考察
この日もやはり広間の浸水が始まったのだが,一点おかしなことがあった。
浸水が開始した時刻が,夜の9時を2分過ぎていたのである。
もしかするとこの館の放水のスタートを司るタイマーが狂い始めたということからもしれないが,一昨日と昨日はともに9時ちょうどに開始していたため,不審感は拭えなかった。
今回の浸水開始時に広間にいたのは二郎と三枝であった。
三枝は水を恐れるように,客室へと走って向かった。
二郎はいつもより長く広間に残り,何か異変が起こらないか観察していたが,何も起こらなかったため,膝下まで水に浸かったところで,客室へと向かった。
残された兄弟姉妹は3人。本日二郎がターゲットになる可能性は3分の1である。
いや,仮に犯人が三枝か四郎なのだとすれば,犯人にとってのターゲットは2名しかいないのであるから,ターゲットになる可能性は2分の1となる。
夜のことを考え,昼間のうちにベッドで寝ておいたため,眠気は襲ってこない。一晩中を起きて過ごすことはできるだろう。
とはいえ,犯人の手口が分からなければ,ただ起きていれば助かるということでもないだろう。
犯人が襲ってくるまでに,二郎はどうしても例の2つの謎の答えを見つける必要があった。
1つ目の謎は密室である。
水圧が作り出す密室。推理小説の世界でもなかなかお目にかかれない特殊な密室である。
水圧が絡むと複雑なような気もするが,実は仕組みは極めて単純で,単なる力の問題である。つまり,ドアが開かないのは,ドアを開けるための力が足りないからであって,仮に超人的な力があれば,密室を破ることはできる。
とはいえ,具体的に計算することはできないが,必要な力は莫大なものだろう。重機等に頼らなければ力技でドアを突破することは不可能だ。
とすると,やはりこれは密室なのである。人間の力ではドアを開けることはできない。
2つ目の謎は血痕がないことである。
やはりこれは論理的には掃除をしたか,死体を移動させたかしか考えられないだろう。
結局この謎が謎として残り続けているのは,密室のせいである。仮に密室でなく,人が出入りできるのであれば,掃除も可能だし,死体の移動も可能だ。
とすると,結局は1つ目の謎に収斂する。一体どうやって水圧のかかるドアを開けたのか,ということである。
ここまで整理できても,二郎はここから先どのように考えを進めていいのか分からなかった。水圧のかかるドアを開ける方法などありえない。結局推理は頭打ちだ。
ここまでがいわゆる「事件」パートです。
ここから先が「解決」パートになります。
ここまで出てきた事情から,WHO DONE IT(誰が犯人か)も一応当てられるようにはなっているのですが,本作の最大の謎はHOW DONE IT(どのように犯行を行ったか)ですので,その点について,「解決」パートを読む前に考えていただけるとありがたいです。
具体的には,犯人はどのようにして「密室」にいる被害者を殺害したかです。
大胆かもしれませんが,かなりシンプルなトリックです。
ヒントはまさに本話です。二郎がなかなか良い考察をしています。




