疑心暗鬼
「一体これはどういうことなの!?? ありえないわ!!」
三枝は発狂する寸前だった。叫びたい気持ちは二郎も同様だった。
「五郎に続き,一郎兄さんまで!! しかも全く同じ手口じゃない!!」
元々5人いた兄弟姉妹はたった2泊の間に3人になっており,机を囲んでも椅子が2つ余る状態となっていた。
三枝は涙を溜めた目で,二郎の方に振り返る。
「ねえ,二郎兄さん,説明してよ!! 一体何が起きてるの!!?」
「悪いけど,僕にも全く何がなんだか分からないよ。兄さんの部屋にも隠し通路はないし」
死体を発見してすぐ,3人は一郎の部屋の隠し通路を調べた。五郎の部屋を調べたときと同じように隅々まで探索したものの,秘密の出入り口はどこにもなかったのである。
「じゃあ,どういうことなの!!?? 五郎と兄さんの首を刃物で切ったのは誰なの!!? それとも人間じゃない何かなの!!?」
この答えにだけ関して言えば,二郎は,おそらく人間の仕業だろうと思っていた。
AIの殺人兵器というのも今はあるようだが,他に外傷を残さずに首だけ適確に狙うということまでできるのかどうか分からない。
それに血痕が残っていないということは,死体を運んだか,掃除をしているということなのである。人間が介在しているとしか考えられない。
しかし,人間は,密室となった客室に出入りすることはできない。ここに大きな矛盾がある。
「もしかすると,壁をすり抜けられるお化けでもいるのかしら??」
三枝の発言は突拍子もないように見えて,今目の前に起きている現実を説明する一つの手段であるような気がした。壁をすり抜けることができるお化けが客室に侵入し,また壁をすり抜けて出て行く。全くもって非科学的だが,それくらいのことが起きないと,五郎や一郎はあんな風に殺されないはずである。
いや,と二郎は首を振る。
実際に目の前で起きている以上は,なんらかの科学的,合理的な説明ができるはずなのである。そして,仮に「犯人」が人間だとすれば,二郎が犯人でないことは二郎自身よく分かっているから,犯人は三枝か四郎の2択なのである。隠し通路がない以上は,外部犯の仕業ということは考えられない。
二郎は,2人の顔を見比べる。
率直な印象だけで判断するならば,四郎の方が犯人っぽい。四郎は口数が少なく,つかみどころがない男である。頭の中で一体どのようなことを考えてるか分からない。
他方で,三枝は,もっとも犯人ではなさそうな部類の人間である。五郎が死んだときも一郎が死んだときももっとも取り乱しており,顔色も明らかに悪くなっている。これで三枝が犯人だとすると,相当な女優であると言わざるをえない。
いくら疑心暗鬼となったところで,肝心の殺し方が分からないとどうしようもない。
果たして犯人はどのようにして五郎と一郎を殺したのだろうか。