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【書籍化】腕利きシェフは『王家の至宝』⁉︎〜悪役は恋しちゃダメですか?2〜   作者: 葉月クロル


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素晴らしき『王家の至宝』

短いのですが、きりがいいのでアップしますね。

「シェリーの作ったケーキを、しかも、落として潰れてしまったものを、ご自分のために作られたものだからと、気さくにお食べになるなんて……」


「アナベルさまは、お美しいだけではなく、なんてお優しい方なのかしら」


「しかも、気品に満ちたお姿で、ケーキを残さずお食べになったわ。その思いやり深いお心持ちは、さすが王家の血を引く姫さまですわね。わたくし、すっかり感激してしまいましたわ!」


 この事件のおかげで、Bクラスの、下級貴族のご令嬢方からの評判がずいぶんと上がってしまったようだ。廊下で行き合うと「アナベルさま、ごきげんよう」と皆深々と礼をするので(一応学園なので、生徒間では正式な作法は必要ないということになっているんだけどね)わたしはそのたびに軽く頷いて見せる。非常に偉そうである。

 いちいち『ごきげんよう』するのが面倒だからというのもあるが、カティに、そのくらいのよそよそしさで生徒たちの気持ちを抑えておかないと、フレデリック・ユーデリスみたいに皆が周りに集まってきて、大変なことになるという忠告をされているのだ。


 これ以上『フレデリック』が増殖したら、それはそれはめんどくさいからね。

 相変わらず、ケイン王子もちょいちょいやってきて、ふたりの間には身分差にも関わらずライバル的な空気もできてるから、今も充分めんどくさいからね。


 そして、問題のシェリー・ラスタン(しつこいようだが、ヒロインである)なのだが。


「アナベルさまーっ!」


 遠くの方から手を振りながら、シェリーが駆け寄ってくる。ふわふわのピンクの髪をなびかせ、瞳をきらめかせて、少女漫画のキラキラ効果がついているんじゃないかってくらいの派手な登場である。わたしも背後に薔薇の花びらを渦巻かせないと対抗できない。しないけど。


「アナベルさま、おはようございます!」


 胸に手を当てて、シェリーがハアハアと息を切らしている。ちょっと首を斜めにして、ヒロインらしい可愛いポーズだ。

 そして、今日も貴族の作法的に非常識な行動なのだが、もう今さら誰も驚かない。『シェリーだから仕方がないね』状態になってしまっているのだ、恐ろしい子!


「アナベルさま、今日はこれをお待ちしました」


 偉そうに目を細めただけのわたしに、シェリーは嬉しそうに袋を差し出した。


「マカロンなんです! チョコレートとクランベリーとピスタチオで、三色のマカロンを作りました」


 侍女のカティが、慣れた手つきでお菓子を受け取って、開いてわたしに見えるようにした。


「可愛らしい色合いね」


 ふっくら焼かれ、クリームを挟んだマカロンは、焦げ茶色と赤と緑でなかなかカラフルだ。

 その様子を見ていた生徒が「シェリーさんがまたお菓子を作ってきたわ」「熱心な方ね」「アナベルさまに受け取ってもらえるのですもの、熱心にもなりますわよ」と囁いているのが聞こえた。


「アナベルさまに食べていただこうとお菓子を作っていると、なぜか魔力が渦巻いて綺麗な形に安定するんです。おかげで、魔法も上手く使えるようになりました」


 ヒロインが、おめめをキラキラさせた。

 わたしは頷いて言った。


「ええ、お菓子に込められた魔力も、強くなってきましたわね」


 そう、シェリーの作るお菓子には、精神を安定させる効果の他に、回復・解毒・状態異常解除・呪いの解除・体力向上・魔力の向上などなど、どんどん付加効果が増えてきているのだ。

 さすがは『恋のスイートまじっく!』のヒロインだけあって、チートと言って良いほどの能力を持っているのだ……けれど、待って。


「ありがとうございます、すべてアナベルさまのおかげです!」


 いや、ちょっと待とうかヒロイン。


「わたし……わたし、一生アナベルさまのためにお菓子を作っていきたい! いつも美味しいって召し上がってくださる、優しくて美しくて、素敵なお姫さまのアナベルさまのために! きゃっ、言っちゃったわ、わたしったら恥ずかしい!」


 いやいやいや、だから、ちょっと待とうか!

 それは確か、攻略対象者に言うセリフだよね?

 イケメン対象者に『あなたのためにお菓子を作りたい』って言って、頬を染めているイラストを見たんですけど!


「やん、どうしよう、わたしったら」


 こっちが「やん、どうしよう」ですよ!


「あ、あのね、シェリーさん……」


「恥ずかしいーっ!」


 赤くなった頬を押さえて、ヒロインちゃんがぴゅーっと走り去ってしまった。


 ……シェリー・ラスタンよ。

 いろんな意味で間違っちゃってるぞ。


 とりあえず。


「……カティ、チョコレートのものをひとつ、いただこうかしら」


 わたしは魔力が込められたマカロンを食べて、気持ちを落ち着かせたのであった。

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