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クリアランス・ゼロ 〜無能ポーターとして見捨てられた俺、誤射の心配が消えたので相棒(戦術AI)とダンジョンを更地にする〜  作者: ぱすた屋さん


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第1話:S級配信者パーティの荷物持ち

ぱすた屋さんです。

初めての方もそうでない方もどうぞよろしくお願いします。


王道テンプレに挑戦してみようと思いまして始めてみました。

王道……でいいんですよね。


ダンジョン✖︎配信✖︎チート✖︎ざまぁです!

少しずつまとめて投稿していきます。

 


 陽の光など一切届かない、地下数百メートル。濃密な魔素が空気を淀ませ、呼吸するたびに肺の奥が焼けるような錯覚を覚える場所。

 国内最大級の難易度を誇る『奈落の迷宮』第30階層。

 一歩間違えれば即座に命を落とす極限の最前線であるはずのその空間に、場違いなほど軽薄で、甲高い笑い声が反響していた。


「おいおい、遅れてるぞ『無能』! チンタラ歩いてんじゃねえよ! せっかくの配信のテンポが悪くなるだろうが!」


 先頭を歩く男が、振り返りざまに嘲笑を投げかけてくる。

 派手な装飾が施された特注のミスリルアーマー。暗がりの中でも無駄に光を反射するその鎧は、自己顕示欲の塊そのものだ。

 国内トップクラスの同時接続数を誇るS級配信者パーティ『紅蓮の剣』のリーダーにしてメインアタッカー、ガレル。


「ちょっとぉ、ガレルに迷惑かけないでよね。ただでさえあんたみたいな薄汚いオッサン、画面の端に映り込むだけで視聴者のテンションが下がるんだから。あたしの美しさを際立たせるための背景にすらなってないわよ」


 後方に続く金髪の女性魔術師、ミレナも、自身の高級なローブの裾を気にしながら露骨な嫌悪感を向けてくる。

 さらにその後ろを歩く軽装の斥候職の男、リックに至っては、周囲の警戒など一切せず、カメラに向かってピースサインを作っていた。


「ま、俺ら最強のS級パーティに同行できてるだけでも、底辺ポーターにしちゃ一生の自慢になるっしょ。せいぜいカメラの邪魔にならないように荷物運べよな、おっさん」


 彼らの周囲には、配信用の最新型追従ドローンカメラが四機、常にフォーメーションを組んで飛び交っている。

 ドローンは彼らの「勇姿」と、膨大な量の荷物に埋もれて黙々と歩く俺の無様な姿を、残酷な対比として世界中へリアルタイムで映し出していた。


 俺の網膜に投影されたAR(拡張現実)ウィンドウには、配信の視聴者たちからのコメントが滝のような速度でスクロールしていく。


『ガレルさんマジ鬼畜wwでも好きww』

『ポーター遅すぎだろ。息上がってんぞ』

『S級パーティ「紅蓮の剣」の足を引っ張るなよ無能』

『てか、なんでこんなむさ苦しいおっさん雇ったの?』

『ガレルさんの優しさだろ。仕事がない底辺職を養ってあげてるんだよ』

『ミレナちゃん今日もエッッッッ』


 俺、一条誠いちじょうまことは、視界を埋め尽くすその無責任なテキストの群れを、瞬き一つせずに無表情のまま読み流す。

 背中に食い込む特殊合金製のバックパックの総重量は、優に八十キロを超えていた。

 中に入っているのは、彼らの予備ポーションやキャンプ用の魔導具だけではない。「配信の画変わりで使うかもしれないから」という理由だけで持ち込まれた、無駄に重い高級食材や、装飾の施された椅子などのガラクタばかりだ。

 俺は特殊な呼吸法で酸素を効率よく全身に巡らせ、一切の足音を殺しながら、ただ淡々と歩を進める。


(……歩幅が広すぎる。足元の不規則な岩肌をまったく考慮していない。それに、前衛と後衛の距離が開きすぎだ)


 俺は額の汗を拭うフリをして、視線だけを動かし、密かにパーティの陣形と周囲の環境を分析していた。

 通路の幅に対して、彼らの立ち位置はあまりにも無防備だ。あんな散漫な陣形では、側面の暗がりからの奇襲に対して、後衛の魔術師をカバーすることなど絶対に不可能だ。


(斥候職に至っては、トラップの探知すら怠っている。あいつが見ているのは暗がりではなく、ドローンのレンズだけだ)


 プロのソロ屋、あるいは軍人として戦場を潜り抜けてきた俺の感覚からすれば、彼らの動きは「死を待つ素人の遠足」そのものだった。

 常に死角を晒し、足音を隠す気もなく、配信のコメントに気を取られて視線が浮ついている。

 だが、恐ろしいことに、これでも彼らは世間では「S級」ともてはやされるトップ配信者なのだ。彼らの圧倒的なステータスと、強力な武具の力だけで、これまでの階層をごり押ししてきたに過ぎない。


『マスター。彼らの戦術的価値は、現在あなたが背負っている予備のトイレットペーパーと比較して、約一四パーセントほど劣ります』


 不意に、俺の脳内に直接、冷徹で無機質な少女の声が響いた。

 俺の相棒であり、戦術支援AIユニットである「アイリス」だ。

 俺の視界の端、誰にも見えない完璧な光学迷彩ステルスを展開した状態で、手のひらサイズの多脚戦術ドローンがフワフワと浮遊している。


(相変わらず口が悪いぞ、アイリス。一応、今回の雇用主だ。あまり貶すな)


『事実を客観的データに基づいて述べたまでです。あのような光を乱反射する無駄な装甲、隠密性を著しく下げる大声。さらには、自身の体温と魔力反応を垂れ流す行為。戦場において「私を的にしてください」と広範囲に宣伝しているようなものです』


 アイリスの辛辣極まりない、しかし一切の反論の余地がない評価に、俺は内心で深くため息をつく。


『彼らの音響シグネチャ(発生音)は、平原で重機を稼働させているのに等しいレベルです。生存戦略として極めて非合理的。直ちに彼らを見捨て、単独での隠密行動に移行することを強く推奨します』


(そうはいかない。俺一人じゃ、この深さまで潜るための『ギルドの許可クリアランス』が下りない。それに、俺の権限では最深部へのゲートは開かないからな)


 俺がなぜ、こんな無能なポーターを演じてまで、視聴者からのヘイトを買いながら他人のパーティに潜り込んでいるのか。

 目的はただ一つ。ダンジョン深層部、さらにその奥にしか存在しない『深層コア』の回収だ。

 それを手に入れるためには、どうしてもS級パーティの「特権」を利用して、深層エリアを隔てる強固なゲートを通過する必要があった。だからこそ、俺はこの道化たちの荷物持ちという屈辱的な契約にサインしたのだ。


 それに、俺には「いざという時でも、安易に手出しができない」という絶対的な理由がある。

 もし俺がこの場で動けば、前衛にいるガレルたちを無傷で守り切ることは、極めて困難になるからだ。

 俺の持つ力は、対象を「制圧」するものではない。「殲滅」し、「更地」にするためのものだ。

 その巻き添え(コラテラル・ダメージ)を避けるためには、俺は武器を抜くわけにはいかない。剣も魔法も使えない底辺職として罵られようと、今はまだ、その時ではない。


「おら、着いたぞ! 第30階層のボス部屋だ!」


 ガレルの興奮した大声で、俺は思考の海から引き戻された。

 彼が立ち止まり、大げさな身振りで、巨大な黒鉄の扉を指差す。扉の表面には、禍々しい古代のレリーフがびっしりと刻まれており、そこから滲み出る魔素だけで肌がピリピリと粟立つようだった。


 配信の同接数は、ボス戦の気配を察知して一気に跳ね上がり、すでに十五万人を突破しているらしい。ARウィンドウが、大量の投げスーパーチャットの派手なエフェクトで埋め尽くされる。


「さぁて、視聴者のみんな! ここからが俺たち『紅蓮の剣』の真骨頂だ!」


 ガレルが、最も自分の顔が格好良く映るアングルのドローンカメラに向かって、ウインクを飛ばす。


「この第30階層のボス、最速タイムでミンチにして、俺たちのS級の力を見せつけてやるぜ! おい、ポーターのおっさん! お前は絶対に俺たちの射線に入るなよ! そこで震えて、俺たちの背中を見とけ!」


 コメント欄が『ガレル最強!』『無双タイムキタ━(゜∀゜)━!』『歴史的瞬間を見逃すな!』と、熱狂的な爆発を見せる。

 俺は無言のまま、彼らから十分に距離を取った後方の隅に、重いバックパックをゆっくりと下ろした。


『……マスター。広域索敵システムに、異常な反応を検知』


 その時、アイリスの声が、普段の機械的なトーンから一段と冷たさを増した。


『前方の強固な扉の奥から、事前のギルド観測データを遥かに凌駕する、膨大な熱源および高密度の魔力反応を検出しました。既存のデータベースにある第30階層のボスとは、明らかに波長が異なります』


(……イレギュラーか。ギルドの情報網も当てにならないな)


 俺は荷物の陰に半身を隠し、腰の目立たないポーチから、ひっそりと漆黒のタクティカルグローブを取り出した。指先から手首までを隙間なく覆う特殊繊維の布地を、ゆっくりと手に嵌め、いつでも「それ」を呼べるように準備を整える。


『はい。現在の「紅蓮の剣」の戦力、彼らの致命的に脆弱な陣形、および使用可能な武装データをベースに、生存限界までの戦闘シミュレーションを実行しました』


 俺の脳内に、複雑極まりない弾道計算、敵の予測機動、そして確率論の数式が、凄まじいスピードで流れ込んでいく。


『……計算完了。あの扉が開いた後、彼らがこの空間で原型を留めて生存できる確率は、わずか「12%」です』


 その数字は、アイリスからの事実上の「全滅宣告」だった。

 ダンジョンにおいて、生存確率が九割を切るような戦闘は、プロフェッショナルであれば絶対に避けるべき愚行だ。


(……12%、ね。素人が気合と根性だけでどうにかできる数字じゃないな)


 俺は薄く笑い、これから開かれる地獄の扉の前に立つ、危機感のかけらもないS級パーティの無防備な背中を見つめた。


『マスター。味方の生存率の著しい低下に伴い、交戦規定(ROE)の更新を要求しますか? システムにロックされている武装のセーフティを、一部解除しますか?』


(いや、まだだ。待機しろ、アイリス)


 重々しい地鳴りのような音を立てて、強固なロックが外れ、ついにボス部屋の黒鉄の扉が開かれる。

 その隙間からあふれ出したのは、S級パーティの浅薄な自信と慢心を瞬時に粉々に打ち砕くほどの、絶対的で、理不尽なまでの凶悪な殺気だった。

 ガレルの顔から、先ほどの余裕の笑みが、氷水を浴びせられたように引きつって消え失せる。


 俺は暗がりの中で息を潜め、冷たい目でその光景を観察しながら、その時が来るのを静かに待つ。

 彼らが絶望に沈み、悲鳴を上げて逃げ出し――俺の『射線』が完全にクリアになる、その瞬間を。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【★★★★★】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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