遺産の行方
「-とまあ,こんな感じ。これがこの3日間,潜水館で起きた全てなんだ」
二郎は経緯をすべて三枝に話した。
二郎の話を黙って聞いていた三枝が,久しぶりに口を開く。
「二郎兄さん,私を殺すつもりなの?」
「え??」
予想もしてなかった質問に,二郎は腑抜けた声で聞き返す。
「だって,これで残ったのは私と二郎兄さんの2人よ。相続財産は2人の争いになるわ」
「いや,俺は四郎ほど金の亡者ではないよ。2人とも生き延びたんだから,2人で半々に分ければいいじゃないか。半々に分けたって宝くじの一等を何十回も当てただけの金額が手に入るんだぜ」
「嬉しい。二郎兄さんは優しいのね」
そういって三枝は両手を広げて二郎の方に歩み寄ってきた。
そして,二郎にハグをする。
二郎もハグをし返す。
次の瞬間,二郎は腰のあたりに激しい衝撃を感じた。
二郎はその場で倒れこむ。身体は言うことを聞かないが,かろうじて意識だけ残っている。
三枝の手には何か黒光りする機械のようなものが握られているのが見える。
「護身用に持ってたスタンガンよ」
二郎の視線に気がついたのか,三枝が答えた。
「二郎兄さんごめんね。今から警察を呼ぶから少し待っててね」
「警察…?」
二郎は口をなんとか動かし,かろうじて言葉にする。
「そう。警察を呼んで,一郎兄さんと五郎を殺した罪で,二郎兄さんを逮捕してもらうの」
一体三枝は何を言っているのか。状況が全く飲み込めない。
「だって,証拠は十分でしょ? 犯人はコントロールパネルのある部屋で起臥していて,かつ,一郎と五郎の血が染み付いた洋服を着ている者なのよ。二郎兄さんは,昨夜,四郎の部屋で寝ていたから,二郎兄さんの髪の毛や指紋なんかが四郎の部屋,すなわち,コントロールパネルのある部屋にたくさんあるはずよ。それ以前には四郎が起臥してるんだけど,そのときの形跡はすべて洗い流されてるはずね。あとで2と4のナンバープレートを交換しちゃえばさらに確実ね。それから,二郎兄さんは今,四郎の服を着ているわ。その服には一郎と五郎を殺した際の血が染み付いてるはず。動かぬ証拠ね」
「…おい,な…なんのためにそんなことをするんだよ…?」
「お金のために決まってるじゃない」
三枝は堂々と答える。
「だって,さっき二郎兄さんも言っていたとおり,相続人を殺した殺人犯は相続から排除されるんでしょ。二郎兄さんが殺人の罪を被れば,二郎兄さんは相続から排除される。そうすれば,すでに一郎兄さんと五郎は死んでるし,四郎はこの館から逃げちゃってるから,相続人は私一人だけだわ。多額の遺産を私が独り占めできるの。最高じゃん」
三枝は満面の笑みだった。
女というのはどこまでも強情で,本当に怖い生き物である。
三枝はポケットから携帯電話を取り出すと,110番通報をした。
(了)
皆様,拙作「潜水館の殺人」を最後までお読みいただきありがとうございました。
さすがに構想1日,執筆1日なので,荒削りかとは思いますが,日々忙しく,このタイミングしかまとまった執筆時間が取れなかったため,慌てて書き切りました。
しばらく推理小説を全く書いていなかった僕にとって,とにかく一作書き切ることに意義があったと思っています。ここを皮切りにどんどん新作推理小説を作っていきたいです。
今作は綾辻行人大先生をリスペクトした「館シリーズ」でした。
一昨年と昨年に一気に綾辻先生の作品を読んだ私は,自分でも館ものが書きたくて仕方なくなりました。
しかし,過去にプチバズった「殺人遺伝子」からも見て取れるように,菱川が得意としているのは心理や制度を利用したトリックであって,物理トリックは苦手なのです。そのため,館ものを書く資格が菱川にはありませんでした。
そんな中,なろうで,天草一樹様の「八角館殺人事件」を読み,改めて館もの,物理トリックの魅力に取り憑かれてしまいました。
どうしても書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい。
そんな気持ちだけで書き切ったのが本作です。正直,構想含めて2日間でこれだけの文章量を書いたのは初めてです。体力的には相当しんどかったですが,頑張りました。
なんとなく館ものを書くならば,水を使った仕掛けがよいとずっと思っていました。
水圧で開かなくなる扉,という発想が浮かぶまでは時間がかかりましたが,そこからは比較的安産だったように思います。
そして,最後の三枝による「策略」ですが,これは最初は入れる予定ではなかったのですが,菱川のイヤミス癖が出てしまいました。なろうだとハッピーエンドの方がウケることは常識中の常識なのに。
作者としては、異世界転生もの同様に、館シリーズがなろうのテンプレになれば嬉しいなと思ってます。
①館に複数の人間が集められる
②館には特殊なカラクリが施されている
③毎日一人ずつ殺されていく
④クローズドサークル
⑤密室
みたいな要素を取り入れた作品ですね。
今作で一応推理小説を形にできたので,現在連載中の「イチオシの美少女YouTuberが家賃滞納で家を追い出され、『緊急企画』と称して俺の家に転がり込んできた」を連載しつつも,次の推理小説の構想を練りたいと考えています。
現在,2つほど長編推理のアイデアがあり,本作と同じくらいの長さの推理のアイデアが一つあります。
後者については,また時間があれば1日か2日程度で書けると思うので,もしかすると来週あたり日の目を見せられるかもしれません。
あまりにも留守にしすぎましたが,今後とも菱川あいずのことをよろしくお願いいたします。
また本作を少しでも気に入っていただけた方や最低評価をつけてやりたいという方は評価をいただけると、今後もこの作品がなろうに稀に生息しているミステリーファンに届くことになるので、ご協力お願いします。




