎧達が転がっている。
まだ生きてはいるが、戦闘続行は不可能だろう。
つまり、俺が一人で奴を倒すのだ。
近くならより敵が鮮明にわかる。
奴の種族は全身の体毛、イノシシに似た頭部よりオークと断定。武器は無し。胸の部分がやけに膨らんでおり、巨大な肺を持つと推測。おそらくそな肺活量からくる大咆哮で騎士団を仕留めたのだろう。
新しい敵の登場には戸惑う様子無し。恐らくもう一度咆哮を行い俺を仕留めに来るだろう。流石にあの咆哮を三回もされては被害が大きすぎる。
それではどうするか。
そうこうしているうちに奴は大きく息を吸い、またその息を吐き出す----!
こうするのだ。
奴は非常に混乱した表情を見せている。
当たり前だ。一切自分の口から音が出なかったのだから。
無論原因はこの俺。
奴の咆哮にあわせてノイズキャンセラーの要領で、奴の咆哮と同音量「逆位相」の咆哮を発したのだ。
それで俺と奴の咆哮は打ち消し合い、一切音は起こらなかった。
これしか手段は無いと思っていたし自分にはそれが出来ると確実に思っていた。
そして俺は、落ちていた騎士団の剣を拝借し、混乱しているオークの頭部目掛けて投げつけた。
結果は見るまでも無いので見なかった。
もし今「あなたの能力は何ができますか?」と質問されたならば俺はこう答えるだろう。
「なんでも出来る。」