情報共有と宣戦布告
「完全勝利っ!」
事前の取り決めを律儀に守り、大人しく去っていく暴漢たちを見送って、カナは勝利の歓声を上げた。
そこへ、みのりんが横から声を掛ける。
「いや、信じてはいたけどさ、相変わらず無茶苦茶だね、カナちゃん」
「おおう!? みのりんじゃん! すまねーな、遅れちまって! って、そっちは、さっきの兄ちゃん!」
「ど、どうも。先ほどは、お世話になりました」
唐突に登場した、みのりんに驚いた様子のカナだったが、その隣のラックを見て表情を安堵に変える。
そして、嬉しそうに、こちらへ寄ってくると、ラックの肩をバンバンと叩いた。
「いやぁ、あんた無事だったんだな! いつの間にか消えてっから、ちゃんと逃げられたんだとは思ってたけど、実際、何もなかったみたいで安心したわ!」
「は、はい! 本当に、ありがとうございました! あの、僕はラッカードと申します。先ほど、みのりんさんにも自己紹介しましたが、カナさんも気軽にラックと、お呼びください!」
「おう、ラック! また何か因縁でも付けられたら、遠慮なく呼べよな。力なら貸してやっから!」
さほど身長の変わらないラックと、気安く肩を組んで、カナが頼もしく宣言する。
そんなカナの態度に、ラックは顔を赤く染め、慌てた様子で距離を取った。
年の近い異性とのスキンシップは、真面目そうな彼にとって刺激が強いのだろう。
「い、いえ大丈夫です! 僕も、いつまでも弱いままでは居られませんので。……それより、何かお礼がしたいのですが」
「礼? 礼なら、さっき言ってくれたろ? 言葉以外のもんは要らねぇよ。それより、みのりん! 早く冒険に行こうぜっ!」
そう言って、慌ただしく、みのりんの手を掴んで走り出すカナ。
当然、みのりんも、強制的にダッシュを余儀なくされる。
「あっ、ちょ、引っ張るな~! ラックさん、またねー!」
「えっ、あの!? 待ってくださいぃぃぃー! 何か、お礼をぉぉぉー!」
呆気に取られた様子のラックを置き去りにして、二人は街の雑踏に紛れていった。
……。
…………。
………………。
「で、なんで私は、散々引き回されたあげく、カナちゃんに奢る事になってるのかな?」
「堅いこと言うなって! まだゲーム始めたばっかで、金がねぇんだよ。それに、冒険前の腹ごしらえと、情報共有は必須だろ?」
場所は第1層の、いつものオープンカフェ。
二人は空いている席を適当に確保して、注文したドリンクと軽食をつまみながら、雑談を交わしていた。
「なら素直に、お礼を貰っておけば良かったのに~。商人さんって言ってたから、結構お金もってたはずだよ?」
「ヒーローは人助けで金や物を受け取らねぇのさ。報酬は笑顔と言葉だけで充分だ」
「はぁ……相変わらずだねぇ」
カナの主張に溜め息を吐きつつ、みのりんは自分のお金で注文したメロンソーダに口を付ける。
パチパチとした感覚が現実よりも強く、口の中に広がり、なんとなく気分がすっきりした。
ちなみにカナは、みのりんの金で注文した、サンドイッチとハンバーガー、ホットドッグにホットケーキをガツガツと喰らい、コーラで喉を潤している。
見ていて気持ちの良い食べっぷりだが、自分の奢りなので、みのりんは複雑な気分だ。
そうして一息ついてから、みのりんは、まず先程の戦闘を振り返ることに。
「最後のアレってさ、やっぱり私が教えた奴だよね?」
「おうさ! 地面が簡単に掘れ過ぎたせいで、奈落に落ちたって聞いたからよぉ。どんなもんかと思って、俺様も少し試してみた訳よ。したら、マジで簡単だったわ。どーやら、地面を掘る時だけその場所が砂に変わるっぽいな!」
【ネバーランド】の大地は、基本的には硬い土に設定されている。
もちろん、最初から砂になっているエリアや、沼になっているエリアもあるが、それはごく一部。
しかし、普段どれだけ硬い大地でも、プレイヤーが【掘る】と意識して、該当するアクションを行えば、簡単に掘ることが出来る仕様となっている。
具体的には、力が加わった部分のみ、形状が土から細かい粒子の砂に変わるのだ。
それを知っていたカナは、デュエルの時に、この仕様を利用したと言う。
つまり、勝負を持ち掛けたとき、既に自分に有利なフィールドを整えていたのだった。
「勝負事になると、本当に抜け目ないな~。普段は脳筋なのに」
「おいおい、みのりん。俺様は脳筋じゃねーって、いつも言ってるだろ? ……俺様の筋肉は魂まで染まってるからな! 脳筋じゃなくて、魂筋だぜっ!」
「ホント好きだよねぇ、そのフレーズ」
ちなみに、最初は下ネタ的な読み方だったのだが、それを聞いた、もう一人の友人が、ガチギレしたため、渋々、呼称を改めたというエピソードがある。
その友人——シオンとカナは何かと対立することが多く、またカナが折れることは滅多にないので、この件は珍しいパターンだ。
まぁ、自分でも、さすがにどうかと思っていたのかもしれない。
そこまでして、【魂まで筋肉】のフレーズに拘る理由も、良くわからないが。
「まぁ、それはそうと、悪かったなぁ。遅れちまって。少し散歩するだけのつもり、だったんだけどさぁ」
「まぁ、カナちゃんの遅刻癖には、もう慣れっこだし、気にしないよ。それに、いつもトラブルで困っている人を助けてるからね」
「わりぃな。どうも俺様は見て見ぬふりって奴が我慢ならなくてよぉ」
そう、カナが遅刻する理由は、本人の好奇心やトラブル体質に加えて、人助けをしていることが挙げられる。
だからこそ、シオンや他の皆も、注意こそすれ、カナを見限ることは無いのである。
「でも、トラブルに巻き込まれそうなら、連絡くらいしてよね。手伝えないでしょ?」
「いやー、俺様が俺様の勝手で首を突っ込んでんのに、ダチに頼るのはなぁ」
「じゃあ、私も、私の好きで勝手に力を貸すけど、問題ないよね~? っていうか、頼るのが嫌なら、ここの料金は自分で払うの?」
「そ、そりゃあ今は無理だけど、後で返すぜ? なんなら利子つけたって良い!」
「いや、利子とかは別に良いけど。じゃあ、代わりに今度からは、きちんと相談すること。約束できる?」
「くっ……お前は俺様のオカンかよ。わーった、次からは、みのりんにも声を掛けるよ」
「私だけじゃなくて、皆にもね? ネネちゃんも、シオンちゃんだって、カナちゃんのことが大好きで、心配してるんだからさ」
「だ、大好きとか……バッカじゃねーの」
いくら口で強がってみても、顔も耳も真っ赤に染まっているので説得力はない。
カナは好意をストレートにぶつけられると、途端にしおらしくなる傾向がある。
そんな時のカナは、ネネとはまた違った女の子らしい魅力に溢れているので、みのりんのお気に入りだ。
『はぁ……ツンデレって、萌えるよねぇ♪』
カナの頭をヨシヨシと撫でたい衝動に駆られる、みのりんだったが、カナが嫌がるのを知っているので、泣く泣く堪えた。
たまに、カナが目の前で眠っている時は存分に撫で回せるので、それまでの辛抱だ。
「な、なんだよ、その微笑ましいものを見るような顔は!? そんな事より、こいつを見てくれ!」
そう言って、カナはメニュー画面を開いて、みのりんに突き付けた。
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称号一覧
【修羅】
効果:他プレイヤーやNPC、
または人型のモンスターと戦闘時に、
全てのステータスが2倍になる。
その他の敵との戦闘時には、
全てのステータスが半分になる。
獲得条件:モンスターと1度も戦闘せずに、
累計100人以上のプレイヤー、
またはNPCと戦闘する。
【武装放棄】
効果:武器と防具を装備していない時、
機動力が2倍になる。
獲得条件:武器・防具・アイテムを使用せずに、
敵を100体倒す。
【ステゴロ上等】
効果:素手で、かつMPが最大値の時、
攻撃力が2倍になる。
獲得条件:素手で、かつMPを消費せずに、
自分よりレベルが高い敵を、
100体倒す。
【要塞】
効果:HPが50%以上の時、防御力が2倍になる。
獲得条件:自分よりレベルが高い敵100体と、
戦闘してもHPが50%を切らない。
(回復手段の使用で計測リセット)
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「うわぁ……」
カナが見せてきたのは、恐らく、先程の暴漢たちとの戦闘で得た称号だろう。
その内容に、みのりんは思わず呻き声を漏らした。
「な、なんだよ?」
「いやぁ……なんて言ったもんかと」
実質、一度の戦闘で、4つも称号を獲得したこと。
その称号の内容が、ぶっ飛んでいること。
色々と言いたい事はあるが、取り敢えずドン引きしたのは間違いない。
「これって、アレだろ? みのりんが奈落に落ちて手に入れたっつー奴だろ?」
「うん、まぁ種類は違うけどね。普通にプレイしてたら満たせないような条件を達成すると、手に入るみたい」
「ふーん、武器を使わねぇって縛りプレイをしてる俺様には、ありがたいな! あんまり便利すぎると縛ってる意味もなくなるけどさ」
「すごい、極端な能力ばっかだよねー。カナちゃんでないと使いこなせないと思う」
「だよな、だよな! 俺様も、そう思ってたんだよ! つー訳で、みのりん、勝負しようぜ!」
「…………はい?」
テーブルから身を乗り出したカナの唐突な宣戦布告に、みのりんは間の抜けた声を漏らしたのだった。




