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R.I.P.末期ギャン ―異世界転生―  作者: 黒瀬雷牙
第三章 アダマンティア大陸 編

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第百四話 一部の魔物にも文明はあるらしい

 夕暮れ。


 俺は重い足取りで宿へ戻ってきた。


「ただいま……」


 宿の食堂へ入ると、イベルタとサトコが既に席へ座っていた。


「あ、お帰りなさい」


 イベルタが笑顔で手を振る。


「遅かったですね」


 サトコも静かに言う。


「腕相撲大会はどうでした?」


「それがな……」


 俺は椅子へ腰を下ろし、大きく息を吐いた。


「決勝戦の直前に、リザードマンの襲撃を受けた」


「えっ?」


 イベルタが目を丸くする。


 俺はブレイブリィで起きた出来事を、一つひとつ話していった。


 リザードマン族、濁り雨、トオルという預言者。

 そして、最後に族長が撤退を決断したことまで。


 二人は黙って聞いていた。


「……なるほど」


 サトコが静かに呟く。


「完全に情報操作ですね」


「ああ」


 俺は頷いた。


「どう考えても、リザードマン達も被害者だ」


 しばらく沈黙が流れる。

 俺はふと思い、イベルタへ視線を向けた。


「そういえば、一つ聞きたいんだが」


「はい?」


「この大陸の魔物って、みんな文明を築いてるのか?」


 ガルディア大陸では、ゴブリンもオークも魔物だった。


 言葉は話さない。

 ただ群れて襲ってくるだけの存在だった。


 だが、この大陸では違う。リザードマンは言葉を話し、集落を持ち、族長までいた。


 イベルタは少し考えながら答えた。


「いえ、文明を築いているのは一部だけです」


「一部?」


「はい」


 イベルタは指を折りながら説明する。


「まず、今日お会いしたリザードマン族」


 一本目。


「山岳地帯に住み、槍術や狩猟を得意とする種族です」


 二本目。


「それから、山岳に集落を築く獣人、コボルド族」


「獣人?」


「はい。犬や狼に似た姿をしています。職人気質で、ドワーフとも交易を行っていたそうですよ」


「へぇ」


 三本目。


「そして、山岳高地に住むハーピィ族」


「翼を持つ魔物か」


「ええ」


 イベルタは静かに頷く。


「彼女達も独自の文化を持ち、空の集落で暮らしているそうです」


 なるほど。つまり、この大陸では知能の高い種族だけが文明を築いているらしい。


「じゃあ、ゴブリンは?」


 俺が尋ねると、イベルタは首を横に振った。


「ゴブリンはガルディア大陸とほとんど変わりません」


「変わらない?」


「徒党を組むことはありますが、文明を持つほどの知識はありません」


「なるほど」


 やっぱりゴブリンはゴブリンか。


「他にも、トロールやゴーレムなどは知性を持たない、普通の魔物です」


 イベルタは言った。


「洞窟や山岳を彷徨い、人を襲うこともあります」


「文明どころか会話もできないのか」


「はい」


 俺は腕を組んだ。


 どうやら、この大陸でも全ての魔物が知性を持つわけではないらしい。文明を持つのは、ごく一部の高い知性を備えた種族だけ。


 そして、その一族同士が今、何者かによって争わされようとしている。


 四天王トオル。その男は人だけでなく、異種族同士の信頼までも壊そうとしていた。


「なるほどな……」


 文明を持つ種族と、ただ本能で生きる魔物。

 同じ魔物でも、その違いは想像以上に大きかった。


 その時だった。


「一つ、よろしいでしょうか」


 サトコが静かに手を挙げた。


「ん?」


 イベルタが視線を向ける。


「先程、ハーピィ族は()()()と仰っていました」


「ええ」


「つまり、ハーピィは女性しか存在しないのですか?」


 イベルタは少し考える。


「……私も実際に見たことはありませんが、文献では女性しか確認されていませんね」


「やっぱりメスだけなのか」


 俺も思わず口を挟む。


「じゃあ、どうやって子孫を残すんだ?」


 イベルタは少し困ったように笑った。


「そこが、魔物と人間の大きな違いなんです」


「違い?」


「魔物は必ずしも両親から生まれるわけではありません」


 その言葉に、俺とサトコは同時に首を傾げた。


「どういうことだ?」


「強力な上位種の魔物は、自らの魔力で新たな魔物を生み出すことができると言われています」


「作る……?」


 俺は思わず聞き返す。


「はい」


 イベルタは静かに頷いた。


「もちろん、人間のように親から子へ命が受け継がれる場合もあります」


「でも、それだけじゃない?」


「ええ」


 イベルタは続ける。


「例えば、一体の強大な魔物が、自身の魔力を分け与え、新たな個体を誕生させることがあります。そのため、父親や母親という概念が曖昧な種族も少なくありません」


「へぇ……」


 人間とはまるで違う生態だった。


「だから、ハーピィ族のように女性しか確認されていない種族でも、長い年月をかけて繁栄できるんです」


 サトコは小さく頷く。


「なるほど」


 少し考え込むように視線を落とした。


「つまり、強大な魔力を持つ個体ほど、一つの種族そのものを存続させる力を持っている、と」


「そういうことになりますね」


 イベルタは答える。


「だからこそ、魔王級の魔物は特別視されます」


「魔王級……」


 俺はその言葉を反芻した。


 一体の存在が、一つの軍勢を生み出す。

 もしそんな怪物が本当にいるのなら——。


 この世界で()()と呼ばれる理由も、少しだけ理解できた気がした。

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