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【書籍化】腕利きシェフは『王家の至宝』⁉︎〜悪役は恋しちゃダメですか?2〜   作者: 葉月クロル


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これは作戦会議しかないわ

「……まさか、他にも転生者がいたなんて……」


「そっちが『ミラクル』、こっちが『スイート』なんだね……」


「続編は……なかったのかしら……」


 わたしとミレーヌさんは、口を半開きにしたまま見つめ合った。

 ゲーム世界に転生するなんて信じられないような目に合った仲間がいたのだ。

 しかも、ふたりとも悪役令嬢なのだ。ものすごく親近感がわく。


 ミレーヌさんが言った。


「も、もしかして……あなたは日本のJK?」


「YES、JK!」


「OH!」


「OH!」


 うわー、ミレーヌさんも女子高生だった! 

 怪しい英語になり、ふたりの口が『O』になる。


 聞きたい。

 めっちゃ情報交換したい!

 緊急会議を開きたい!


 そんな想いを乗せて、熱い視線でミレーヌさんを見つめると、彼女は黒い瞳をきらめかせて頷いた。


「ええと、アナベルさまは、ケインさまの婚約者で……」


「いえ、ミレーヌさま、恐れながらその話はなかったことになりました」


 ミレーヌさんの言葉をさっくりと否定したのは、セディール兄さまだ。兄さまを見たミレーヌさんは「あら、ゲームキャラじゃないイケメンだわ」と呟いた。そして「婚約者ではない? ケインさま、どういうことですの?」と上から目線で尋ねた。


 すごいわ、なんて堂々とした悪役令嬢っぷりなの!

 他国の王族に対してまったく臆した様子が見られない。

 さすがはミレーヌ・イェルバンだね。

 中途半端にいい人になっちゃったわたしとは大違いだよ。


「いや、僕としては、婚約話は決まったものとして……」


 ケイン王子の言葉を、兄さまがさっくりと切った。


「いいえ、全然決まっていませんので。今となってはそんな話もあったな、程度のことですね」


「いやいや待ってセディール! 僕はけっこう本気で……」


 兄さまは、アイスブルーの瞳を冷たく光らせて、ふっと笑った。


「やめてください殿下。このわたしがうちの可愛いアナベルを『けっこう本気』程度の殿下に嫁がせるわけがないでしょう」


「お、横暴だよ! セディール、横暴!」


「わたしは世話役ですので。冷静に判断させていただきました」


「全然冷静じゃないと思うよ! いくら世話役でも、セディールが勝手に決め……」


「勝手ではありません。『王家の至宝』の世話役として、アナベルの利益を守る行動を取るのは当然ですし、殿下との正式な婚約はアナベルの利益になると思われないという結論に達したので、この話は世話役の権限でストップさせていただきました」


「そんな……信じられない……セディール……」


 ううむ、あまり感情を現さないケイン王子を手のひらでコロコロするとは、さすがはセディール兄さまである。そして、そんな兄さまを見て「ど、どこが冷静ですの」と言いながら笑いをこらえているのは、そんな兄さまを手のひらでコロコロする侍女のカティだ。


 あれ?

 カティが最強?


「となると……ゲームとはストーリーが……」


 ミレーヌさんがぶつぶつ言っているが、その意味はわたしにしかわからない。と、彼女が頭を上げてキリッとした表情で言った。


「わたくし、アナベルさまと個人的にお話ししてみたいわ。別室を用意してくださらなくて?」


 ミレーヌさんは『くださらなくて』と言っているけれど、これは明らかに命令だ。すごい。悪役令嬢の迫力が違う。わたしも見習わなくっちゃ!


「わたくしも、ミレーヌさまとぜひともお話ししたく存じますわ。お部屋のご用意をお願いしてもよろしくて?」


 ツンと頭を上げて言ったら、ミレーヌさんは「まあっ、さすがはアナベルさま! カリスマ性が半端ないわね! 後光が射してるわよ、うっかり拝んじゃいそうよ」と呟く声が聞こえた。






 そして、別室が用意された。

 向こうのヒロインのメイリィさんに、なんだか胡散臭そうな視線で見られたけれど、彼女は転生者ではなさそうなのでこの秘密会議に加えるわけにはいかない。わたしたちに異世界の知識があることがバレたら、どんなトラブルを招くかわからないのだ。ここは慎重にいかなければ。


「ええーっ、お味噌とお醤油を作っちゃったの⁉︎」


 す、すいません!


「ゼールデン国に輸入する手筈を早く整えなくちゃ!」


 え、いいんだ?


 うちの店、すなわち『緑の風亭』でしか手に入らないことを知ったミレーヌさんと、早急にミーソとショーユの製造所を作ることを約束して、はっと顔を見合わせる。


「違う違う、その前に。アナベルさんがケイン王子とくっつかない件についてよ」


「ミレーヌさんがレンドール王子とうまくくっついちゃった件じゃなくて?」


「あら、わたしはうまく行っちゃったからいいのよ。元々レンドール王子推しだったし」


「そっか……」


「アナベルさんは、誰推しだったの? 確かアナベルはルートによってどのキャラともカップルになるのよね……最初は」


「最初は、ね。その後はぜーんぶ、ヒロインに取られちゃうけどね」


「あ……ドンマイ」


 ドンマイじゃ済まないからねー。


「で?」


「それがね……実は、わたしが好きなのは……」


 なんだか恥ずかしくてもじもじしてから、興味津々のミレーヌさんに「セディール兄さまなの」と答えると、黒い目をまん丸にされた。


「誰⁉︎」


「だから、セディール・リシュレー。ケイン王子付きの、次期宰相よ」


「あ、さっきの世話役とかいう……でも、あの人はゲームの攻略対象者じゃないわよね」


「そうなの? 実はわたし、この『恋のスイートまじっく!』はやってないのよ」


「やってない……ですって?」


 驚くミレーヌさんに、わたしは自分の最期を話した。ミレーヌさんは「ドンマイ」と言って、自分の最期を話してくれたので、わたしも「うわー、ドンマイ!」と言った。


「やっぱり兄さまは、隠しキャラでもないのね」


「出てなかったと思うわ。あらまー、まさかの展開でびっくりだわ」


「そうなの。だからね、とっかかりがないのよ」


 わたしはため息をついた。


「攻略対象者なら、婚約することができるからスタートが有利でしょ? でも、セディール兄さまはそうではないから……」


 そうなのよ。その上、まさか好きになるなんて思わなかったから、包丁を振り回す姿とか階段の手すりを滑り降りる姿とか、いろいろと素の姿を見せてしまったし。魔物をヤった後の血塗れの姿を見られなかっただけいいけれど。


 うわあ、恋が生まれる気がしないわ!


 わたしが頭を抱えると、ミレーヌさんは「大丈夫よ」と言った。


「いまからでも巻き返しができるわよ。わたしなんて、メイリィをいじめまくって、レンドール王子からウザがられてたところからのスタートだったんだからね!」


「ええっ、そうなの?」


「そうよ!」


 ミレーヌさんは偉そうに腕を組んで言った。


「そりゃあ、散々すったもんだしたわよ? でもまあ、こうして結婚できたし、メイリィとは仲良くなったし、なんとかなったからね。きっとアナベルさんも大丈夫だと思うの」


「そうかな……」


「そうよ。乙女ゲームのストーリーは、悪役令嬢役が態度を変えると崩れるわ。つまり、わたしたちはゲームのキーなのよ。運命を変えることができるわ、アナベルさんの勇気次第でね」


「わたしの、勇気……」


「そうよ。ねえ、よかったら明日も王宮に来ない? 明日ならもっとふたりきりで話ができるわ。今日はもう、みんなの所に戻らないといけないから」


「わかったわ。学園の授業が終わり次第、ここに来るわ」


 わたしはミレーヌさんと約束をして、ふたりでみんなのいる部屋へ戻った。


 そう、その後に大事件が起こることを知らずに。

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