気合いと調薬
「みのりん、大丈夫でしょうか……」
「お仲間の方が心配ですか? 練習は、いつでも出来ますから、中止しても構いませんよ?」
「……いえ、やっぱり続けます。今は、みのりんも気まずいと思うので。それに、まだ納得のいく成果が出てませんし」
みのりんが山で楽しく狩りに励んでいる頃、一方のネネは、調薬の一環で釜の中をぐるぐると、かき混ぜていた。
素材に関しては、トーシローが練習用に、いくつか融通してくれた物を使っている。
しかし、みのりんの事で気が散っているせいか、はたまた別の原因か、ネネの調薬は難航中だ。
「出来ましたか。……けど、やっぱり、まだ質が良くないですねぇ」
ネネが完成させた薬を見て、トーシローは苦い表情を見せる。
とはいえ、ネネはトーシローの寸評を聞く前から、出来の悪さを自覚していた。
なにせ、アイテムの説明覧には、【効果なし】の文言が刻まれているのだ。
これで成功だと言われる方が驚きである。
「うーん、手順は教わった通りになぞっている筈なんですが、何がいけないんでしょう?」
「……分かりました! 今のネネさんに足りないもの。それは、【気合い】です!」
「……………………えっ?」
いったい、どんな原因かと身構えたものの、提示された答えは、まさかの根性論。
ネネは、あまりの驚きで、たっぷり数秒間、思考を止めてしまった。
これが現実の世界なら、まだ納得も出来たかもしれない。
しかし、ゲーム内のアクションに自分の精神状態が、どう関わると言うのか。
「お気持ちは分かります。調薬は純粋な理論の組み合わせ。そこに精神が影響することはない。そう、考えてますね!?」
「ええ、まぁ……」
なにやら、熱が入ってきた様子のトーシローに、ネネは若干、たじろいだ。
そんなリアクションも、お構いなしに、トーシローの熱弁は続く!
「そう! まさに僕も調薬を習い始めた頃は、そう考えていました! 調薬に精神論なんて関係ないと! でも、お婆ちゃんを見ていて気付いたんです。何のために調薬をするのか、それを意識することが重要だって!」
「なんのために……ですか」
そう言われれば、少しは思い当たることもある。
確かに、ネネは言われた手順をまさしく【なぞる】だけで、どんな薬を作りたいとか、その薬で何がしたいとか、そんな事は考えていなかった。
しかし、本当にそれが調薬の結果を左右しているとしたら、信じられない技術力だ。
プレイヤーの精神状態をリアルタイムで読み込み、反映するゲームなど、聞いたことがない。
【ネバーランド】が発信している、世界最高のクオリティという謳い文句も、あながち嘘では無さそうだ。
「気合い、根性、執念など、言い方は人それぞれですが、要するに何かを為したいと願う強い意志を調薬に込められるかどうか。それが調薬の成否に関わっていると、僕は考えます。……まぁ、お婆ちゃんに、はっきりと言われた訳ではないので、あくまでも僕個人の意見ですけど」
最後は照れ臭そうに頬を掻きつつ、トーシローは話を締めくくる。
その内容に、ネネは素直に聞き入っていた。
「そう……ですよね。何事も強い意志って大事ですよね。だから、きっと、現実でも私は……。普段、みのりんと一緒にいて、分かってた筈なのに……」
少しのショックと自己嫌悪。
しかし、それを理由にウジウジと悩んで、足を止める悪癖は、自覚している。
なので、そんな暗い思考を振り払うべく、ネネは両手を頬にペシッ! っと、当てて気合いを入れ直した。
……とはいえ、ゲームの中なので、あまり痛みは感じない。
まぁ、こういうのは気分の問題だ。
「どうやら、何か吹っ切れたようですね。では、そんなネネさんに、僕から一つ課題を出しましょう!」
「はい、よろしくお願いします!」
どんな難しい課題でも乗り越える!
やる気に満ちた今の自分に、怖いものなど何もない!
そんな風に考えたネネだったが——、
「それじゃあ、今からモンスター討伐に向かってもらいます! そうだな……【終焉の魔帝:ドラグニル】辺りに挑戦しましょう! あっ、僕も付き合いますから、ご心配なく!」
「……すみません、さすがに、それはちょっと」
予想の遥か斜め上の難題を吹っ掛けられ、すかさず待ったを掛けたのだった。




